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スイス金融当局、AT1債関連文書の開示に抵抗 

クレディ・スイスの看板
KEYSTONE/© KEYSTONE / URS FLUEELER

昨年のUBSによるクレディ・スイス(CS)買収で損失を被った投資家が起こした90億ドル(約1兆4000億円)相当の訴訟で、訴えられたスイス金融当局は原告が求める重要文書の開示を拒否している。 

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CS買収に介入したスイス連邦政府の判断をめぐり、総額90億ドル以上の訴訟が起こされている。原告は、CSが発行したAT1債(永久劣後債)を保有していた投資家だ。AT1債は銀行債務の一種で、銀行が経営難に陥った場合には株式に転換したり、元本を減額したりできる。スイス連邦金融市場監督機構(FINMA、日本の金融庁に相当)はCS救済にあたり、170億ドル分のAT1債を全額無価値化すると決定した。 

原告は、FINMAはスイスの納税者がCS救済に伴う経済的な負担を被らないように債務帳消しを図ったが、その条件は満たされていなかったと訴える。 

訴えの一環として、FINMAの決定と、偶発転換社債(CoCo債)によるボーナス支払いに関する文書の開示を求めている。 

FINMAは先月、訴えを受理したスイス連邦行政裁判所(所在地・ザンクト・ガレン)に書簡を送り、当該文書の公開により信頼が損なわれ、スイス国家に対する訴訟が増えると主張した。 

フィナンシャル・タイムズ(FT)が入手した書簡には、「機密の手続き文書が原告に渡れば、FINMAに共有した情報の機密性に対する被監督者の信頼が永久に失われる可能性がある。そうなればFINMAの監督行政が著しく難しくなる」と記されている。 

FINMAの決定により、CSの株主が株式の対価として少額を受け取った一方で、社債保有者は損失を被った。これは通常の弁済順位を覆すもので、CS救済において最も大きな議論を呼んだ。 

FINMAは、AT1債を無価値化しなければCSを国有化するしか選択肢がなかったと主張している。 

AT1債保有者(多くは国際的なファンドマネージャー)がもう1つ憤慨しているのは、集団で訴訟を起こしているにもかかわらず、各原告に個別の事務手数料の支払いを命じたことだ。 

原告の1人は「どんな文明国でも冗談のような話だが、スイス当局は原告を苛立たせるというくだらない戦術を楽しんでいるようにみえる」と語った。 

原告らは裁判費用が集団単位で請求されるとみていた。だが行政裁は先月、各債権者が保有するAT1債の価額に応じて個別の手数料を支払う必要があると通告した。 

FTが入手した文書によると、保有債券額が1万フラン(約170万円)以下なら手数料は200フラン(約3万4000円)、500万フラン以上なら1万5000フランと幅広い。弁護士らは料金体系に異議を申し立てたが、行政裁に棄却された。 

FINMAを相手取った訴訟は、米クイン・エマニュエル・アークハート・サリバンやパラス・ロンドンなど国際法律事務所が仕切っている。 

スイス行政裁への訴えとは別に、スイス国家を相手取り国際仲裁裁判所で訴訟を起こす法律事務所もある。 

こうした訴訟は、国有化に伴い政府に資産を収用されるリスクから国内投資家を保護するための投資協定に基づく。スイスはこうした協定を120カ国以上と結んでいる。 

日本や中国、シンガポール、韓国などのAT1債保有者は同協定を根拠に、CS債務を帳消しにしたスイス国家に対する訴訟の準備を進めている。 

FINMAはスイス行政裁に宛てた書簡の中で、文書の開示はスイス国家を提訴する外国投資家にも利用される可能性があると警告した。 

「これにより、手続き文書が出回り制御不能になるリスクが大幅に高まる。これらの文書が民事訴訟法上の手続きを免れ、仲裁手続きや民事訴訟でスイス連邦やCSに不利な形で使われる可能性がある」と主張した。 

FINMAはFTに対し、スイス行政裁に詳細な協議資料を100件以上提出したと述べた。 

「FINMAはAT1債の無価値化について法廷で立場を表明している。無数の訴訟手続きをメディアを通じて行っているわけではない」と付言した。 

スイス行政裁は「通常は提訴の際に推定される手続き費用を前払いで請求する。手続き費用は、裁判手数料と経費で構成される」と述べた。 

著作権:The Financial Times Limited 2024、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子 

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