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スイスの食品 本物の味 

売り込みに熱心。シスター・クレアが作る修道院のマスタード swissinfo.ch

スイスのどこへ行っても、スーパーで扱っているのはお馴染みの製造会社の見慣れた食品だ。このような食品のグローバル化に抵抗する生産者もあり、食品見本市などを通し食品のイメージアップを図ろうとしている。

スイスにある本物の味を求めるため、スイス西部のビュル ( Bulle ) 市で開催された食品見本市を訪れた。

 味の専門家によれば味とは、人間の持つ5つの感覚の1つであり、食べられるものか、それとも毒であるかといったことを見分ける能力のことだという。筆者はそこで、自分の味覚がどれほどの能力を持つか試したいという気持ちでビュル市へ向かった。

試食は無料

 食品見本市のホールに入った途端、チーズの溶ける匂いが鼻をつく。ここはスイスだから当然か。ラクレットやフォンデュ。「毒 ( ? ) はよりどりみどり」といったところだ。きつい匂いもさることながら、ぎらぎら光るライトアップやディスプレイからして、とても高級レストランを思い起こさせるようなものはない。スイスの本物の味は、高級レストランとは無関係なのかもしれないと自分に言い聞かせる。

 250の出展者が参加するこの食品見本市。ともかく次から次へと試して歩くのが一番のようだ。すべての試食品はただでもらえることになっているのが嬉しい。とは言っても、ワインのスタンドは数多し。これをすべて試していたら二日酔いになりそうだ。というわけで、ワインはパスしようと思う。いったんホールを出て階段を降り、食欲をそそるような食べ物を求める旅に出た。

 ところが、次の展示ホールへ入ってびっくり。出展者はブースから出て、入場客に積極的にアプローチしている。たった今、飲まないようにしようと心に決めた筆者に、ワインのブースのイヴォンヌさんが、1杯飲んでと誘う。必ずまた来るからと約束する筆者。彼女がとても嬉しそうなのでそのことを尋ねると「お客さんと話せるのが楽しいんです。商品に熱心に興味を持ってくれる人がいるので」と微笑んだ。

オリジナリティ

 出展されたこれらの食品のどこが特別なのだろう。食品見本市の責任者ピエール・シュヴァーラー氏によると、人々は特別な味、オリジナリティのある味を求めているという。「この見本市を訪れる人たちは、レベルの高い飛躍的な商品を求めています。大量生産された食品を嫌う人たちです。狂牛病やダイオキシンに侵された鶏肉のスキャンダル以来、こうした傾向が強くなりました」と言う。しかし、2000年から開催されているこの見本市では、有機栽培農産物や高級食品が大手スーパーなどで扱われるようになったことにも批判的だ。

 会場を次から次へと渡って行くと、スイスの食べ物に多種多様な選択肢があることに驚かされる。手作りのチョコレートは、有名ブランドの「スシャール ( Suchard ) 」の工場で働いていた職人の手による。ポニーテールの担当者がアピールするのは蜂蜜とアブサン。チーズのテット・デ・モアン ( フランス語で僧の頭の意味 ) は、修道僧のコスチュームに身を包んでいるが実は修道院には無関係の人が売り込んでいた。

 正真正銘の修道女が、修道院で作ったマスタードのスタンドにいた。ロモン ( Romont ) 市の近くにある修道院フィル・ディユ ( Fille-Dieu /フランス語で神の修道女の意味 ) のシスター・クレアだという。マスタードには聖画のカードが付いている。

異端的チーズ

 筆者は未踏の航路を再びさ迷う。突然現れたのは、常識を破るショッキングなシーンだ。フォンデュといえば、伝統を重んじるスイス人にとってグリエールチーズが定番という信仰がはびこっている。ところが、目の前にあるフォンデュはヤギのチーズを溶かしたもの。スイスグルメの聖なる神の館において、ヤギのチーズを使うなどと誰が考えようか。筆者もどっぷりフォンデュ信仰に浸っているらしい。ヤギだから臭いと思ったが大間違い。いつも食べるフォンデュよりライトな味に驚く。

 見本市の責任者ベアット・クンツ氏の説明によると、ほとんどの場合、味は発見だが、記憶が影響することもあるという。「わたしがおいしいと思うのは、祖母が作ってくれたサクランボのスープです」と言う。思い出と味という話をクンツ氏としていて筆者が思い出したのは、「必ず戻ってくるからね」と言ったイヴォンヌさんとの約束だ。こんなに食べ物を抱えてどうやって戻るのか、思案する筆者だった。

swissinfo、スコット・カッパー 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

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