スイスはもはや「特殊なケース」ではない
スイス時計の正確さ、金持ちが安心してお金を預ける銀行、快適な休暇を過ごせるリゾートホテル、美味しいチョコレート…これまで、スイスはいろんな意味において“特別”の評価を享受してきたが、果たして今でもそうなのか、英国経済誌「エコノミスト」がスイス特集を組んだ。
特集の筆者、バーバラ・べック氏はスイスも経済面では世界的な不況の影響を受けるなど世界全体の流れに組み入れられつつあるが、政治的にみると欧州連合(EU)加盟に反対しているなど特異性がまだ残っているとみている。
世界200カ国、90万部数の発行を誇る信用の高い、英国経済週刊誌「エコノミスト」の2月14日号の「スイス特集」がスイスを再評価し、話題を呼んだ。以下、「エコノミスト」のスイス特集から抜擢。
後退するスイスのイメージ
特集ではスイスの完全無欠なイメージが初めて傷ついたのはここ十年余りの間に、永世中立国スイスが第二次世界大戦中、それほど中立ではなかったという史実が明るみに出てからだと分析する。スイス政府が戦時中にナチの金塊を買い取り、スイス銀行がドイツユダヤ人の冬眠口座の存在を黙っていたなど様々な暗い面が発覚した。スイスのイメージダウンの始まりだ。
伸び悩むスイス経済
経済面では2001年10月、スイスの確実性と信頼を代表するスイス航空の破綻がつまづきの始まり。1990年代以来、一人当たりの所得は変化なく、経済成長率も経済協力開発機構(OECD)諸国の平均の半分以下(1,25%)。スイス経済は輸出に頼っているため、ハイテクバブルの影響を直接受けた。スイスに本部を置く多くの国際企業(UBS、クレディスイス、ネスレーやロッシュなど)は世界的競争力があるが、国内では補助金に頼り、保護されているため競争力がない。ベック氏は「もはや、超金持ち大国ではない」と分析する。
薄れる中立性?
冷戦の終焉でスイスが外からの脅威に曝されなくなり、中立政策も見直されることになった。未だに北大西洋条約機構(NATO)など軍事機構に加盟することはないが、コソボの多国籍平和維持軍に軍隊を送りだし、2002年にはようやく国連加盟を果たした。スイスの中立政策を支え、スイス人のアイデンティティーを明確にしていた軍隊も1990年代後半から大改革を行っており、徴兵制度も今までと違って20代後半で終わることになる。これもまた、スイスの特徴である「中立」性が薄れてきたことの現れと見ている。
大海の中の小魚になりたくないスイス
政治面ではベック氏は昨年の総選挙で極右派、国民党の台頭によりコンセンサスを大切にするスイス政治にも変化の兆しが現れたとみる。カリスマ性の強いブロッハー国民党議員が内閣入りした背景には「EUに入るな」という国民のメッセージがあり、EU拡大にも不安を感じていると分析。スイスがEU加盟に反対しているのは自国の地方分権、直接民主主義という政治形態から掛け離れたEUの中央集権的な政策を嫌っているからだと見る。ベック氏は「EU加盟を考えることも拒否するところが未だにスイスの特殊性なのかもしれない」と語った。
スイス国際放送、 屋山明乃(ややまあけの)
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。