スイス電力大手、20年後の電力不足を警告
スイスの電力会社最大手、アクスポ(Axpo)は、20年後に深刻な電力不足が予想されることから今、手を打たなければならないと警告した。
同社は記者会見で、今後の電力不足に対処するため、50億フラン(約4,300億円)以上かけて新しい発電所を建設すると発表した。また、長期的には、確定はしていないものの、新しい原子力発電所の可能性についても触れた。
スイス連邦エネルギー局のヴァルター・シュタインマン局長は、「将来の電力需要に対応するため、新たな発電所建設の計画があるが、二酸化炭素排出の増加につながることが懸念される」とコメントした。二酸化炭素の増加は、地球温暖化の元となるとして国際的に抑制が叫ばれている。
今回のアクスポの発表はこの連邦エネルギー局のコメントを受けてのことである。アクスポの最高経営責任者(CEO)ハインツ・カーラー会長は、二酸化炭素を排出しない原子力発電の可能性にてついても触れたが、「原子力発電所の建設はまだ議論の段階であり、今後コストなど様々な条件をすべて数字に出してから実現可能かどうか判断しなければならない」と強調した。
カーラー会長がスイスインフォに語ったところによると、フィージビリティ・スタディ(実現の可能性を探る調査)は2008年を目処に終了する予定だ。もしこれで原子力発電所を建設することになったとしても、その後、設計プランの作成や議会の承認を経て、建設完了までは20年もかかるという。
「アクスポは、今後予想される需要と供給の差を縮める努力を、今から始めなければいけません。このため、2018年までには、安定した供給源が必要です。このため、原子力発電を建設するのは間に合わないかもしれません」
深刻なエネルギー不足の可能性
現在、スイスは5つの原子力発電所が電力の4割を生産しているが、2020年にはこのうち2つが老朽化のため閉鎖される。そうなるとスイスの電力不足は決定的になる。カーラー会長によると、これによって減少する電力を補充するため、フランスの原子力発電所と電力供給の契約が交わされているが、これがなんらかの理由で更新されない場合、スイスの社会生活は大きな打撃を受けることになる。
その場合、2030年には、予想される年間需要に対して15〜33%ほどの供給しか行うことができなくなる。これは欧州全体が抱える問題だが、特に冬の寒さが厳しい期間には、これは死活問題である。早ければこの問題は2012年にも現実味を帯びてくるかもしれない。
この問題に対処する方法は限られている。省エネとエネルギー保存、水力発電の増加である。しかし、カーラー会長は年間需要の伸びにこれら対処方法では追いつかないとしている。
長所と短所
このような深刻な電力不足が予想されているため、アクスポは現存の水力発電所を最大限に利用するための設備投資(20億フラン、約1,720億円)、ガスを燃料とする発電所の建設(20億フラン、約1,720億円)、配電網拡大(10億フラン、約860億円)を行う。これらに加え、今後5年間かけて、新型電力供給を導入するために最低でも1億フラン(約8億6000万円)を投入する。このため、アクスポは合計で50億フラン(約4,300億円)以上の投資が必要となる。
カーラー会長は、「これらは原子力発電所建設に比べてはるかに短期で工事が完了しますが、二酸化炭素排出問題のほかにも、ガスの国際価格に依存するということが将来問題となってくるかもしれません」と話す。
「一方、原子力発電は安く安定的なコストで済み、他国に依存せず、二酸化炭素の排出もありません。けれども、問題は世論が受け入れてくれるかどうかですね。新しい原子力発電所の建設は激しい批判を浴びるかもしれません。これは長期的に見てビジネスリスクと言えるでしょう」
アクスポはガスを燃料とする火力発電所建設のフィージビリティ・スタディを数ヶ月のうちに開始する予定で、実際に建設が完了するのは7年から9年かかる見込みだ。
決断する時
カーラー会長は「アクスポは2つの原子力発電所が操業を停止する2020年以後に備えて、遅くとも2008年には新しい電力供給計画を決定します。対処方法は限られており、決して平坦な道ではないでしょう」と語る。
「たくさんの人々はこの危機を前にして、事実を理解しようとしないか、認識したくないから見ないようにするか、どちらかなのです」
このカーラー会長のコメントに対し、環境保護団体のグリーンピースはアクスポの計画は無責任で近視眼的だと語る。「原子力はもう時代遅れで、害の方が大きいものです。新しい電力供給計画に、原子力発電が入る余地はありません」
swissinfo クリス・ルイス(チューリヒにて) 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
スイスの年間電力生産量は63.5TWhでこのうち水力発電が55%、原子力が40%(2004年統計)。
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