WTOの農業交渉が暗礁に乗り上げる
スイス、日本など10カ国でつくる食料輸入国グループ(通称G10)は多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の焦点でもある、農業交渉に進展が見られないことに失望を表明した。
年末に香港で行なわれるWTO閣僚会議を成功させるにはジュネーブでの世界貿易機関(WTO)の一般理事会が鍵と言われていた。しかし、29日に終了した同会議では貿易自由化の基本合意である第一次原案もまとまらなかった。
スイスや日本を含むG10グループはブラジル、中国、インドなど有力途上国がつくるG20の提案する「上限関税」(関税率に上限を定め、それ以下への引き下げを義務付ける方式)に断固として反対する姿勢を崩さなかった。
世界の農業生産の13%を輸入しているG10グループは自国の農業を守るために関税の柔軟性と農産物に応じて自由貿易ルールから免除される「重要品目扱い」を求めている。
ヨゼフ・ダイス経済相は「G10グループはさらなる農業改革を行なうために重要な妥協をする用意が出来ている」と交渉決裂後に語った。ジュネーブで行なわれたWTO一般理事会には日本からは島村宜伸農相と中川昭一経済産業相が出席した。中国の大連でのWTOの非公式閣僚会議では島村農相とダイス経済相が会談し、「(日本とスイスは)農産品交渉で緊密に連帯して行く方針を確認した」と日経新聞(7月11日付け)が伝えている。
他の分野での動向
ダイス経済相はさらに「他の分野(サービスや工業品)での交渉に進展がなければ、妥協することはありえない」と加えた。
スイスのWTO交渉の責任者であるルシウス・ヴァシェサ氏は「農業の関税削減はスイスの農民が国際的な競争に少しづつ適合するために、徐々に行なわれなければならない」と語り、スイス政府が自国の農業を支援するために現在、行なっている補助金制度の維持に問題はないとした。
スイスはまた、非貿易関心事項(non-trade concerns)である食料安全保障や農村地域の活性化、アルプスの農村の環境保護などの貿易以外の面での農業の重要性が交渉で考慮されることを求めている。
スイスのNGOは今回の交渉挫折に批判的だ。スイスの有力NGO「ベルン宣言」は「農産物輸出国が行っている輸出補助金を撤廃する期限を決めることができずに、途上国にサービスや工業品の市場開放を押し求めている」と指摘した。
今回の交渉は9月に再開されるが、関係者によれば12月の香港でのWTO閣僚会議が成功するには、今後大きな進展がないと難しいとみている。
swissinfo 外電、 屋山明乃(ややまあけの)意訳
<「上限関税」に反対する食糧輸入国G10を構成する国・地域>
スイス
日本
ノルウェー
韓国
リヒテンシュタイン
台湾
アイスランド
イスラエル
モーリシャス共和国
ブルガリアはEU加盟のために脱退
– 新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は2001年11月、カタール・ドーハで開催されたWTO閣僚会議を指す。同会議で農産物、鉱工業品、サービスなど幅広い貿易の自由化を目指すことが決定された。当初は2004年に決着を目指していたが、未だに難航している。
– 2003年9月のメキシコ・カンクーンでのWTO閣僚会議では交渉は挫折に終わった。
– 次回、2005年12月に香港で行なわれるWTO閣僚会議で市場開放の大枠を定める合意を目指す。
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