はい、ヌードハイキングはこれまで!
4月26日に開催された伝統的なランツゲマインデ ( 青空議会 ) で、アッペンツェル・インナーローデン準州はヌードハイキングを禁止し、国内外から苦笑を買った。
アッペンツェル出身の芸人シモン・エンツラー氏はまだ一度もヌードハイカーに出会ったことがない。だが、きっとアルプスモーマットやカモシカもぎょっとするに違いないと思っている。
swissinfo : スイス一小さい州がヌードハイキングを禁止することになったわけを教えてください。
エンツラー : ヌードハイカーはここ数カ月間で何回か目撃されています。不快に思う人もいるので、何か手を打たないわけにはいかなくなったのです。
アダムのような格好で森や高原を歩き回りたがる人々がいることは紛れもない事実。南チロル地方の高原では、わたしも「トップレス」で日光浴をしている人々を見かけたことがあります。わたしはあまり気にしませんけれど。人間がどんな姿をしているのかもう知っていますから。
しかし、もっとお堅くて閉鎖的な人もいるわけで、やはり個々のケースではなく全体的に考えなければならないということです。
swissinfo : マーモットやウシに混じって「裸ん坊」が何人か歩き回っているとどんな差し障りがあるのでしょうか。
エンツラー : その前にまず、マーモットやカモシカは、ヌードハイキングを不快に思うかどうかなんて聞いてもらえないんですよね。彼らもやっぱりぎょっとすると思うのですが。
わたし自身はよく分かりません。夏にはしょっちゅうハイキングに行きますが、ヌードハイカーにはまだ遭遇したことがないので。でも、遭遇したらやっぱり驚くでしょうね。ヌードハイカーに遭遇した人は、直接ではありませんが1人だけ知っています。それも遠くから望遠鏡で見ただけというのですが。
ヌードハイカーを不快に思う人の気持ちは分かります。サウナがどこからも見えない閉じられた空間になっているのも単なる偶然ではないのですから。普通の人間は、トイレではドアを閉めて1人で用を足す。平均的な人間にとって裸はとてもプライベートなことなのです。
swissinfo : 平均的なアッペンツェルの人はごく少数の一糸まとわぬハイカーに本当に怒りを感じているのでしょうか。
エンツラー : そんなことはないと思います。平均的なアッペンツェル人も平均的なスイス人と同じように笑っていますよ。しかし一方で、今このスイス最小の州を笑い者にしている人、例えばベルンの人には、そこでみんなに親しまれている山「グルテン ( Gurten ) 」を裸の人々が歩き回るようになったときにそれを受け入れられるかと聞いてみたいですよね。
swissinfo : ヌードハイカーというのは露出狂の偽装であり、また子どもにも危険な存在なのでしょうか。
エンツラー : それはないでしょう。しかし、不安はあります。誰か最近、ヌードハイカーの中にいつか児童愛好者が紛れ込んでくるかもしれないと言った人がいました。わたし自身は、そのような人はコンピューターの陰に隠れていると思っていますが。
swissinfo : ご自分でもヌードハイカーとしてアッペンツェルの山々、アルプシュタイン ( Alpstein ) を歩いてみたいと思ったことはありませんか。
エンツラー : ありません。わたしは太陽礼賛者ではありませんので。どうしてもというなら夕暮れか満月の夜かな。それも、ある程度プライバシーが守れる環境でです。でも、好天の昼間に裸で歩き回るなんて……。それよりTシャツを着て登山ズボンをはいて、日焼け止めを体中に塗りたくらなくてもいいという方がいいですね。
swissinfo : もしかして、この法案はアッペンツェル山岳界のPRをする、費用のかからない巧みな観光キャンペーンなのでしょうか。
エンツラー : 意識してそうしているわけではないと思います。裸でハイキングしているのはアッペンツェルの人ではなくて、ほとんどはドイツから来ている団体です。アッペンツェルの人々はそれに対応しているだけです。そして、それにマスコミが飛びついた。絶対に注目される面白いテーマが報道されたということについては、アッペンツェルは何ともしようがないでしょう。
swissinfo : 裸のハイカーたちに恐れをなして観光客が来なくなるかもしれませんね。
エンツラー : それはまずないでしょう。どちらかというと、運がよければマーモットのほかに裸で歩いている人間も見られるかもしれないと、アルプシュタインにはかえって人が来るのではないでしょうか。
この「開放された体の文化」が非常に伝統を重んじるカトリックの州アッペンツェル・インナーローデンを選んだことは素晴らしいことだと思います。人口密度がもっと少ないグラウビュンデン州をハイキングすることだってできるのですから。
アッペンツェルの観光業界はとても強い。わたしには強すぎるくらいです。ヌーディストたちが自分の体と自由に付き合うように、アッペンツェルも時には自分の文化を自由に売り込んでいるのです。
swissinfo : アッペンツェル州はヌードハイキングというテーマで「ニューヨーク・タイムス ( New York Times ) 」にまで取り上げられました。アッペンツェルの人はこれを誇りに思うでしょうか。
エンツラー : びっくりしています。アッペンツェルの人々は「マーケティング・ギャグ」といったおふざけをすることはありません。ランツゲマインデもヌードハイキングに絡んだビジネスとは関係ありません。ゴミのポイ捨て、夜の騒音、そしてヌードハイキングに関する法律に違反したときに適用する刑法の改正を行うのが目的なのです。
駐車違反など、警察が罰金を課すことができるときには、親告罪を公犯罪にすることができます。でも、駐車違反の時にはバンパーに罰金の用紙が挟まれますが、ヌードハイカーの場合はどこに罰金用紙を挟めばよいのでしょうね。
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ランツゲマインデ(Landsgemeinde)
swissinfo : あなたはヌードハイキングをご自分の演目に取り入れられましたが、芸人にはパーフェクトな素材ではありませんか。
エンツラー : それはもう。アッペンツェル出身の芸人がヌードハイキングについて何も語ることがないとなると、その方が悲劇でしょう。舞台の上でこの出し物をやるときには、ひと言ふた言話せばもう今のホットな話題に入り込めます。
テキストを書いたのは半年くらい前、ヌードハイカーが出だしたころです。そのあと長い冬がやってきて、ヌードハイキングのことは忘れ去られました。そして、新しいナンバーを初めてやるころには、このテーマがマスコミに非常に多く取り上げられるようになっていました。まあ、運命の定めですか。
今は公演ツアーの真っ最中ですが、このテーマは国際的に取り上げられていて、芸人にとってはもうこれ以上のものはないという感じです。
swissinfo、聞き手 ガビ・オホセンバイン 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳
4月26日、アッペンツェル・インナーローデン準州のランツゲマインデ ( 青空議会 ) は世界で初めてヌードハイキングを禁止した。
同議会では議論もなく、大多数の出席者がヌードハイキングを公犯罪として認めた。
これにより、ヌーディストたちの間で人気のアルプシュタイン ( Alpstein ) 地方のヌードハイキングには200フラン ( 約1万7000円 ) の罰金が課されることになった。
1992年、連邦刑法からは風紀に関する記載が削除されたため、ランツゲマインデで可決されたこの法律は連邦刑法に反する。
「裸は人を不快な気持ちにさせることはあっても罪にはならない」と言う人がいる一方、この「自然な」スポーツの反対者は「州にはこのような禁令を敷く権利が当然ある」と主張している。
この問題が連邦最高裁判所で争われる可能性は十分にある。
1976年アッペンツェル生まれ。
芸人としてのキャリアは高校時代に始まった。1996年以降、現在のパートナーであるミュージシャンのダニエル・ツィーグラーとコンビを組み、「インテレンテン ( Intellenten ) 」という名前でパーティなどに呼ばれて芸を披露した。大学入学資格試験を終えた後、1999年に舞台デビューを果たした。
2000年、マルティン・ヴァルガーとともに小劇場エージェンシー「ブレッターヴェルト ( Bretterwelt ) 」を創立。
2003年、チューリヒ近郊の町ヴィンタートゥール ( Winterthur ) にある「カジノシアター ( Casino-Theater ) 」に出演し、全国的に名を知られるようになった。
方言で話すエンツラーのネタはアッペンツェル地方にあり、年間100回の舞台をこなす。
2007年、ドイツ語圏の演芸界で最高の賞「ザルツブルク雄牛賞」を受賞。
2008年には演芸/コメディ部門でスイスのグラミー賞「プリ・ヴァロ ( Prix Walo ) 賞」を受賞した。
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