スイス イリスダム建設から撤退
ドイツとオーストリアとスイスの各国政府は、トルコで計画されているイリスダム建設に関し、環境、文化、そして人権の保護に関する基準を満たしていないという理由で輸出保証保険の引き受けを取りやめることにした。
スイス輸出保障保険 ( SERV ) は7月7日、「著しい改善はみられたが、契約上の期日だった7月6日の深夜までに基準に達しなかった」と発表した。これにより、スイス企業は事実上、ダム建設プロジェクトから撤退を余儀なくされる。
保証額は約190億円
スイス政府はこの建設プロジェクトにかかわっている建設・技術会社の「マッジャ ( Maggia ) 、「コレンコ ( Colenco ) 」、「ストゥッキー ( Stucky ) 」、そしてタービン建設の「アルストム ( Alstom ) 」などの企業に対し、総額2億2500万フラン ( 約190億円 ) の保証を確約していた。スイスや外国の企業の総受注額はおよそ4億5000万ユーロ ( 約590億円 ) に上る。
スイス、ドイツ、オーストリアの各国政府は2008年12月、すでに同プロジェクトに対するクレジット保証をストップし、トルコ政府に対して、環境、移住、文化財に関するおよそ150の基準を満たすために180日間の期限を課した。建設作業は延期され、これによってスイスの企業も損害を被っている。
損害は小
今回の発表を受けて、各国の関連企業は決定を残念に思うと発表した。納入コンソーシアム ( 団体 ) の広報担当を務めるアレクサンダー・シュヴァプ氏は
「この先どうなるかは全く分からないが、トルコがこのプロジェクトを中止することはないと思う」
と述べ、さらに
「各社とも大規模な人員整理には至らないはず。プロジェクトはまだ初期の段階にあった。受注は始まったばかりで、これまでに完了した仕事はまだ少ない」
と続けた。
スイスの経済連合「エコノミースイス ( Economiesuisse ) 」西スイス・ディレクターのクリスティーナ・ガッギーニ氏は
「スイスがこれほどの大プロジェクトから手を引いたことは前代未聞のことだが、この決定は意外ではなかった」
と述べ、トルコが基準を満たさなかったことを残念がった。
一方のトルコはこの撤退を批判している。トルコ環境省は今回の決定を「政治的な決定」だと主張し、ヨーロッパ企業の撤退後も同プロジェクトを進めるつもりだと発表した。だが、トルコ政府が中国やロシア、あるいはインドの企業に委託を移すかどうかは今のところ不明だ。
脅かされる文化財
イリスダムはトルコの南東、シリアとイラクの国境からおよそ60キロメートル離れたチグリス川の一部に建設される予定だ。しかし、建設反対派は、主にクルド人が住んでいる地域で数多くの村や価値ある文化財が水底に沈むと警鐘を鳴らす。中には1万年の歴史を持つハサンケイフ ( Hasankeyf ) の町も含まれている。
発電所の建設は2013年に終わる計画だ。発電能力は1200メガワットで、トルコのおよそ200万世帯に電力を供給することになっている。
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