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スイスの水中翼船モビフライ 排出ゼロで世界へ

水上を走るモビフライの水中翼船
モビフライ(試作品)は時速74kmに達し、1回の充電で125km走行可能だ MobyFly

スイスのモビフライ(MobyFly)の最高経営責任者(CEO)兼共同創設者、スー・プタラズ氏は、排出ガスゼロの「水中翼船」によって水上輸送市場に革命を起こし、気候変動対策を推進することを目指している。

モビフライは2023年、世界経済フォーラム(WEF)から権威ある賞を受賞した。プタラズCEOがレマン湖畔でSWI swissinfo.chの取材に応じた。

※本記事の原文は2023年6月にフランス語で配信されました。インタビュー内容は当時の情報です。

スイスインフォ:モビフライの船は充電式バッテリーを使用しており、将来的には水素燃料電池も採用されるかもしれない。これだけで大幅なエネルギー節約を実現できるのか。

スー・プタラズ:その通り!当社の水中翼船は従来の船に比べてエネルギーを7割節約できる。その理由は非常にシンプルで、当社の水中翼船は水面から浮いているため水との摩擦や抵抗がほぼ完全に排除される。換言すれば、従来の船は船体が水を押し出すのに対し、当社の水中翼船は非常に薄く水を切り裂くように進む。一定距離における乗客1人当たりのエネルギー消費量で言えば、当社の製品は時速45kmで走行する電動バイクよりも効率がよい。

バッテリーの製造も含めた製品のライフサイクル全体を見ると、環境への影響は?

それも大きな長所だ。当社の船はエネルギー消費が非常に少ないだけでなく、二酸化炭素(CO₂)や悪臭を一切排出せず、水中に鉱油を排出せず、波も立てず、食器洗い機と同じくらい静かだ(約64デシベル)。

スー・プタラズ氏は1997年にジュネーブ大学で経営学(HEC)を修了した後、国際会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)で戦略コンサルタントとして勤務。その後、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)で起業家精神を学び、スイス行政大学院(IDHEAP)で経営学位を取得した。民間企業やジュネーブ州政府で約20年間経験を積んだ後、2020年にモビフライを共同設立した。

どのような市場をターゲットにしているのか。

通勤客と観光客の両方が利用する高速フェリー市場が狙いだ。世界にはこのようなフェリー航路が1万本ある。代表例はフランスのエビアンとスイスのローザンヌ間の航路だ。船で移動する人は毎年21億人を超え、航空機による輸送数に並ぶ。私たちの潜在顧客は、レマン湖総合航路会社のような交通事業者だ。

スー・プタラズ氏
ジュネーブ発明ショーでモビフライの「水中翼船」モーターの前に立つスー・プタラズ氏 DR

ゼロ・エミッション型船舶分野の大きな成長を見込んでいるか。

もちろん!一方で、海上輸送による汚染を抑制するための法制化が進んでいる。海上輸送は世界のCO₂排出量の3%以上を占めている。スイスも同様で、例えばローザンヌでは2030年からこの禁止措置が施行される予定だ。

公共機関にとっては、道路や橋を新設したり、鉄道を延伸したりするよりも、新しい高速フェリー路線を開設する方が、はるかに収益性が高い。当社のフェリーは電気自動車と同じ急速充電器を使用しているため、投資収益性は格段に上がる。

短期・中期的の財務目標は?

モビフライにとって最も重要なのは売上高や収益性、市場シェアではなく、輸送市場の排出量ゼロソリューションへの移行に貢献することだ。私の悲願は、モビフライの技術が800人乗りの大型船に採用されることだ。

製品はいつ市場に出る予定なのか。

レマン湖に既に試作品がある。最初の商用船は2024年に納入予定だ。乗客定員は12~20人、全長10m、最高速度は約70km/hだ。その後、全長20m(乗客60~120人)と全長30m(乗客300~350人)の大型ボートを納入する予定がある。

パリのセーヌ川やスイス南部ルガーノ湖でのプロジェクト協定に署名したほか、日本の2025年大阪・関西万国博覧会の実現可能性調査も実施している。

私たちは強い輸出志向を持っている。一方、ヴァレー州ポール・ヴァレー市と協力し、レマン湖畔で地域の開拓に役立つパイロットプロジェクトにも取り組んでいる。

スー・プタラズ氏
スー・プタラズ氏は2020年にモビフライを共同設立した DR

モビフライは、特に日本で複数の賞を受賞し、WEFの「テクノロジーパイオニア」にも選出された。これはどのような展望をもたらすか?

第一に、これらの賞はモビフライに国際的な認知と信頼を与えてくれる。潜在顧客からの認知度向上にもつながる。もちろん、商業的な成功は投資家の誘致にも役立ち、モビフライの成長と製品の国際的なマーケティングを確実にするための不可欠なステップとなる。

WEFの「テクノロジーパイオニア200社」に選出されたことを大変誇りに思っている。これにより多くの可能性が開かれ、ネットワーク拡大が可能になる。例えば2023年6月末から中国で開催されるWEFのイベント、2024年1月にダボスで開催されるイベントに参加予定だ。

同じく排出ゼロ船を開発するスイス企業アルマテック(Almatech)との関係は?

お互いに知ってはいるが、今のところ協力関係はない。モビフライはより進んだ段階にある。既に最初のボートを水上に浮かべ、最初の商用試作段階の準備を進めている。より一般的に言えば、スイスのフランス語圏にこの分野の企業が複数存在することは非常に喜ばしいことだ。この地域に専門家の拠点を築くことを促すだろう。

相当の資金力と商業力を持つ大企業がモビフライ製品を模倣し、市場を獲得するリスクは?

やろうと思えばいつでもできる!一方で、当社の主要なイノベーションのいくつかは特許で保護されている。他方で、飛行ソフトウェアのような特定の戦略的コンポーネントは絶対に模倣できない。最も模倣が難しいのは、当社の多様な技術を連携させる社内ノウハウだ。大企業が私たちを模倣する唯一の現実的な方法は、買収だ。

モビフライの船は従来品よりも収益性が高いのか。

初期投資に関しては、当社の船は同じ出力の従来型と同等だ。だが当社製品はエネルギー消費量が少ないため、運用コストは大幅に削減される。またメンテナンス費用も最小限に抑えられており、従来型では運用コストの20%以上を占めるのに対し、当社製品は5%に満たない。

今後の主な課題は?

この種の技術的ソリューションの需要は非常に大きい。モビフライや競合他社にとっての主な課題は、製造プロセスを産業化し、大量・迅速生産を可能にすることだ。

編集:Samuel Jaberg、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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