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スイスが誇る「世界一」あれこれ

急勾配をあがる筒形のケーブルカー
 シュヴィーツ州シュトースにある世界一急匂配のケーブルカー。最大勾配は110%(斜度47度) KEYSTONE/© KEYSTONE / URS FLUEELER

スイスの鉄道車両製造会社シュタドラーの水素で動く旅客列車「FLIRT H2」が先月20日、無給油・無充電で世界記録となる2803キロメートルの走行に成功した。スイスには他にも多くの「世界一」や「世界初」がある。その中でも特に印象的で驚くような記録を紹介する。

スイスが打ち立てた世界記録の多くには、山岳地帯が大きく貢献している。山を越える、山の中を抜けるーーなどといった試練に挑んだスイスの技術者たちの努力の結晶だ。

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2017年、スイス中部シュヴィーツ州シュトースに世界で最も急勾配のケーブルカーが開通した。最大勾配は110%(斜度47度)で、ドラム缶型の車両が勾配に合わせ水平を保ちながら回転する。 

▼シュトースのケーブルカーの仕組みを紹介する映像(英語)

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そこからわずか25キロ離れたルツェルン湖の対岸、シュタンザーホルンには、世界初のオープンデッキ付き2階建てロープウェー「カブリオ」がある。 

ケーブルカーの上に作られたオープンデッキに座る多数の観光客
ルツェルン湖を背後にシュタンザーホルンに向かうオープンデッキの2階建てロープウェー「カブリオ」 KEYSTONE

スイス南部ヴァレー(ヴァリス)州のツェルマットには、3Sシステム(ケーブル3本構成)を採用したロープウェーとしては世界で最も標高の高い場所にある「マッターホルン・グレイシャー・ライド」がある。トロッケナーシュテーク(標高2939メートル)とクラインマッターホルン(3883メートル)間を結び、運行時間は片道9分。地上からの高さは最高198メートルにもなる。25機のうち4機は、運行中に床が透明になり足元の景色を楽しめる特別仕様だ。 

ツェルマットは世界最大のイグルー(雪の塊をドーム状に積み上げた家)が作られた場所でもある。英ギネス・ワールド・レコーズによると、同イグルーの大きさは正確には内径12.9メートル、高さ10.6メートル。2016年、ホテル「イグル・ドルフ外部リンク」が20周年を記念し、18人がかりで3週間かけて作った。 

▼世界最大のイグルーづくりの様子

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同州には高さ285メートルの、重力式としては世界で最も高いグランド・ディクサンス(ダム)外部リンクもある(ダムの中では世界7番目で、欧州では最も高い)。また、ティチーノ州にあるヴェルザスカ・ダム(正式にはコントラ・ダム)は、映画「007/ゴールデンアイ」(1995年)のオープニングで、ジェームズ・ボンド扮するスタントマンのウェイン・マイケルズが高さ220メートルから飛び降りた場所だ。同ダムは「映画の作中で最も高い位置から飛び降りたバンジージャンプ外部リンク」の舞台としてギネス・ワールド・レコーズに登録されている。 

▼英語「007/ゴールデンアイ」冒頭のバンジージャンプ

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山岳トンネルといえば、スイスの右に出る者はない。ゴッタルド基底トンネル(ゴッタルドベーストンネル)は世界最長の鉄道トンネルだ。17年の建設期間を経て2016年に開通した同トンネルはウーリ州エルストフェルトとティチーノ州ボディオを結び、貨物・旅客輸送を目的とした57.1キロの単線トンネル2本で構成されている。同トンネルは世界最深でもあり、最大深度は、地球上で最も深い鉱山に匹敵する2450メートルを誇る。換気をしないと内部の温度は46度に達する。 

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ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)も記録破りのトンネルだ。27キロメートルにわたるドーナツ型のLHCは世界で最も強力な粒子加速器で、これまで測定された中で最も高い温度を人工的に発生させる(約5兆ケルビン、2012年)外部リンクなど、物理分野で多くの記録を保持している。

しかし、現在構想段階にある円形衝突型加速器 「Future Circular Collider(FCC)」ではLHCの3倍にあたる全長90キロメートルの円形トンネル建設が予定されている。プロジェクトが正式承認されるかどうかは、CERN加盟国が2028年に最終決定する。 

最も直近のスイス世界記録は先月20日、シュタドラー社の水素旅客列車が打ち立てた無給油・無充電の最長走行距離(2803キロメートル)だ。米コロラド州のテストセンターで記録樹立にかかった時間は46時間。同社にとって2つ目のギネス記録となる。シュタドラー社は2021年、バッテリー駆動の列車が1回の充電で走れる距離の世界記録(224キロメートル)を樹立外部リンクした。 

昨年、電気自動車(EV)加速の世界記録を更新したスイスの学生も忘れてはならない。EVレーシングカー「mythen(マイセン)」は停止状態からフル加速で時速100キロメートルに到達するまでのタイムを測る0-100km/h加速で、0.956秒を達成し世界記録を塗り替えた。 

水素はパイオニアが好んで選ぶ元素のようだ。スイスの冒険家ベルトラン・ピカール氏は2016年、副操縦士のアンドレ・ボルシュベルグ氏とともにソーラー飛行機による初の世界一周飛行を達成したが、同氏は先月、2028年に再び世界一周をする計画を発表した。今回は水素を動力源とする飛行機を使い、わずか9日間で旅を終えるという野心的な目標を掲げている。ピカール氏はブライアン・ジョーン氏とともに「気球による最長飛行距離外部リンク」(4万814キロメートル)を保持する。 

ピカール家は3代続く、記録破りの発明家・冒険家の家系だ。 

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ピカール家によって更新される記録物語

このコンテンツが公開されたのは、 ベルトランは、既に先人が残した名声にふさわしい偉業を達成している。1999年、3度目の挑戦で副操縦士ブライアン・ジョーンと共に熱気球で世界初の世界一周無着陸飛行に成功したのだ。 最初は熱気球に乗って  「ブライトリング・…

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ピカール氏の祖父オーギュスト(漫画「タンタン」に登場する微積分教授のモデルとなった人物)は1931年、助手のポール・キプファーとともに水素気球に乗り込み、最終的に高度15.7キロメートルに到達。人類で初めて成層圏に入った。 

その3年後、オーギュストの双子の弟ジャンとジャンの妻ジャネットは、水素気球で18キロメートル近くまで上昇し、ジャネットは成層圏に入った最初の女性となった。 

海洋学者・エンジニアだったオーギュストの息子(ベルトラン・ピカール氏の父)ジャックは、世界で一番深くまで海底に潜水した記録の持ち主だ。1960年、米海軍潜水艦乗組員のドン・ウォルシュとトリエステII号で水深約1万916メートルに到達し、有人潜水艦の最深潜水記録を更新した。この記録は2019年まで破られなかった。 

もしベルトラン・ピカール氏と彼のチームが水素での世界一周飛行に成功したら、こちらの世界最大のワインボトルで祝ったらどうだろう。ワインボトルの高さは4.17メートル。2014年にスイスの自動車輸入業者が新店舗のオープンを記念して作った。理論上、このボトルには3094リットル(標準的なワインボトルの4125本分)のワインが入るが、実際にワインが入っていたかは不明だ。 

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編集:Balz Rigendinger、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:宇田薫 

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