スイスのアルビネン村が始めた移住誘致策は、村に功罪両面をもたらしている
© Keystone / Jean-christophe Bott
スイス南部ヴァレー州のアルビネン村が移住者に現金を支給する誘致制度を始めてから5年。今も1日100人の問い合わせがあるが、村の歓迎色は薄れている。
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アルビネン村民は2017年の住民投票で、村内に移住する家庭に大人1人当たり2万5000フラン(約375万円)、子供は1万フランの報奨金を支給する案を可決。2018年に1月1日に発効した。人口がわずか200人に減った同村で、さらなる人口流出を食い止めるための奇策として世界的に注目された。
スイスのオンラインメディアWatson.ch(17日付)外部リンクによると、村はこれまでに17件の申請を承認。総額71万フランで大人31人と子供16人の呼び込みに成功したという。
だが一部海外メディアで制度の条件が抜け漏れて報じられたために、村にとって思わぬ事務負担も生じている。
ニコル・ケッペル村長はWatson.chで「1日に約100件の問い合わせがある。大半は国外からの問い合わせで、制度の条件を満たしていない。それでも回答しなければならず、大変な作業だ」と苦言を呈した。
誘致制度は45歳未満の新規居住者に対象を限定。住居購入に20万フランを投じること、最低でもC滞在許可証(スイスに5~10年滞在した者に発行される)の保有者であることも条件とする。
住民投票から2年後、当時のベアト・ヨスト村長はswissinfo.chの取材に「アルビネンは生き生きとしている!それこそが私たちが望んでいたことだ」と語った。
ただ2022年8月にヨスト氏が引退すると、村の誘致気運は後退。報奨金は移住者が5年定住した後に支給されることに変更された。
ケッペル氏自身も27歳でアールガウ州から父親の故郷アルビネン村に来た「移住者」だ。「アルビネンには学校も銀行も郵便局もない。残っているパブは1軒、小売店も1軒、バスは1時間に1本だ。それがどんな生活か予め想定し、それを受け入れた上でここに住まなければならない」
英語からの翻訳・追記:ムートゥ朋子
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