2006年を刻印した出来事
2006年にスイスの政治舞台を賑わせた国民投票の議題は、欧州との統合関連問題、スイスの難民、移民政策といったスイスと対外諸国との関係に比重が置かれた。
政治家では、 欧州会議 ( Council of Europe ) の依頼で欧州でのCIA秘密収容所の存在を調査したスイス上院議員のディック・マルティ氏が最も脚光を浴びたといえる。
2006年に行われた国民投票のうち、最も国民の緊張が高まり感情的な議題であったのは間違いなく、移民難民規制を強化する法の改定案だった。これは、EU またはEFTA加盟国以外の外国人に対する労働許可の規制強化や難民申請規制を厳しくする改定法の是非を問うものだった。
難民移民規制
左派の政治政党、教会、労働組合や援助団体などはスイスの人道主義の伝統に反するとして反対した。しかし、右派国民党を先頭に「規制強化は悪用を抑制するのに必要」とする右派政党と対決することになった。
その結果は移民、難民規制の強化に賛成したのが有権者の3分の2という右派と政府側の大勝利に終わった。
これを多くの人は強硬路線で知られているクリストフ・ブロッハー司法相 ( 国民党 ) の個人的な勝利と分析した。ルーツ・ドライフス元内務相 ( 社会民主党 ) はこの改正法が非人道的な適用をされかねないと懸念を示した。
EUとの微妙な関係
その2カ月後の11月にはEUの新加盟国 ( 10カ国 ) に対する経済協力10億フラン ( 約950億円 ) を拡大するかどうかが問われた。スイス政府は2004年にブリュッセルで結ばれた一連の2国間協定の一環として援助拡大を約束した。
これに反対した右派を率いる国民党が国民投票に持ち込んだ。しかし、東欧諸国への援助拡大は53%の支持を得て可決された。これによって、EUとの統合に関連する案件が18カ月間で3回の投票となったが、国民党にとっては主要な案件の3敗となった。しかし、国民党の勢いは4年ごとにある議会の総選挙とそれに続く閣僚選挙のある ( 10月と12月 ) 2007年にも弱まる兆しはない。国民党は今後もスイスの新加盟国への更なる援助拡大に反対すると発表している。
ベルンの「スイス‐EU統合局 ( DFA/DEA ) 」のウルス・ブーハー氏はスイスのブリュッセルでの発言力の弱さをこぼしている。この投票によって、スイスは今後EU加盟の道よりも各国との2国間協定路線を重視していくことが明らかになったといえる。
大胆不敵な調査官
もし、「今年の政治家」を選ぶ賞があったとしたら間違いなく、2006年はディック・マルティ上院議員の名が挙がるだろう。
欧州会議の依頼で、東欧にテロ容疑者を拷問するためのアメリカのCIA秘密収容所があったかどうか調査を行った政治家だ。マルティ氏が6月に出した報告書では秘密収容所やテロ容疑者の移送に関してCIAと共謀したとして14カ国を非難している。
報告書ではスイス政府に関しても疑わしい米航空機がスイス領空を通過するのに気づかぬ振りをしたとして非難。この報告書の発表後も、マルティ氏は完全なる真実はまだ明かされていないと確信しており、欧州会議に対しても調査を妨害したと非難した。
swissinfo、 ウルス・ガイザー、 屋山明乃 ( ややま あけの ) 意訳
直接民主主義のモデルといわれるスイスでは、毎年多くの国民投票が行われるが2006年には3回で6件の議題が有権者に問われた。
9月24日に行われた、外国人の労働許可を厳しくする改定案は68%が賛成 ( 投票率48.3% ) で難民受け入れ規制の強化は67.8%の賛成 ( 投票率48.4% ) を得て政府の改定案が可決された。
この改定案の可決により2007年1月1日から、スイスに入国した難民は入国から48時間以内に身分を証明する書類を提示できない場合は強制出国させられる。
スイスはEUの加盟国ではないが、それぞれEU加盟国と16の2国間協定を結んでいる。2006年に政府は今後、この2国間のバイラテラル協定を続行する形を重視し、EU加盟に関しては棚上げ状態になった。
2005年の統計によるとスイス人口の20.3%が外国人だ。
スイスに在住する外国人の46%が欧州連合 ( EU ) または欧州自由貿易連合 ( EFTA ) に加盟していない国出身の外国人のため、この規制措置が影響する。
2005年の難民申請数は7万1871人。うち、2万3678人は申請が認められ、2万4453人は一時認可、2万3740人は拒否された。
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