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国民投票の結果 外国人受け入れ厳しくなる

9月24日の国民投票では、外国人法、移民法、国立銀行の利益を老齢年金への3つが問われ、政府の意向を国民が支持した Keystone

9月24日に行われた国民投票では、外国人法と移民法の改定についての是非と、スイス国立銀行 ( SNB / BNS ) の利益の一部を老齢年金 ( AHV / AVS ) の資金として使うことを提案する「KOSAイニシアチブ」の是非が問われた。

外国人法、移民法の改定はそれぞれ投票者の68%が賛成し、承認された。KOSAイニシアチブについては58%の投票者が反対し、しかも、賛成票が過半数を上回った州は3州と過半数を超えず、否決された。

 事前の世論調査でも、外国人法、移民法の改定案を支持する人はそれぞれ約6割だった。また、KOSAイニシアチブを支持すると答えた人は46%、反対は35%だった。その後、外国人法、移民法の改定案を支持する人がさらに増加し、KOSAイニアチブに反対する人も増えたと、政治学のクロード・ロンション氏は見る。

国立銀行の独立性と強いフランを守る

 国立銀行の利益およそ35億フラン ( 約3300億円 ) のうち、3分の2は各州に3分の1は連邦に納められているが、KOSA イニシアチブの提案はそのうち10億フラン ( 約940億円 ) を州の助成金にあて、残りは年金にあてるというもので、連邦政府も国民議会と全州議会の両議会も多数が反対していた。

 政府は、国立銀行の利益の投入は、年金問題の長期的な解決にはならない、収入が減る連邦と州が脆弱化する、国立銀行の独立性が危うくなるという3点を挙げて反対した。そもそも国立銀行の利益は今後、大幅に減少すると見込まれ、10億フランがせいぜいだという。

 イニシアチブの発起人の1人、ルドルフ・レヒトシュタイナー氏は「国立銀行の激しい反対にあった。老齢年金の問題は解決していない。 ( 反対した ) 右派が今度、どのようは解決策を提案してくるか注目したい」と語った。今回否決されたのは特に、州の収入が減ることが理由だと前出のロンション氏は見る。今後、付加価値税の引き上げなどにより、老齢年金の資金を確保するようにと求める意見も浮上するかもしれないという。

外国人に対し厳しい取締りへ

 スイスには外国人亡命者を受け入れてきた歴史がある、しかし政府は、これまでのような受け入れ政策は改善する必要があるという意見で、2つの法の改正を提案した。これに対してレフェレンダムが起こり、今回の国民投票でその是非が問われることになった。

 1931年に発効した外国人法の改定案では、欧州連合 ( EU ) と欧州自由貿易連合( EFTA ) 加盟国以外の国の外国人が対象だ。これらの国の人々には、専門技術を持つ労働者で、スイス人やEU、EFTA出身者にはそうした専門家がいないという場合を除いては、就労を認めないとするもの。

 もう1つは難民の受け入れについてで、難民として受け入れを申請する際、国籍を証明する旅券を提示できない人や出身国を偽った場合は、簡単な手続きを経るだけで申請が却下され、強制的に出国させられるというものだ。

 世論調査の結果どおり、大差を持って政府による外国人法と移民法の改定案は2つとも国民に承認された。元大統領のルーツ・ドライフス氏 ( 社会民主党 ) は「議会でこの2つの改定案が承認された時点で、スイスの人権政策が転機を迎えたと思った。悪用については誰もが対策が必要だと思うだろう。しかし、どのような方法でするかが問題だ。今後の動向を見守る」と改定案がどのような影響を与えるかに注目すると語った。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

<9月24日の国民投票>
1) イニシアチブ 国立銀行の利益を老齢年金へ 否決
2) レフェレンダム 外国人法の改定 可決
3) レフェレンダム 難民法の改定 可決

連邦議会の決定に対する市民の事後審判として実施する国民投票のこと。「強制」( 憲法改正など ) と「随意」の2種類があり、前者は自動的に、 後者は3カ月以内に有権者5万人の署名を集めることで国民投票が実施される。
外国人法改定案に反対する署名は7万4246、難民法改定案に反対する署名は12万1794集まった。

国民が議題を直接提案し、実施する国民投票のこと。18カ月以内に10万人の有権者の署名を集めることで、国民投票として発議することができる。承認には、賛成票が過半数に達し、賛成した州の数も過半数になる必要がある。

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