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ベビー・ブーム世代の定年に備える

年配の従業員には長年培われた技術と勘がある Keystone

スイスの定年は62歳だ。組合は「定年の歳を決めず、もっと柔軟な対応をするべきだ」というキャンペーンを張っている。これに応じて、企業の中でも65歳以上に定年を引き上げようとする所も出てきた。

日刊紙ターゲス・アンツァイガー紙によると、大手ABBを含むいくつかの企業が、将来の労働力不足に備えて対策に乗り出した。

 1950年代のベビー・ブーム世代が定年を迎えるまで、あと10年もない。連邦経済省経済管轄局(SECO)は、彼らの定年を境に、スイスの労働力市場は人手不足に向かうと予想している。

人事戦略の変更が必要

 この状況は、企業の人事戦略の大転換を迫る頭の痛い問題だ。不況のおかげでこれまで企業が必死になっていたのは、いかに人を減らすか、早期退職などのリストラ戦略だったのだから、無理もない話だ。スイス・ノースウエスタン大学応用科学学科のマルティナ・ツォロホ教授は「いずれ企業も熟練従業員の引きとめ作戦を取らざるを得なくなるでしょう」と分析する。

 「そうでなければ企業は、熟練従業員の持つ貴重なノウハウをいっぺんに失うことになります。しかも、いざ深刻な人手不足に陥っても、労働力市場は売り手市場で、新しく人を雇おうと思っても、良い人材を集めるのはなかなか難しくなるでしょう」

 スイス連邦貿易組合のスポークスマン、エヴァルト・アッカーマン氏は、長期的視野で人事を考える企業が出てきたことを歓迎している。「企業が62歳定年をちらつかせることを止めるのは、喜ばしいことです」

年齢に関係なく役職で給与を出すところも

 雇用者協会や組合などでは、すでに企業向けガイドラインを作成している。雇用者協会のペーター・ハスラー氏は語る。「企業は従業員を突然退職させるのではなく、労働時間を徐々に減らして定年後の生活に時間をかけて慣れさせるような対策を採るべきです」

 「長い間企業に尽くしてきた社員に対して、我々は敬意を払うべきです。社員は一方的に定年を宣告されるのではなく、彼らの職環境に応じた柔軟な対応が取られるべきです。しかし、定年を延ばすという傾向は、大企業の間でまだまだ主流になっているとは言えません」

 「また、若い社員と年配の社員にチームを組ませることも重要です。分野によっては肉体的な仕事はさほど求められず、代わりに幅広い知識やコツが大切なことがあります」

 一方、すでに年配従業員の引きとめに積極的に乗り出している大企業もある。ABBのスポークスマン、ルカス・インデルフルト氏は「スイスの年齢人口分布を見れば、今後企業にとって年配の社員が重要になってくるのは歴然としています」と語る。

 ABBは、年配の社員のスキルをより有効に活用できるように、柔軟な雇用体系をとる方向だ。確かに年配の社員には新卒より高い給料を出さなくてはならず、会社にとってはコストがかかる存在だった。「このため、我が社では今後年齢や経験ではなく、役職に応じて給与を設定するシステムを導入しました。役職が同じであれば、年齢が違っても給料に差はありません」

政府の思惑

 政府の諮問機関は去年10月、「長期的に見て、定年の時期を延長することは社会にとって避けられないだろう」という見解を発表した。

 スイスの年金受け取り年齢は65歳だが、定年が延長されれば受け取り年齢も引き上げられることが検討される。政府にとっては年金を払う負担が少なくなるので大歓迎だ。パスカル・クシュパン内相などは定年を67歳まで引き上げてはどうかと発言しているが、組合はこの発言を歓迎していない。

 現在、スイス連邦貿易組合は、62歳定年制をより柔軟なものにするための国民投票に必要な署名を集めている。

swissinfo、外電 遊佐弘美(意訳)

政府は定年の延長を奨励している。
年配の失業者への職業訓練コースも今後増やされる。
強制的な早期退職は、現在合法だが、今後連邦政府によって禁止される予定。

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