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恐竜の足跡保存はスイスにお任せ

世界最大の恐竜の足跡群、ボリビアのスクレ. geotest

ボリビアの憲法上の首都、スクレ ( Sucre ) 。ここから遠くないカル・オルコ ( Cal Orck’o ) の巨大な石切り場の壁を縦横無尽に駆けるのは、5000以上の恐竜の足跡だ。ここは恐竜の足跡の化石郡では、世界最大と言われている。

こんなに貴重な化石群だが、保存のための資金が充分でない上に、まだ石切り作業も続いているため、近いうちに消えてなくなってしまうかもしれない。ボリビア政府の要請を受けてスイスの専門家がスクレに飛んだ。

「こんなに沢山の恐竜の化石群は今まで見たことがありません」と語るのは、バーゼル自然史博物館のディレクター、古生物学者のクリスチャン・メイヤー氏だ。同氏は1998年にこの化石群に派遣された調査団を率いた団長だった。

恐竜の楽園

 今からさかのぼって6800万年前。恐竜の群れがこのカル・オルコに集まっていた。当時、ここは湖のほとりで、恐竜たちは水を飲んだり、何か餌になるものはないかと探したりしていた。彼らは後世の人間たちに、地質学上、非常に豊かな財産を残してくれた。5000以上の足跡で踏みならされた350本の道。恐竜の種類は330種にも及ぶ。

 「カル・オルコの恐竜の足跡群は、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパで見つかったものに比べ、はるかに大きいものです」とメイヤー氏は語る。「恐竜の種類は非常に幅広く、彼らが絶滅する寸前の、白亜紀後半のものまで含まれています」

発見は化石だけではなかった

 カル・オルコの化石群は1994年に偶然ボリビアの労働者によって発見された。壮大な岩肌の急斜面は70度、横幅は1.5キロメートル以上。化石群が広がる場所まではこの斜面を150メートルも登らなければならない。

 メイヤー氏率いる調査チームはロープを身体に巻きつけ、この巨大な岩壁にぶらさがりながら現場に向かった。調査チームの中には、地質学者のほかにもギオテスト社など企業のエンジニアも含まれていた。チームは1998年と2003年に幅広い視点から調査報告書を作成した。

 これだけの数や種類の化石群だけでも貴重な発見だったが、同じくらい彼らを驚かせたのは、この場所が今にも崩壊しそうな状態だったことだ。アルプスの国、スイスでは、急斜面の崖を安全に固定する技術が進んでいる。ただちにこの分野の専門家や地質学者、技術者のチームが組まれ、それぞれの最新技術を持ってこの地に乗り込んできた。

 彼らによる岩壁の保存作業は、第一段階目がようやく最近終了したところだ。「この分野では、アルプスの民に任せて下さいよ。巨大な山壁や岩壁に関する知識と経験を、ずっと蓄えてきたのですから」

天敵は雨よりもダイナマイト

 実際に保存作業が開始されたのは、今年に入ってからである。今回は、岩のエンジニアリングを専門とする民間企業、ガッサー・フェルステクニックも参加した。このスイス企業は、今年7月、アルプスのゴッタルド峠の岩場が崩れ、自動車道に落ちて死者も出した事故があった後、岩壁の安全対策を行ったことで有名になった。

 恐竜の貴重な足跡を残す岩壁は、雨水が亀裂深くまで浸透していた。彼らが到着するまでは、この亀裂に雨水が入るのを防ぐため、岩壁は粘土やプラスチックで覆われていた。しかし、これでは雨水を防ぎきれない。ギオテスト社とガッサー・フェルステクニック社は、その場所にあった草木を丁寧に抜き、最先端の繊維を何層も使って防水加工を施した。どれだけ効果があるか、現在様子を見ている状態だ。異常を知らせる探知機も設置された。

 保存作業チームは、岩崖の亀裂を防ぐため、亜鉛でメッキされた5メートルの長い釘を900本、亀裂の中に入れようとしたが、簡単にはいかなかったようだ。

 「まず岩壁を安定させる重い機械や器具を探さなくてはならないのですが、南米ではなかなか見つからず、今でも探しているところです」とメイヤー氏は語る。「でも、我々の最も大切な任務は、岩切り場の労働者たちを、化石群のある場所から遠のけることです。なんせ彼らは、この貴重な化石群からたった20メートルの所でダイナマイトを爆発させているのですから」

 ギオテスト社によると、化石群を保存するためには約300万フラン ( 約3億円 ) の費用が必要だ。一方、このうちボリビア政府が負担を保証しているのは100万フラン ( 約1億円 ) だ。

頼りは国際機関

 ボリビア政府は、ぜひとも恐竜の足跡の化石群を保存したい意向だ。将来的にはカル・オルコをユネスコの世界遺産に登録したいと考えている。しかし登録申請のための事務作業は簡単ではない。

 メイヤー氏のもう1つの顔は、ボリビアに派遣されたユネスコの代表だ。ボリビア政府と協力して世界遺産申請のために必要な書類を作成している。しかし、メイヤー氏によると、その作業は遅々として進まないようだ。

 一方、地方政府はこの場所を観光名所として売り出そうとしている。昔、ハリウッドで大ヒットした映画をもじり、「ミニ・ジュラシック・パーク」博物館がオープンする。開館日は8月25日、お土産屋さんやレストランも併設され、15から20の等身大の恐竜モデルが鎮座するそうだ。

swissinfo、サイモン・ブラッドリー 遊佐弘美( ゆさ ひろみ ) 意訳

-恐竜は、2億3000万年前に姿を現し、地球上を1億6000万年も支配していた。
-絶滅したのは6500万年前。
-スクレの町の近くのこの石切り場は、7000万年前には恐竜たちが水を飲みに来たり、餌を食べに来たりする湖のほとりだった。
-1300万年前に起きた地殻変動でプレートがずれ、大地が盛り上がってアンデス山脈ができた。
-この過程で湖のほとりも盛り上がり、岩崖となって現在まで残った。
-偶然に恐竜の足跡が見つかったのは1994年。スイスの専門家は1998年から現地に入っている。
-2003年に保存のための最初のアピールが成され、2006年から岩壁の保存事業が開始された。

5000以上の恐竜の足跡は、約330種からなっている。
このうち、4分の3をティタノサウルスが占めている。
ティタノサウルスは、体長20メートル、足の幅80センチメートルの草食恐竜。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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