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なぜスイス中銀は中央銀行デジタル通貨に消極的なのか

2人の男性
ゼノ・シュタウプ元フォントベル最高経営責任者(CEO)と筆者 swissinfo.ch

スイス北部バーゼルで、世界の主要中央銀行が結集し私たちのお金の将来について研究している。銀行預金の代わりに、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)で支払う日が来るかもしれない。だがこのCBDC構想にスイス中銀は慎重だ。

世界中でカード払いが日常化している。だが近い将来、お金を取り巻く全てが変わるかもしれない。

カード決済の仕組みはこうだ。コーヒーやクロワッサンの代金をカードで支払うとき、たとえば給与口座からパン屋の法人口座に銀行残高が移る。預金残高は民間銀行に置かれているものであって、中央銀行ではない。

CBDCは実現するのか?

世界中の主要中銀が今、お金の将来のあり方を研究している。その旗振り役がバーゼルにある国際決済銀行(BIS)。研究機関として国際的に最高評価を得ており、金融政策研究における英知が各国から結集する。スイス国立銀行(中央銀行、SNB)もその1つだ。

全く新しい形のお金が生まれようとしている。中銀は今のように現金だけでなく、デジタルマネー、通称「CBDC」も直接発行するようになる。誰もが銀行残高から支払うか、CBDCで支払うかを選べる世界だ。今流通している現金と区別して、「電子フラン」や「デジタルユーロ」と呼ばれる。

お金の移動の仕方も変わり、ブロックチェーンという新しい技術が用いられる。非常に複雑な分散型ITインフラだ。これにより、人々が何かを支払うときに、必ずしも銀行や中央銀行が関与する必要がなくなる。紙幣や硬貨で支払うときのように。

実証実験段階に

そのような「デジタルキャッシュ」はすでに存在する。中銀は世間から見えないところで新しい形のお金を実験している。実験は銀行間の支払いに限られ、実体経済の企業や個人はまだアクセスできない。

実用化の日はいつ来るのか?欧州中央銀行(ECB)は10年以内に一般人もデジタルユーロを利用できるようにしたいと考えている。界隈では「リテールCBDC」と呼ばれている。だが本格導入すべきかどうかについては、中銀の間でも物議を醸している。

電子フランに消極的なSNB

スイスでは、金融界がSNBにできるだけ早くデジタルフランを発行するよう圧力をかけている。

導入されれば、銀行預金に代わる絶対安全なお金の保管手段が生まれる。銀行預金は最大10万フランまでしか預金保険でカバーされない。まだデジタルフランは民間が発行する暗号資産(仮想通貨)の優位性を奪うだろう。

一方、SNBは慎重姿勢だ。SNB幹部のトマス・モーザー氏は「クリプトバレー・ジャーナル外部リンク」のインタビューで、SNBは消費者向けデジタルフランの導入は計画していないと明言した。デジタルフランが普及すれば、金融危機時に銀行からの資金流出が加速する可能性があり、金融システムは今よりもさらに不安定になると警告した。

SNBは今のところ、このリスクを負いたくないようだ。

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☟インタビュー全文はこちら(ドイツ語)

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独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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