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「ヨーロッパはその価値観を守るべき」

欧州会議の法務人権委員会を率いるディック・マルティ委員長 Keystone

スイスのディック・マルティ上院議員は、この度まとめた報告書で、テロ容疑者を尋問するためにCIAが東欧に秘密収容所を作ったと主張している。そのマルティ氏が同報告書についてswissinfoに語った。

このコンテンツは 2006/07/10 15:26

2005年11月、マルティ氏は欧州会議から秘密収容所問題について調査を依頼され、去る6月7日、欧州14カ国が人権侵害の「クモの巣」の中で米国の諜報機関と共謀していたと結論づけた。

米国国務省はこの報告書を「ねつ造」と批判するなど、マルティ氏の主張によって怒りを伴う否認の波が巻き起った。一方では、非協力的な各政府に対する非難の声も上がり、今回の論争におけるヨーロッパの役割が問われている。

swissinfo : この報告書は高い評価を得ていますが、関与している国々からは多くの批判も受けています。この任務を引き受けたとき、これほど多くの敵を作ることになろうと予想していましたか。

ディック・マルティ : この任務は強い確信を持って引き受けさせていただきました。私にとって、これは過去60年に渡ってヨーロッパを大きく前進させてきた価値観の防衛に関わる問題です。

第二次世界大戦という大災害の後、ヨーロッパは人権協定を批准し、欧州人権裁判所を設立するなど、信じられないほどの進歩を遂げました。これらの機関は、もはや起こってはならない野蛮な行為への後退を防ぐバリヤーです。

そういう意味では、これらの価値観を保証する制度である欧州会議がCIAの秘密収容所問題に関与するのはごく普通といえます。テロに対して取られるべき強硬措置はかなり前から求められていましたが、これは憲法にのっとって実施されるべきで、違法に行われてはなりません。

swissinfo : 報告書によると、これらの違法な措置を米国行政当局は当然のことと見ているということですが。

マルティ : 事実、米国は「委託尋問(rendition)」という用語を創り出していますが、これは実際には、疑惑に合法的な根拠が欠けていてもテロ容疑者を拘束することができるという意味です。

これらの収容施設の中でその存在を知られていたのはグアンタナモやカブールなどごくわずかでした。ほとんどのケースでは、拘束者はほかの施設へ連行されたり、拷問も辞さない彼らの母国へと引き渡されたりしています。法の原則を信じていれば、これらの拘束者が憲法にのっとった権利を持たず、また裁判も受けずにいたことを認容できるはずがありません。

いずれにしても、米国行政当局は明白な結論を出して、テロを打ち破る闘いに臨んでいます。その結果として、市民刑法も、またジュネーブ条約と同時に定められた「武力紛争法(国際人道法)」も彼らには適用されないでいるのです。

swissinfo : それでも米国は、ヨーロッパ同様、自国を自由と人権の強力な擁護者だと見なしていますね。

マルティ: 私も、米国は自由で民主的な国だと思っていますよ。しかし、国際関係における米国の姿勢はいくぶん不明瞭です。法律に関して言えば、米国だけに適用される法律があって、他国には異なる法律を適用したりしています。たとえば、テロ問題対策は米国市民には適用せず、アメリカ人以外にのみ、そしてアメリカ以外の国々にのみ適用しているのです。

これは「法的アパルトヘイト」ともいうべきで、まったく容認できません。アメリカ人は、「アメリカが利益を得られるならば、何でもOK」という極端にシンプルな哲学を作っているのです。

swissinfo : 米国は「テロは従来の方法では阻止できない」と主張し続けていますが、この主張に説得力はありますか。

マルティ: 個人的には、この数年の米国のやり方は効率が悪いばかりか、逆効果でもあると思っています。米国はイスラム世界を敵に回し、それによってテロの共鳴者を生み出してしまいました。これらのテロ・シンパは火に対する酸素のようなもので、その存在が多くなればなるほど、テロリストはますます自分たちの行動が合法化されたと思い込んでしまいます。

欧州諸国もテロの標的になっていますが、この問題には常に憲法にのっとった方法で取り組んでいます。

swissinfo : しかし、この報告書は欧州の国々も批判していますね。

マルティ : 欧州諸国はしばらくの間、テロとの戦いを米国に委託していました。
ですから、ある超大国の秘密諜報部が活動しているとき、欧州の国々は自分たちの価値観が犯されてもその活動から目をそらしているのです。これはとても危険なことだと思います。

私が指摘しているのは、西側諸国は対テロ戦略について腹を割って討論したことがないということです。国際レベルでは、テロリズムの法的定義がはっきりと定まっていません。そのため、抑圧だけに限らず、テロ防止対策や政治的な介入も含めた共通の戦略を開発することが極めて重大です。

swissinfo : スイスについても、米国に対して「卑屈」だと非難していますが、具体的にはどういうことを指しているのですか。

マルティ : 私個人としては、米国機に対し、スイスが領空通過の年間許可を非常に軽率に更新してしまったことに驚がくしています。その時点で、もうすでにCIAによる許可の濫用が指摘されていたのですから。スイス当局は、「スイスの領空は侵犯されない」というワシントンの口約束だけで満足してしまったのです。

swissinfo : 欧州会議はこの報告書を承認すると思いますか。

マルティ : つい最近まで、私はかなり楽観視していました。しかし、自国が誠実で間違っていないことを躍起になってアピールしようとしている国々は確かに存在します。自国の防御の方が欧州会議の価値観の防御よりも大切だと欧州の国会議員たちが考えているならば、その見通しは暗いですね。

聞き手 swissinfo、アルマンド・モンベリ 小山千早(こやま ちはや)意訳

補足情報

- 2005年11月、ヒューマン・ライト・ウォッチ(Human Rights Watch)が、欧州内の秘密収容施設の存在とCIAによるテロ容疑者の誘拐を強く主張。

- 人権の見張り役である欧州会議は、スイス上院議員であり欧州会の議法務人権委員会委員長でもあるディック・マルティ氏に調査の開始を求めた。

- マルティ氏は6月7日に報告書を発表、6月27日火曜日の欧州会議本会議で討論された決議草案を作成。

- 同報告書は、秘密収容所やテロ容疑者の移送に関してCIAと共謀したとしてヨーロッパの14カ国を非難。

- 同報告書は、疑わしい航空機が国家領空を通過するという主張に気づかぬふりをしたとしてスイス政府を非難。スイスはまた、商業目的以外の米航空機の領空飛行許可を今年いっぱいまで延長している。

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<ディック・マルティ氏略歴>
1945年、スイス南部のルガーノ生まれ。
スイス西部のヌーシャテルおよびドイツのフライブルクで法律を学ぶ。
1975〜1989年、ティチーノ州検察官。
1989〜1995年、ティチーノ州政府閣僚。
1995年以降、連邦議会議員。
1999年、欧州会議に選出、昨年、法務人権委員会委員長に就任。

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