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100歳の平和への祈り

さまざまな肌の色の人々が手を差し伸べる。ピンクや黄色い色彩も灰色がかり、全体のトーンが抑えられている

(swissinfo.ch)

今年100歳を迎えたスイス人アーティスト、ハンス・エルニが平和への祈りを込めた壁画をジュネーブの国連欧州本部の入り口に制作した。

「すべてが動く( Everything is in movement ) 」と題された全長6メートルの壁画には、青と灰色のトーンで平和、愛、正義などのテーマが描かれ、人々に静かだが力強いメッセージを贈っている。

壁画から溢れ出る平和へのメッセージ

 壁面には、平和を鳩に、知恵をフクロウに、情熱と行動を馬に、地球の未来は子供たちの姿にと、人類の理想的で普遍的なテーマを象徴化したものが、白い輪郭線で描かれている。さらに、これらの形の周囲を白い線が渦巻き、からまり、全体がうねるような一つの流れになっている。

 また、壁画の一部で国連入り口のすぐ横の部分には、鳩の絵とさまざまな肌の色の人々が手を差し伸べる絵が描かれ、国連に入る人に平和を訴えているように見える。
 「国連の中へ入って行く、世界から集まった人々が、私の壁画から溢れ出る平和へのメッセージを受け取って会議に参加してくれるとしたら、私は世界で一番幸せな人間になる」
 とエルニはジュネーブの日刊紙「トリビューン・ド・ジュネーブ ( Tribune de Genève ) 」で語っている。

 「線は前もって考案されるのではなく、自然に湧き出て、そのときの感じやイメージを再生産していく」
 と語るエルニは、こうした平和への思いを線に翻訳しながら、壁画の下絵をまず大きな紙に描いた。次いでそれをコンピューターでスキャンし、セラミックのタイル上に直接エナメルを噴射するという特殊技術を使って完成した。

社会に参加するアーティスト

 エルニが、抗議集会の頻繁に行われる国連広場前に壁画を創作することになったのは、偶然ではない。彼は作品を通じて社会に参加するタイプのアーティストだからだ。

 画家となった当初の1930年代には、パリでミロ、ピカソ、カルダーなどと一緒に仕事をする抽象画家だった。
 「しかし、同時に思想的には左寄りで、30年代終わりには自分の思想と美的表現を具体化するのにふさわしい手段として具象表現を選択した」
 とエルニについての本を出版したジャン・シャルル・ジルウ氏は説明する。

 その後、ポスターや切手、壁画制作など、できるだけ多くの人の目に触れる表現方法を好んできた。また一貫して、母、女性、人体、自然、動物などのモチーフを、愛、平和などのテーマのもとに描いた。

オプティミスト

 100歳の今も毎日水泳をし、現役で創作を続けるエルニを「徹底したオプティミスト」だとジルウ氏は言う。
 「驚くべき活力の持ち主。その活力が絶えず新しい発見や疑問へと導き、また、現代の出来事にも批判の目を向けさせる。偏見、非寛容、極端な宗教心などを嫌い、そうしたさまざま思いがデッサンにと形を変えて行く。しかし、深いところで人類を信じているオプティミストだ」

 本人もスイスインフォのインタビューに答え、
 「もしアーティストか創作を行う人で、オプティミズムに支えられたひらめきがなければ、その人は破壊されてしまう。オプティミズムが創作力を与えるからだ」
 と語っている。

 「世界の普遍化は現実になりつつある。これは普通の人なら誰でもが望むことだ。普遍化こそが、孤立、強い国家、戦争のイメージを征服できる」
 と語り、国連を「国々と人々をつなぐ力を持ったもの」と捉えるエルニにとって、国連の入り口に生涯のテーマを表現できたことは、100歳の誕生日の年にふさわしい出来事だったように思える。

里信邦子 ( さとのぶ くにこ )、swissinfo.ch、

ハンス・エルニ氏略歴

1909年、2月21日、スイスのルツェルンに8人兄弟の1人として生まれる。

1927年、ルツェルン・アートスクールに入学。

1928年、ベルリン、パリなどのヨーロッパの都市に移り住む。キュビスムに影響を受け、カンディンスキー、モンドリアン、ピカソ、ブラックなどに出会う。

1930年、ロンドンで抽象表現の運動に出会う。ヘンリー・ムーアやヘップバースに会う。

1939年、チューリヒのスイス国内博覧会用に制作したフレスコの壁画で、一躍有名になる。この頃から具象表現に変わる。

その後、フレスコの壁画、ポスター、切手などを創作し、数々の賞を受ける。1983年には、国連から「平和賞」を贈られる。

1979年、ルツェルンに「ハンス・エルニ美術館」開館。

2009年、100歳を祝って数々の記念行事が行われている。2月21日には、切手が発行され、ヴァレー州マルティニ ( Martigny ) の「ピエール・ジャナダ基金」では3月1日まで回顧展が開催された。6月6日には、ジュネーブの国連( UN )欧州本部入り口の壁画の除幕式が行われた。

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