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2008年をニュースで振り返る

2008年、スイス最大のイベントはやはりEURO2008。ベルンの連邦議事堂前広場に、オランダチームのファンが大集合した Ex-press

2008年もいろいろな出来事がありました。スイスにとっての大イベントとなったサッカー欧州選手権「EURO2008」、北京オリンピックのほか、金融危機、閣僚を辞任に追い込んだスキャンダルなど。

この1年を振り返り、スイスインフォが選んだ主なニュースをご紹介します。

新年から悲劇

1月3日、ベルナーオーバーラントのクライネシャイデックで、スキーリフトのザイルが強風で滑車からはずれ、座席が転落した。正月休暇でスイスを訪れていたドイツ人スキー客1人が死亡した。ほかに1人が重傷、2人が軽傷を負った。

ヨーロッパ最大の絵画盗難

2月10日日中、チューリヒ市内にあるE.G.ビューレコレクションに強盗が押し入り、モネ、ドガ、セザンヌ、ゴッホの油絵4点が盗まれた。警察の発表によると今回の強盗事件は「ヨーロッパ最大の規模」だという。保険金を目当てに、絵を「誘拐した」とも言われた。しかしそういった脅迫も無く、2点の絵画はその後、美術館に戻ってきた。セザンヌの「赤いジャケットの子ども」とドガの「ルドヴィク・レピクとその娘」が行方不明のままビューレコレクションは6月に、グループ見学を再開した。

EUとの国境

5月27日、スイスと欧州連合 ( EU ) はブリュッセルで、人の往来の自由に関しEU側の対象国をこれまでの25カ国から、ルーマニアとブルガリアにまで拡大するという調書に調印した。国民による批准は2009年の国民投票によって行なわれる。

サッカーの夏

6月8日から29日まで、スイスとオーストリアの共催でEURO2008が開催された。スイスチームは3試合あるリーグ戦で2試合負けてしまった。スイスチーム最後の試合となった6月15日の対ポルトガル戦では、2対0でポルトガルを破り、スイスは国を挙げて大喜びだった。

最終的に優勝したのはサッカー大国であるスペイン、準優勝したのはドイツだった。

テニスのフェデラー

7月6日テニスの殿堂ウィンブルドンで決勝戦が行なわれた。ウィンブルドン史上初の6連覇を狙うフェデラーはしかし、4時間48分というウィンブルドン史上最長の決勝戦で、スペインのラファエル・ナダルに敗北。世界ランキング1位の座をナダルに譲った。
9月8日の全米オープンではフェデラーが優勝し、5連覇を果たした。全米オープンでの連続5回の優勝は、1924年のアメリカ人ビル・チルデン以来、84年ぶりの快挙だ。

スイスの世界遺産9カ所に

7月7日、ユネスコ( Unesco ) の世界遺産委員会はスイスのレーティシュ鉄道のアルブラ線 ( Albura ) と、ザンクトガレン、グラールス、グラウビュンデンの各州にまたがって伸びる「グラールス押しかぶせ断層」を新たに世界遺産として指定した。スイスの世界遺産はベルン旧市街、ザンクトガレン修道院、ラヴォーのワイン畑など、今回の2つを含め9カ所となった。

軍総裁のスキャンダル

スイスドイツ語圏のマスコミのリークで、今年からスイス軍総裁職に就任したロラント・ネフ氏は、元ガールフレンドに対しストーカー的行為や暴力を振るったかどで告訴されていたことが判明。総裁任命の責任者であるサムエル・シュミット国防相が7月21日、記者会見を開いた。シュミット国防相はネフ氏の私生活について「知らなかった」と発言し、ネフ氏に事情説明を求めた。

その後、シュミット国防相は、ネフ氏の私生活などについて、実際に知る立場にあったことが判明。この事件が発端で、シュミット大臣は11月辞任に追いやられることになった。

リビアとの関係悪化

スイス外務省は7月23日、ベルンで記者会見を開き、リビアで拘留されていたスイス人2人は、2人が所属するABB社が保釈金として1万8000フラン ( 約186万円 ) を支払い、29日夕方保釈されたと発表した。スイス人の拘留の発端となったのは、ジュネーブに住んでいたリビアのガダフィ大佐の息子夫婦が、その使用人2人に対する傷害、恐喝などの疑いで、7月15日に逮捕されたことだ。以降、リビア政府はスイスに対し、さまざまな報復措置を行なってきた。

9月2日になって、被害者の使用人2人が告訴を取り下げたことから、いったん、事件には終止符が打たれたが、10月上旬、リビアの国営通信がリビア政府はスイスの銀行に預けてある預金をすべて解約すると報道。その総額はおよそ80億フラン ( 約7060億円 ) に上ると見られている。 

アイガー記念の年

8月11日、ベルン州グリンデルワルトの村と近郊の峠クライネシャイデックで、150年前のアイガー初登攀を記念する2つの銘板の除幕式が執り行われた。初登攀を成し遂げたのはアイルランド人とスイス人の2人だった。今年はアイガー北壁初登攀70周年記念などにも当たり、数多くの記念式典が行なわれた。

国際ロカルノ映画祭では、ドイツ、オーストリア、スイスの共同制作による映画「北壁 ( Nordwand ) 」も公開された。

スイスでシェンゲン・ダブリン協定の実践

8月14日、シェンゲン情報システム ( SIS ) がスイスで稼動し始めた。これまで利用されてきたインターポールのシステムと異なり、コンピューターで直接、指名手配中の人物や物品に関する情報を得ることが可能になった。

12月12日からは、国境での旅券およびIDカードの検査は行なわれなくなった。一方、車による国境一帯のパトロールや国際列車内の検査などは強化される。物品の関税検査はこれまで通り行なわれる。

青少年とアルコール

8月末、若者が野外に大勢で集まってアルコールをがぶ飲みする「ボテヨン ( Botellón ) 」がスイス各地で開催される動きとなり問題となった。ローザンヌ、ベルン、チューリヒなどの市当局は、これを黙認するわけにはいかないと表明。医療手当ての費用などは当人に負担させるなど厳しい態度で接した。

スペインが発祥のボテヨンは、インターネットのソーシャルネットワーク上で参加を呼びかけるため、短時間で大勢が集まり、しかも、開催の責任を誰が負うのか不明であるという、新しい問題を浮き彫りにした。

北京オリンピックのスイスの成績

8月8日から24日まで開催された北京オリンピックでは、ファビアン・カンチェラーラー選手が男子自転車ロードタイムトライアルで、ロジャー・フェデラー&スタニスラス・ワウリンカ両選手が男子テニスのダブルスでそれぞれ金メダルを獲得した。

そのほか、男子自転車ロードレース、女子自転車ロードタイムトライアル、男子柔道90キロ級、男子MTBクロスカントリーでそれぞれ銅メダルを獲得した。カンチェラーラー選手は、今年末にクレディスイス・スポーツ大賞を受賞した。

名誉回復

226年前、グラールス州議会が魔女として死刑を宣告したアンナ・ゲルディが8月27日、無罪となり、当時の裁判は「裁判による殺人だった」と同州政府と議会が認めた。また、スペイン内戦でフランコ軍に対し闘ったおよそ800人のスイス人義勇兵の名誉回復の要求も、年末になって受け入れられそうな動きが見えてきた。

世界文化賞にズンドー氏

9月16日、財団法人日本美術協会主催の第20回高松宮殿下記念世界文化賞が発表され、建築部門でスイスの建築家ピーター・ズントー氏が受賞した。

世界文化賞は「芸術のノーベル賞」とも言われ、演劇・映像、絵画、彫刻、建築、音楽の5部門の受賞者にそれぞれ1500万円の賞金が贈られる。授賞式は10月15日に東京で行われた。

セルン稼動後、故障

9月10日午前10時28分、宇宙誕生の謎を解明するために建設されたセルン ( Cern ) の「大型ハドロン衝突型加速器 ( LHC ) 」内を陽子ビームが初めて1周した。LHCは、宇宙が誕生した瞬間を人工的に再現し、ビッグバンが起こった1兆分の1秒後の宇宙と同じ状況を、光とほぼ同じ速度に加速された陽子ビーム同士を正面衝突させることで作り出す。

世界の注目を浴びたLHCだが、数日後に故障。修理のため現在のところ運転停止状態にある。稼動再開は来年6月になる見込み。

UBS銀行に公的資金投入

10月16日、スイス政府は世界中を揺るがす金融危機対策の一環として、スイス最大手のUBS銀行の60億フラン ( 約5254億円 ) に上る強制転換社債を購入する形で資金的援助を行なうと発表した。また、スイス国立銀行はUBSの特定目的会社を設立し、最高540億ドル ( 5兆4000億円 ) を融資すると決定した。

UBSはその後、一部の経営陣や元幹部らが、ボーナスなどを返却したり、今後の報酬支払い制度の改善などを表明したものの、多額なボーナスについては左派グループから非難が上がり続けている。年末の連邦議会では、UBSに対するボーナス規制など経営方針を規制する提案は却下された。

ランビエール引退

10月16日フィギュアスケートで2度、世界チャンピオンになったステファン・ランビエールが、競技生活からの引退を発表した。2010年のバンクーバーオリンピックまで戦うつもりだったが、今年3月の世界選手権ヨーテボリ大会で負傷していた内転筋が再び悪化し「トレーニングで100%の力を出すことができない」ことが理由だという。

新連邦大臣選出

12月10日、状上・下院合同連邦議会で、11月に引退を表明したサムエル・シュミット国防・スポーツ相・国民党 ( SVP/UDC )の後任として、国民党から推薦されたウエリ・マウラー氏が当選した。対抗馬として国民党以外の党から推薦されていたハンスイェルク・ヴァルター氏 ( 国民党出身 ) との票差はたった1票だった。2009年の大統領は輪番制でハンス・ルドルフ・メルツ財務相。メルツ財務相は9月に心停止でバイパスの手術を受けたが、11月には職務に復帰した。

swissinfo、構成 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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