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国民党のギー・パルムラン氏、新閣僚に

閣僚に選出された直後のギー・パルムラン氏。報道陣をかき分け、残る6人の閣僚が待つ部屋に就任の挨拶に向かう Keystone

右派国民党のギー・パルムラン氏(56)が9日、新閣僚に選出された。ヴィトマー・シュルンプフ現財務相が辞任を表明して以来、国民党はこのポストを狙い3人の候補者を立てていた。その1人がパルムラン氏だった。選出直後の演説でパルムラン氏は、「仏語圏を代表する閣僚として全力投球し、決断力を持って国民の信頼を勝ち取る内閣にするよう他の閣僚と協力していきたい」と決意を語った。なお、7人の現閣僚のうち残る6人は、荒波が立つこともなく再選された。

 スイスの農業と伝統を党の指針とする右派国民党の党員らしくパルムラン氏は、仏語圏ヴォー州でワイン生産を行う農業家。一方政治家としてのキャリアも長く、03年以来連邦議会の下院議員として、03~11年に連邦議会内の社会安全委員会と国民健康委員会、11~15年に環境・エネルギー委員会のメンバーを務めている。政治家として目立った失敗もなく、また右派の政治家にしては人種差別的な発言もなく、その穏健でバランスの取れた人柄が、左派からも支持された。

 国民党の3人の候補者は、ドイツ語圏から若いトマス・エッシ氏(36)、イタリア語圏からノルマン・ゴビ氏、そしてフランス語圏からパルムラン氏と、「各言語圏から代表を内閣に送り込む」という一つの暗黙の約束を尊重したものだった。パルムラン氏と並んで、有力候補と見られていたエッシ氏は、経済学で有名なザンクトガレン大学とハーバード大学で修士号を修め、インターナショナルな学歴と優れた語学力で、内閣に新風を吹き込むと考えられていた。

 しかし、あるゴシップが発覚し、また行政での経験不足がやはり問題にされた結果、当選しなかったと見られている。

一致の原則とマジック・フォーミュラー

 9日午前8時に始まった閣僚選は、ヴィトマー・シュルンプフ現財務相の辞任演説で幕を開けた。そもそも今回の閣僚選は、同財務相の辞任で空いた席をめぐっての争奪戦だった。

 10月の総選挙で議席数を伸ばし第1党に躍り出た国民党は、07年に失ったもう一つの閣僚ポストの奪回を図り、少数派・市民民主党(BDP/PBD)の財務相に辞任を迫ったのだった。

 スイスでは1959年から2003年まで、7人の閣僚の席をめぐって、こうした争いが起こることはまったくなく、閣僚選は安定した単なる「儀式」だった。それは、「内閣での主張力は、連邦議会に占める党の議席数に比例して尊重される」という、一致の原則に基づき、その結果、連邦議会の上位4党の、急進民主党(FDP/PLR)、社会民主党(SP/PS)、キリスト教民主党(CVP/PDC)がそれぞれ二つ、国民党(SVP/UDC)が一つ、閣僚の席を占める配分で安定してきたからだ。この配分率を「マジック・フォーミュラー(魔法の法則)」と呼んでいる。

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「マジック・フォーミュラー」

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの内閣閣僚は何人?答えは7人だ。だが、内閣を構成する政党の比率はどうだろう?2+2+2+1?それとも3+2+2?スイスでこれほどまでにこの比率が問題にされるのはなぜだろうか?

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 こうした安定した配分率が崩れたのは、03年に国民党のクリストフ・ブロッハー氏が閣僚として当選し、国民党が二つの内閣の席を占めたときからだ。さらに07年、左派と中道派の策略によりブロッハー氏の代わりに国民党のヴィトマー・シュルンプフ氏が閣僚になるというハプニングがあった。怒ったブロッハー氏によって同党から離脱させられたヴィトマー・シュルンプフ氏は08年、市民民主党に入党。その結果、配分率はさらに変化し、急進民主党の2席、社会民主党の2席を除くと、キリスト教民主党、国民党、市民民主党がそれぞれ一つの席を占めることになった。

 08~15年は、ある意味で上記の配分率で安定し、今回の閣僚選で再び03年の配分率に戻ったことになる。

合議制と今後の課題

 テレビに映し出された下院議員200人と上院議員46人が集まった連邦議会(国会)の閣僚選出。そこでは、一人ひとりの議員が投票用紙に支持する閣僚の名を書き込み、回ってきた投票箱に入れている。横の個室では、票を数える5、6人が囲んだテーブルの上に、投票用紙が投票箱から取り出される。これを結局3回も繰り返しパルムラン氏は選ばれた。

 こうした「古風な」投票のやり方を含み、1人の閣僚の選出がこうも重みを持つのは、閣僚が1年交代で大統領を務めるという責任ある任務であり、スイスの民主制のもう一つの特色「合議制」が内閣の基盤をなしてもいるからだ。

 この合議制とは、閣僚の7人がまずそれぞれの意見を尊重しながら話し合い、話し合って出た結果は、7人中たとえば3人が本当は反対していても、内閣の決定として一丸となってこの結果を支持する姿勢だ。

 しかし、こうした合議制の存在にもかかわらず、新内閣が抱える問題は大きい。特に、国民党が推し進める「難民・移民制限」の問題と欧州連合(EU)との二者間協定を維持するか否かの問題は、右派、左派、中道派の立場が大きく分かれており、妥協案が見いだせない中、それでも新内閣が即座に取り掛かるべき課題となっている。

 激動の時代にあって、本来国民党の姿勢に反対の社会民主党の党首は、「一致の原則にのっとり、早く安定した内閣を形成して問題に取り掛かる必要がある」と国民党のパルムラン氏を暗に支持するような発言を、3回目の投票前に行っていた。

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