スイスの5カ所の原子力発電所を今後数十年かけて段階的に廃止するという新エネルギー戦略。その是非が有権者に問われる。
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スイス国民党は19日、政府が2011年の福島の原子力発電所事故後間もなく立ち上げた「エネルギー戦略2050」に対するレファレンダムを申請した。
これまで100日間で集めた6万3千人以上の署名を提出し、全国投票に持ち込むという。投票は5月21日に予定されている。
政府は再生可能エネルギーの推進戦略の中で、2035年までに全国のエネルギー使用量を2000年のレベルから43%削減することを目標としている。また、二酸化炭素および他の産業用温室効果ガスの排出量を削減し、化石燃料の輸入を減らすことも狙っている。現在、スイスで消費されるエネルギーの3分の2が石油とガス由来だ。
「コストがかさみすぎる」
保守右派のスイス国民党は原子力を支持しているため、政府の戦略に反対している。
「原子力発電から離れる方向へ進めば、エネルギー供給が危うくなり、外国市場への依存が高まる」と、アルベルト・レスティ国民党党首は話す。「このエネルギー源を禁止するのも間違いだ。20年や30年でそれより安全な技術が開発できるかわからないのだから」
レスティ党首によれば、政府の戦略はコストがかさみすぎるという。
「新法で導入されるグリーンエネルギー戦略は財政的に維持できない。20年以内にエネルギー消費量を43%削減しようと思えば、特に化石燃料に関して必然的にコストが跳ね上がる。そしてつけを払うのは国民と経済だ」
国民党の計算では、政府の戦略が実施されれば、平均的な家族4人の世帯で年間3200フラン(約36万5千円)コストが上がる見込みだという。
「仮定上の数字」
他の政党はスイス国民党の計算をはねつける。左派の社会民主党の院内会派のロジャー・ノードマン会長は、「仮定上の数字に基づいた誤った推論」だと話す。
ノードマン会長によると、新法が導入されてもエネルギー価格の上昇はごくわずかで、「一世帯あたり年間で最高40フラン」にとどまるという。
ノードマン会長は、「エネルギー戦略2050」に盛り込まれている効率の向上とエネルギー使用量の削減により、最終的にエネルギーコストは下がるとみている。また、化石燃料の輸入量が減り、技術革新が進み、再生可能エネルギーが増えることにより、経済にとってさらに良い影響があるだろうとも付け加えている。
(英語からの翻訳・西田英恵)
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二国のエネルギー政策を取り巻く環境は共通する面が多い。日本とスイスはともに代表民主制を採る。輸出中心の工業立国であり、数十年間核エネルギーが重要な役割を担ってきた。2010年時点で両国とも原子力発電が電力総需要のほぼ3分の1を占めていた。
だが原子力の平和利用は核だけでなく現代社会を分裂させる。日本でもスイスでも、最初の原子力発電所の設立計画が動き出した1950年代、数百万人が危険な技術に反対してデモ行進をした。
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緑の党の党員で国会議員でもあるクリスチャン・バン・シンガーさんは、 物理の専門家として「世界の物理学者は戦後、原爆のあの膨大なエネルギーを何かに使いたいと原発を考案したが、二つの問題を全く無視していた。事故のリスクと核廃棄物の問題だ」という。
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天然資源の世界消費量は1980年代以降、地球が自然回復できる量を大幅に超え続けている。国連環境計画(UNEP)によると、今の先進国の経済モデルを維持したまま発展途上国で資源消費量が上昇すれば、天然資源の消費量は2050年までに3倍に膨れ上がる。
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砂岩の上に幽霊のように伸びる城壁。廃墟となったグラスブルグ城のすぐ先で、森の小道はセンゼ川の岸辺に下りていく。スイスの緻密に管理された自然風景の中にあって、この辺りは珍しく野生が残っている。
「ここには非常に多くの種が生息している。植物も昆虫も魚も。本当に驚くべき場所だ。スイスの熱帯雨林と言ってもいい」と話すのは、世界自然保護基金(WWF)スイス支部で、「持続可能な水力発電プロジェクト」のリーダーを務めるジュリア・ブランドルさんだ。
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