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80年間消えない地獄 「核なき世界」訴える広島の被爆者 

1945年11月に撮影された広島県産業奨励館(原爆ドーム)と爆心地付近
1945年11月に撮影された広島県産業奨励館(原爆ドーム)と爆心地付近 HB405、撮影:米軍、提供:広島平和記念資料館

被爆者の児玉三智子さん(87)は、被爆による差別を乗り越え、国内外で戦争の「地獄」の記憶を語り継ぎ、核兵器廃絶を訴え続けている。被爆80年となる今、核の脅威が再び高まる世界に問いかけを投げかける。 

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1945年8月6日、米軍が広島に原子爆弾を投下し、3日後には長崎にも投下した。この結果、日本は降伏し、第二次世界大戦は終結したが、推定21万人の命が犠牲となった。 

児玉さんが被爆したのは国民学校2年生、7歳の時。爆心地から約4キロ離れた広島市郊外の校舎にいた。爆風を受けながらも生き延び、「被爆者」となった。現在、存命の被爆者は10万人を下回り、平均年齢は86歳を超えている。  

被爆による不安と喪失 

戦後の社会では、被爆者は差別や偏見にさらされ、自身の被爆体験を公に語り難い状況にさえあった。「被爆者は結婚すべきでない」「生まれてくる子どもに障害が出る」といった言葉が飛び交った、と児玉さんは振り返る。体の中に入った見えない放射能を背負い、人間として生きる権利すらないように扱われ、「被害者以外の生き方ができない」日々だった。 

長年、体験を語ることはなかったが、その「地獄」の記憶は消えなかった。「爆心地から逃げてくる人たちを目にしたが、皮膚が焼けただれてぶら下がった人…私と同じくらいの女の子がもう顔半分焼けただれ、体ももちろん焼けただれ、口もきけなくなっていたので、目で私に訴えた。『水をください。助けてください』…とても辛かった。でも、何も、声をかけることもできないし、水をあげることもできなかった」。子供の頃に目撃したその光景は、今も脳裏に焼き付いている。 

*この映像には、衝撃的な内容が含まれています。報道や情報提供を目的としていますが、一部の方には不快に感じられる可能性があります。ご留意ください。 

その後、児玉さんは結婚し娘を授かったが、「健康に生まれるのか、生き延びられるのか」と不安だったという。娘さんが2011年にがんで亡くなり、「自分のせいではないか」と今も自問する。 

児玉さんは現在、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)で事務局次長として活動。2024年には、同団体がノーベル平和賞を受賞したが、児玉さんはこの受賞を、「沈黙、偏見、差別との長年の苦闘が認められたと受け止めると同時に、未来への警鐘と捉えている。 

未来への声 

近年、ウクライナや中東の紛争、東アジアの緊張の高まりにより、世界的な軍拡や核共有の議論が再び注目を集めている。被爆者である児玉さんにとって、こうした動きは自身の悲惨な記憶を呼び起こし、胸の奥にやり場のない苦しさが込み上げてくる。 

「私たち被爆者はまだ生きていて、怒っている。一日も早く核のない世界になれるように。私たちはいずれいなくなるが、次世代が同じ経験をしないよう、できる限りのことを継承していかなくてはいけない」と児玉さんは話す。被爆者として語り継ぎ、記憶を残し、過去の経験を風化させないことが自分の責任だと考える。 

児玉さんは「私たちはすでに経験した。核兵器がもたらす破壊を知っている」と述べる。「もう被爆者を作ってはならない」「核を廃絶しなければならない」 

現在も児玉さんは、国内外で証言活動を続けている。学校や国際会議、国連などで、自らの被爆体験を語っている。「本来なら、今頃は日向ぼっこをして過ごすおばあちゃんになっている年齢かもしれない。でも、87歳になった今も、被爆者を作らないよう、核兵器を無くすために被爆体験を語り続けている。誰かが伝えなければならないから」  

編集:Virginie Mangin / ds、校正:ムートゥ朋子

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