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軍需投資禁止は金融政策の敵ではない

イニシアチブが可決されれば、スイスの中銀や各金融機関は、メンツィンゲンにあるアメリカのパトリオット地対空ミサイル用レーダーにも投資できなくなる Keystone / Alexandra Wey

スイスではまもなく、中央銀行や金融機関に軍需企業への投融資を禁じる「戦争ビジネス・イニシアチブ」をめぐる国民投票が行われる。スイス国立銀行(中央銀行、SNB)はこのイニシアチブが同行の中立性を制限すると見なし、否決への働きかけに懸命だ。だが、経済学者ファビオ・カネッジ氏は、必ずしも中立性が危ぶまれるとは限らないと分析する。

このコンテンツは 2020/11/14 09:00
Fabio Canetg

武装闘争はスイス人にとって、もはや172年前から話に聞くだけの存在だ。それでも間接的な関与は依然として続いている。スイス国立銀行が軍需産業に投資しているからだ。

米レイセオン社も投資先の一つであり、出資額は3億6900万フラン(約422億円)に上る。ニューヨークタイムズ紙によると、レイセオン社製のロケットはイエメン内戦で一般市民を標的として投入されている。SNBはこのような軍事ビジネス企業に総額およそ200億フランを投資している。

そんな投資はもう終わりにすべき。そう要求するのが「軍需産業への出資の禁止を求めるイニシアチブ」だ。国民投票で可決されれば、スイスの金融機関は将来、軍需品製造が売り上げの5%を上回る企業への投資を禁じられる。

イニシアチブ反対を表明しているのは、連邦議会の過半数、連邦政府、そしてSNBだ。トーマス・レヒシュタイナー国民議会(下院)議員(キリスト教民主党/CVP/PDC)は連邦議会の討議中、「投資の制限というSNBの中立性に対する攻撃は、その根本的使命を危険にさらす」と警告した。SNBの使命とは、物価の安定を図ることだ。

金融政策上の中立的立場は必須

このような懸念はどこから来るのか。SNBの中立性は、実は学術研究の賜物だ。1970年代、高インフレ率に見舞われた後に研究が始まり、今後再び発生しうる物価高を阻止できるのは中立的な金融政策のみであり、大盤振る舞いに走る財務省は発券銀行の金づるから断ち切るべきだという結果が出たのだ。

それがSNBに包括的な中立性が与えられた理由の一つだった。SNBは連邦政府からも連邦議会からも指示を受けない。どのような金融政策を講じるかについては、独自の決定を下すことができる。

このような中立性の重要性が示されたのが2012年夏、フランの対ユーロ上限を固守するために、SNBが1500億フラン以上を投じたときだった。また、2015年1月にこの上限を突然廃止するときにもこの中立性が役立った。このような不評の決定を下すことができたのは、SNBが政治に影響されないところで裁量できたからだ。

SNBは法の枠外にいるわけではない

SNBが何らかの決定を行う際に考慮するのは、物価安定の目標だ。そこに、政治的、経済的、社会的な他の目標が割り込んでくると、掲げた課題にきちんと対応できなくなる可能性が出てくる。

つまり、SNBには中立性が欠かせないのだ。だがそれは絶対的ではなく、その領域は金融政策に限られている。それ以外のすべてにおいては立法機関、つまり連邦議会が独自の判断で調整を図り、SNBには労働法や均等法なども適用される。

そうなると、SNBは果たして投資政策に関する、意に沿わない新規則も実行しなくてはならないのかという問いは、本質から外れていると言えよう。それよりも、提示された草案がSNBの金融政策を制限することにならないのかと問うことの方が大事だ。

SNBのアンドレア・メクラー理事は、2019年に行った講演でまさにこの問題について警告を発した。運用方針の規制が厳しくなると金融政策の引き締めが難しくなる、そう訴えたのだ。インフレが想定以上に進みそうなときは、SNBは投資を迅速に流動化できなくてはならない。だが、運用方針上の制限が多すぎると、それが不可能になる、ということだ。

バランスシート縮小は考慮外

これを具体的な例にして見てみよう。連邦議会が外貨保有高のすべてをフェイスブック株に投資するようSNBに義務付けたとしたら、この株を突然売却したときに不都合な影響が生じるだろう。つまり、SNBは他の株価はそのままに、フェイスブックの株価のみを下落させてしまうのだ。

株式市場で利益や損失を生み出すことほど、SNBが嫌うものはない。SNBはできるだけ「市場中立的」な運用を試みる。しかし、バランスシートの縮小は個々の株や投資分野の価格だけにとどまらず、金融市場全体を動かしてしまう。

一方で、メクラー氏の主張には、金融政策に対する見識が時代遅れであることも表れている。SNBは、インフレが進んだからといって有価証券を手放すことはない。モノやサービスの価格上昇は、他の手段でも阻止できるからだ。

このことは2010年にすでに実証済みだ。当時、SNBは外貨購入によってインフレが急激に進むのではないかと懸念していた。しかし、それを回避するために、SNBは有価証券を売りに出すのではなく、「SNB債」と呼ばれる債券を発行した(詳しくはこちらを参照)。こうして、バランスシート縮小を避けつつ、通貨供給量を減らすことに成功したのだ。

米中央銀行の連邦制度準備理事会(FRB)もまた2015年、有価証券を売却することなく金融政策の引き締めを行った。政策金利を引き上げたのだ。このように、たとえ中銀が有価証券をいとも簡単に手放せたとしても、金融政策はその手段を使わずしてきちんと機能するのだ。

SNBの中立性は維持される

欧州中央銀行(ECB)もまた、同じ見解であるようだ。クリスティーヌ・ラガルド総裁は就任以来、グリーンな投資方針を推進している。この新しい方向性が金融政策に及ぼす影響については、総裁は心配しているわけではない。

スイスでも、「軍需産業への出資の禁止を求めるイニシアチブ」が可決されたとしても、金融政策上は何の影響も出ないだろう。どの主要分野でもSNBは中立性を保ち、これまで通り業務を遂行できるはずだ。SNBが武器製造業者に投資をすべきかすべきでないかは、金融政策においてはまったく重要ではないのだから。

※筆者のファビオ・カネッジ他のサイトへ氏はゲルツェンゼー研究センターの研究員。

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