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スイスに厳しい現状も、国連では「コップの中の嵐」

国連本部
世界政治の舞台、ニューヨークの国連安全保障理事会の議場の様子。スイスは2023〜24年の非常任理事国(10カ国)を務める © Keystone / Alessandro Della Valle

スイスへの風当たりが強い。ウクライナへの武器再輸出禁止や、ロシア資産の凍結に及び腰なのに加え、ここにきてクレディ・スイスの破滅が重なった。この状況下ではスイスの国連安全保障理事会における初仕事にも悪影響があると考えて当然だろう。しかし、ニューヨークの国連本部では、どこからもそうした話は聞かれない。

理論上、国連加盟国193カ国はいずれも平等だ。だが実情は異なる。国連で最も強力な機関である安全保障理事会の常任理事国5カ国は、拒否権のおかげで特権階級を形成している。その大使らは、ニューヨーク・イーストリバー沿いの国連本部界隈では王侯貴族だ。

その1人、ニコラ・ド・リヴィエール仏国連大使(59)は、ここ国連本部でも一目置かれる存在だ。その大物外交官をして「安全保障理事会でのスイスおよびスイス国連大使パスカル・べリスヴィル氏との協力関係には、私を含めチーム全員が非常に満足している。そこには一点のかげりもない」と言わしめている。

ものごとを美化せず、必要とあれば歯に衣着せぬことで知られるド・リヴィエール氏が「全ての重要問題、主原則や国際法、人権に関しフランス及び欧州連合(EU)は、スイスと同じ側に立っている」と述べているのだ。

ド・リヴィエール氏は、スイスの取り組みが中立政策ゆえに不足しているという印象は全く持っていない。「我々は中立というものを承知し尊重している。そして時にスイスが橋渡し役や交渉のプラットフォームとして、また、その人道的伝統と赤十字国際委員会(ICRC)のおかげで特別な役割を担うことは有益なことだ」と捉えている。

しかし、ウクライナへの武器再輸出を拒み、オリガルヒ(新興財閥)の資金凍結には消極的といったスイスへの批判についてはどうか。ニューヨークでスイス国連代表団を率いるベリスヴィル氏によれば、国連本部ではこれらはごくたまに、しかも軽く触れられる程度だ。もちろん、これらが安保理で本筋のテーマではないという理由もある。

ド・リヴィエール氏は「こうした場合は対話を持つ。我々はさまざまな国に対し方針の転換を働きかけることがある。それはスイスだけとは限らない。ただし決定的なのは、ロシアによる攻撃に対しスイスは終始一貫して明確な非難を表明し、欧州連合(EU)の制裁措置に追従していることだ。そこが大きくものを言っている。ちなみに、スイス・EU間だけでなくEU内部にも、はるかに深刻なケースも含めいくばくかの齟齬(そご)はある」と説明する。

これについて同氏は、独政府がウクライナ戦争開始以降、どれほど軌道修正せざるを得なかったかが何よりの証拠だと指摘する。

ド・リヴィエール氏が抱くようなスイス観は、国連本部内において決して孤立した意見ではない。同様の話は関係者との会話中、何度となく耳にする。例えば、前スウェーデン国連大使で現EU国連大使のオロフ・スクーグ氏は「スイスとは素晴らしい協力関係にある。まさにウクライナ問題でもスイスは原則に基づく確固たる立場を取っている。それが我々の受け止め方だ」と話す。

一方スイスと同時に非常任理事国として安保理入りしたマルタのヴァネッサ・フレージャー大使は、スイスをEUプラスの国とまで呼ぶ。「こうした言い方を歓迎しない人々もスイスにはいるだろう」としながらも、主要問題でEUとスイスの考えが似通っているのは事実だと主張する。同氏もスイスにイメージ問題があるとはいささかも考えていない。

リヒテンシュタイン国連大使を長年務めるクリスチャン・ウェナウェザー氏も「今はスイスにとって最も平穏な時とは言えないかもしれない。しかし、それが安保理での立場に悪影響を及ぼすとは思わない」という意見だ。そして武器輸出やオリガルヒの資金といった話題は、国連本部では非公式かつ軽く議論されるにとどまると述べる。

「国連の外交官はもちろん新聞を読むし、スイスの決定が批判されていることも知っている」と話すのは、シンクタンク「国際危機グループ」のリチャード・ゴーワン国連担当部長だ。「しかし、スイスは攻撃下にあるウクライナの信頼できるパートナーだというのが全体的な認識だ」

さらに決定的な要素がある。それは、欧州ではほぼ全ての国がウクライナを支持し対露制裁を課している一方で、世界的視点に立てば様相が一変するという事実だ。世界の大多数の国は制裁に加わっておらず、多くはロシアによる対ウクライナ戦争を世界政治の最重要課題だとも捉えていない。

つまり全ては視点次第と言える。国連という大きな舞台とスイスや欧州では、その視点が異なるのだ。

外国からの批判はスイスでは大抵の場合ショックを持って受け止められ、困惑や不安すら招く。しかし、ベルンの視点からは非難の嵐のように見えるものも、ニューヨークではむしろコップの中の嵐だ。武器輸出、オリガルヒ資金、そしてクレディ・スイスの破綻。後者のせいでスイスの金融センターの威信は失墜しても、スイスの政治的評価は別だ。

ド・リヴィエール氏は「我々はクレディ・スイス危機の進行と同時に、スイスがいかに迅速に毅然と解決策を打ち出したかも目の当たりにした」と話す。現在ニューヨークでスイスの安保理入り、ひいては国連への加盟自体を付加価値として評価しない人を探すのは困難と言える。

独語からの翻訳:フュレマン直美

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