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スイス総選挙2023、閣僚ポスト配分に異変も? 第3回世論調査

政党集会の様子
国民党(SVP/UDC)は支持を集めるため、移民制限策をアピールしている © Keystone / Urs Flueeler

10月のスイス総選挙に向け、保守系右派の国民党が支持率を高めている。スイス公共放送協会(SRG SSR)の実施した世論調査はやや右寄りに回帰する兆候を見せるが、近隣諸国のような右傾化は起こらなさそうだ。

国民党は2003年以降、議会第1党の座にある。10月22日投開票の議会総選挙に向けた第3回世論調査では、現時点での投票先に国民党を挙げる人が27.1%に上った。得票率としては同党史上3番目に高く、前回総選挙(現在の議席占有率)を1.5ポイント上回る。ただ前回総選挙での減少分(3.8ポイント減)を挽回するのは難しそうだ。

一方、緑の党(GPS/Les Verts)の支持率は下がり続けている。予想得票率は10.2%と、現状を3ポイント下回る。調査を受託した世論調査会社ソトモの政治学者サラ・ビュティコファー氏は「緑の党は2019年に増やした議席の半分を失いそうだ」と話す。リベラル寄りの自由緑の党(GLP/PVL)は0.5ポイントと微増にとどまり、4年前の前回選挙で大勝した環境政党の苦戦が目立つ。

緑の党を離れた左派票の一部は社会民主党(SP/PS)に回帰しているとみられ、同党の得票率は1ポイント増加する見込みだ。

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他の政党は安定した支持を保つが、議会の勢力図に歴史的な変化が起こる可能性はある。第3党の急進民主党(FDP/PLR)と次点の中央党(Die Mitte/Le Centre)が競り合っており、近代スイス国家樹立の立役者だった急進派が第4党に転落するシナリオが浮上している。ソトモのミヒャエル・ヘルマン代表は「キリスト教民主党(CVP/PDC)と人民民主党(BDP/PBD)が2021年に合併し中央党となったのが奏功した」と解説する。

議会勢力の変化は連邦内閣のポスト配分にも影響する。伝統的な原則では、7人の閣僚ポストのうち第1~3党に2ポストずつ、第4党に1ポストが配分される。急進民主党の獲得議席を上回れば、中央党の閣僚ポストが1つ増える可能性がある。「いずれにせよ、緑の党が閣僚ポストを主張し続けるのは難しいだろう」(ビュティコファー氏)

2023年10月22日に実施される連邦議会選挙に向けた世論調査「第3回選挙バロメーター」はスイス公共放送協会(SRG SSR、swissinfo.chの親会社)の委託を受け、調査会社ソトモが実施。6月8~22日にかけSRG SSRとソトモの各ウェブサイトで実施。国内外に住む計2万5216人の有権者から回答を得た。標準誤差は±1.2%。

調査参加者は自らの意思で(オプトイン)で協力しているため、結果は必ずしも全国民を代表するものではない。例えば政治に関する調査には女性よりも男性の方が参加する人が多いといった歪みがあり、統計学的に補正される。

「修正」選挙

現在の投票意思によれば、左派政党全体の議席占有率は2ポイント減ることになる。一方、急進民主党の衰勢により右派政党も1ポイントしか増えない。国民党が議席を増やしたとしても、スイスが2015年総選挙のような右傾化をみせるわけではない。ヘルマン氏は「むしろ、環境派・革新派が勝利した2019年の反動という『修正選挙』という位置づけだ」とみる。

世論の二極化はスイスでは進んでいない――ソトモはこう結論付けた。この点で、スイスの政治勢力図の変化は近隣諸国のそれとは対照的だという。イタリア、ドイツ、フランスの世論調査では、右傾化が加速する兆候が出ている。これらの国との違いは、スイスがインフレをはじめとする危機に近隣諸国ほど脅かされていないためではないか、とソトモは分析する。

最重要課題は「環境」

環境政党の失速をよそに、有権者にとってのスイスの最重要政治課題は依然として「環境」だ。6月18日の国民投票で環境保護法への賛成が明らかに過半数を上回ったのは、このテーマがいかに重視されているかを裏付ける。「ただ2018年夏の熱波の記憶が新しかった前回総選挙に比べ、緑の党が得る恩恵は小さそうだ。環境は依然として重要なテーマではあるが、もはやそれほど大きな動員力はない」(ソトモ)

環境保護法は可決されたが、国民党は同法への反対キャンペーンを繰り広げたことで「主要政党内での存在感を押し上げた」(ビュティコファー氏)

有権者は第2の重要課題に「医療保険料」、第3に「移民」を挙げている。在外スイス人にとっての懸念事項は多少順位が異なり、医療費よりも「対欧州連合(EU)関係」を重視している。在外スイス人の大半はEU内に居住し、スイス医療保険に加入していないためだ。

クレディ・スイスと「ウォーキズム」

「苛立ちを覚える時事問題」についても国内在住者と在外スイス人では大きな違いがある。在外スイス人の間は「中立の弱体化」や「難民制度の悪用」に対する懸念が強い。

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ただ不快な時事問題トップ3は居住場所を問わず、「クレディ・スイス問題」と「やりすぎな気候活動家」、「ジェンダー問題とウォーキズム(啓発主義)」だった。スイスでは5月、気候活動家が高速道路に座り込むという事件があった。

ソトモは、後者2つへの関心の高さが国民党に有利に働く可能性があるとみる。同党は今年初め、ウォーキズムの撲滅やインクルーシブな学校に反対する方針を表明。6月の国民投票では環境保護法への反対運動を繰り広げ、高速道路に座り込んだ気候活動家を批判した。

 仏語からの翻訳:ムートゥ朋子


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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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