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【南極海調査ブログ②】南極の魚はプラスチックを食べているのか?

Looking for the longline
はえ縄を捜す乗組員たち © Kevin Leuenberger

およそ3週間の航海の後、研究船ポーラーシュテルン号は南極のサンプル採取の主要地点に到着した。眼前には海氷と氷山が広がるが、プラスチックの有無は一見しただけでは分からない。魚がマイクロプラスチックを摂取しているかどうかを知るには、魚の体内、つまり消化管の中身を調べる必要がある。

Fish dissection
船上でのサンプル採取作業の様子

船上では、釣った魚を解剖して消化管を取り出し、後日バーゼルの研究室で行う詳細な分析のために保管している。また消化管以外のどの部分も無駄にせずに様々な方法で分析する。ポーラーシュテルン号の乗組員らは、魚の肝臓、精巣、卵巣、ヒレ、筋肉、目、耳石(じせき:魚の頭部内にあるバランスを取るための小さな骨)から血液や組織のサンプルを採取している。

Deploying the lander
ランダー を海底に設置する
Deploying the longlines
はえ縄の仕掛けを設置する

サンプル採取の前にまずは魚を釣り上げなければならない。魚の捕獲には様々な種類の仕掛けを使う。例えば商業漁業の一般的な漁具である魚を誘い込む罠やはえ縄を取り付けたランダーなどだ。これはランダー設置作業の写真から分かるように、フレーム本体に魚を捕獲する仕掛け(籠状の人工物)を取り付けたものだ。その脚部につけた重りで海底に着地させ、24時間放置した後、GPS(全地球測位システム)で記録した位置に戻り回収する。

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回収の際には、重りを遠隔操作で取り外した後、ランダー上部に取り付けた複数の大きなオレンジ色の浮標(ブイ。写真参照)で海面まで上げ戻す。これで船上から位置を確認できる。はえ縄の仕掛けも同じ原理で、重りと遠隔解除とブイを使うが、餌付きの釣り針を取り付ける点が異なる。実際には、1本のはえ縄に350本の釣り針を付ける。餌は半分腐ったイカだ。このおかげで私たちの衣服はおそらくあまり良い匂いがしないだろう。

南極大陸から2MBの調査記録

1日わずか2MB(メガバイト)!?これは本連載の極地ブログ筆者が1日に使えるデータ上限量だ。この春、バーゼル大学のガブリエル・エルニ・カッソーラさん(右)とケヴィン・ロイエンベルガーさん(左)は、ドイツの砕氷船(さいひょうせん)「ポーラーシュテルン号」に乗り南極海に出た。マイクロプラスチックが南極大陸の動物や細菌にどう影響しているかを明らかにしたいと言う。このブログ連載では、この2人がその仕事内容と極地遠征隊の生活をレポートする。

仕掛けの回収作業は机上の理論では簡単だ。だが南極大陸で実際に行うのはそう容易ではなく、シーズン後半になると調査領域の周辺には海氷が現れ始める。はえ縄を仕掛けた地点に2022年3月22日に戻り、重りの遠隔解除を行ったところ、はえ縄の一端は計画通り海面に向かって上昇し始めた。だがオレンジ色のブイは確認できなかった。数時間もの間、乗組員数十人で目を凝らして海氷や深いかすみの中を捜したが見つからなかったため、結局諦めて別の調査を続けた。ブイが氷の下にはまったからか、水流が強すぎて縄が海面まで伸びなかったからか、原因は明らかにできなかった。

それから2日後、海氷が減り視界も良くなったので、再び同地点に回収に向かった。今度ははえ縄が設置されている海底からフックで引きずり出したところ、うまくいった!興奮しながら巻き上げを開始し、複数の釣り針を水揚げしたところで1.5メートルはある大きなマジェランアイナメ(メロ )が現れた。しかしデッキに引き揚げる寸前に逃げてしまった。

Grenadier cod
グレナディアコッド(チコダラ科)

しかし、うなぎに似たイールパウト 、グレナディアコッド、ノトテニア亜目 に属するものなど、底生魚 を中心に様々な魚を捕獲できた。ノトテニア亜目の魚は不凍たんぱく質を作り、南極の海水中でも凍らずに適応している。ノトテニア亜目に属するコオリウオ科 の魚は、ヘモグロビン(通常酸素を運搬する役割を担うたんぱく質)が血液中にないことで知られ、研究対象として特に尊重されている。

Striped rockcod
ストライプトロックコッド(ウロコギス)
Eelpout
イールパウト(ゲンゲ科)

次回の投稿までの間、ポーラシュテルン号のブログ(英語)外部リンクをぜひ見ていただきたい。そこでは釣り用機材にとってのもう1つの脅威、氷山についても知ることができる。別のはえ縄に取り付けていた高価な機材を危うく氷山に引きずり込まれそうになったこともある。

(英語からの翻訳・佐藤寛子)

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