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坂本龍一さんの一日もキリンの一日も、ストライプの絵に

坂本龍一さんのニューヨークでの「一日」 SPREAD

人間だけではなく、キリンなど生物の一日の行動をきれいな色のストライプに転換した絵の展覧会「Life Stripe」が3月27日~4月10日、スイス・ベルンの日本国大使館広報文化センターで開催されている。中には、音楽家の坂本龍一さんの「一日」もある。「観客は絵を見て、泣いたり笑ったり感心したり。でも、誰もがたくさんのエネルギーをもらったと言ってくれる。それが創作を続ける力になる」と制作者の1人山田春奈さんは言う。今回、スイス人90人あまりの「一日」も展示された。

このコンテンツは 2015/04/01 11:00
swissinfo.ch

「坂本龍一さんはこの日ニューヨークにいたのですが、朝起きた後コンピューターに向かい午後は仕事をしていますね。一方読書の時間が長く、また日本人としては珍しく食事に時間を割いている。いろいろな活動をしている方ですね。でもこの日がこうだっただけで、他の日はまた違うと思いますが」と山田さん。確かに坂本さんの、この「一日」は、個々の行動に呼応した多種類の色が縦に入る。またそれらがある種の調和を醸し出し、一幅の「抽象画」になっている。

それと対照的なのがタクシー運転手のある一日だ。彼はこの日まったく寝ていないため、睡眠を示す濃紺が一切なく仕事の赤色が全面を覆っている。1本の移動の青緑と2本の食事のオレンジ色が入るのみ。「2日間睡眠を取らず仕事をし、3日目に寝るというパターンで仕事をしていたらしいです。これは3年前のことで今はこういう勤務の仕方はしないようですが」と山田さん。

東京で働くタクシー運転手の「一日」 SPREAD

しかし、赤色が支配するため強いエネルギーが画面から発散される。これを見たある女性は「エネルギーをもらえる。仕事をしたくなった」と言ったという。また「寝てないね。東京のタクシーは危ないね」と反応する人もいれば、「この人病気にならないだろうか?心配だ」と言う人もいた。「人それぞれの反応が違うのは、結局人は他の人の絵を対照にして(つまりは鏡のようにして)、自分を見つめているからだ」と山田さんは考える。

引きこもりの友達のために

グラフィックデザイナー・アーティストの山田さんとパートナーの小林弘和さんがアートプロジェクト「Life Stripe」を始めたのは、実は引きこもりの友達を救おうとしたのがきっかけだったという。

山田さんは、この友人をまず自宅に呼んで2週間住んでもらうことにした。ところが、夜仕事から帰ってみると彼女は朝と同じ場所に座っている。今日は何をしたの?と聞いても何もしなかったと言う返事。でも何かをした形跡がある。「きっと自分がやった行動(たとえそれがわずかでも)に対する認識がないのだ」と思い、互いに一日の行動を書いたを交換することに決めた。

この結果、この友人は自分の一日を見つめながら同時に山田さんの一日にも関心を示し、対話も生まれ「表情がやわらかくなっていった」。自分の一日を認識することは、人にとって、とても大切なことなのではないか?しかも他の人の一日を対照にすることが重要なのではないか?またこうすることで未来が見えてくるのではないか?こうして、多くの人の一日を色のストライプで表現する「Life Stripe」の構想が生まれた。

睡眠、スポーツ、デートなど、行動に対する色のイメージは、人それぞれで違う。そこで統計の専門家に聞いて、最大で21種類に抑えた行動に呼応する色を男女50人ずつにアンケートし、その結果をもとに色を導き出した。例えばスポーツは水色をイメージする意見が多かった。「これは汗の透明感とか青空のイメージから。ショッピングが黄色だったのは、買うという高揚感やコインのイメージからだと思います。こうした色の持つ力や意味など、色に対する認識を深められたこともデザイナーとしてとても役に立ちました」(山田さん)

こうして入念に選ばれた21色は、隣り合わせて並べてもお互いがうまく調和するトーンの色だ。そのせいか、「Life Stripe」の絵はすべてが、一日を示す単なる図表から「アート」の域に昇華されているように見える。そうして、こうした「抽象絵画」は、抽象画の一つの在り方を考えさせてくれるものでもある。

キリンやヘビ

くつろぎの時間を示す黄緑をベースに、睡眠の濃紺色や食事のオレンジ色が小刻みに入る、いかにも「人間とは違う」と直感する絵も展示されている。キリンの赤ちゃんの「一日」だ。「草食動物はこうなるらしいのです。つまり、敵から襲われるのが怖くてまとめて寝ないし、まとめて食べない。休憩して8~10分寝て、また休憩して8~10分寝るといった具合です」(山田さん)

2012年2月に野毛山動物園で生まれた、アミメキリンの赤ちゃんの「一日」 SPREAD

ヘビの「一日」は、これがまた圧巻だ。画面全部がくつろぎの時間の黄緑。そして夕方に1本、食事のオレンジ色が縦に入るのみ。動物の一日が与えるインパクトは人間のそれとはまた違って強烈だ。「動物園の飼育担当者に動物の行動記録を頼んだのですが、係の人も『ああ、こういう一日だったんだ』と改めて認識し衝撃を受けたらしいのです」

山田さんたちは、もっと他の動物の一日を探ってみたいと生物学者に相談したこともあるという。ところが、専門家は「もっと多数の動物を、しかももっと長期間にわたり調査しないと動物の行動パターンは見えてこない」などと、学的に反応してくる。「そうではない。私たちが提示するのは、ごく普通の日常の一日。人間も含めた生物の多様性に感動し、それを対照にして自分を見つめてもらいたいと考えているのです」

そしてスイス人

今回もう一つの特別な展示は、スイス人93人の「ある一日」だ。昨年バーゼルの展覧会の際に制作した作品で、彼らの年齢・職業などはさまざまだ。そして自分たちのある一日を教えてくれた。「それでもなんとなく、この国の人の特色みたいなものが浮かび上がってくる。仕事時間が日本人よりやや少ないが、イタリア人に比べるとはるかに長い。またスポーツの水色が多い。中には朝夕2回もスポーツする人がいて、健康的。読書時間も日本人より多い。スイス人は一日にいろいろなことをやって『一生懸命生きている』と感じます」

ところが、イタリアで同じことをやったら、デート時間(これは男女のデートに限らず、人と人が出会っていることも含む)がとても多く、これを示すピンク色が会場を圧倒していたという。

今後の活動は?「とにかくもっといろんな人や生物の一日を作品にし、世界中で展覧会を開催していきたい。また例えば、(科学的アンケートとしてではなく)世界中の15歳の生徒たちを対象に、その一日を聞くといったプロジェクトを考えています」と、即座に返事が返ってきた。

SPREAD(スプレッド)他のサイトへ

デザイナーの山田春奈さんと小林弘和さんが2004年に立ち上げたクリエイティブユニット。

環境・生命・時間・歴史・色・文字といったあらゆる記憶を取り入れたグラフィックを中心に、プロダクトやパッケージなどを幅広く手がける。

国内外の多くのデザイン賞を受賞している。

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Life Stripe

SPREADによる一日を21色で表現するアート作品。2004年より制作。2012年より3年連続でイタリア ミラノにて「Life Stripe」個展を開催。昨年2014年10月 スイス・バーゼルの Rappaz Museumにて同展を行い好評を博した。作品の受注生産も受け付けている。

今回、スイス・ベルンの日本大使館広報文化センター(JICC)で開催されている「Life Stripe」展他のサイトへは、3月27日から4月10日まで(4月3日~6日は休館)。

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