スイス・EU、二国間条約の交渉再開へ
スイスのヴィオラ・アムヘルト連邦大統領と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は今月スイス東部ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、二国間条約の締結に向けた交渉を迅速に開始することで合意した。
欧州連合(EU)非加盟のスイスは人の移動や貿易、研究など各分野でEUと個別の協定を結んでいる。これを制度的枠組み条約として1本化する交渉を2014年から続けてきたが、賃金保護や司法面で折り合いがつかず、スイスは2021年5月に交渉打ち切りを決断。22年3月から新たな条約締結に向け予備交渉が始まり、スイス連邦内閣(政府)が先月15日、予備交渉の報告書と交渉に向けた基本方針案外部リンクを発表した。
アムヘルト氏らは、今後の交渉では条約内容について必要に応じ直接意見を交換する姿勢を示した。15分間の会談後に行った記者会見で、アムヘルト氏は必要があれば直接電話もすることに同意したと語った。
アムヘルト氏は、ダボスでの会談はスイス・EU関係の現状をすり合わせるために有意義だったと話した。2人は今後の二国間関係に関する諸条約について早急に交渉することを約束した。アムヘルト氏によると、交渉期限は設けなかった。
「理想的な」2024年
交渉期限を定めなかったことには、今年6月に予定される欧州議会選挙前の「理想的な期間」を今後の交渉に生かす狙いがある。アムヘルト氏は、本交渉は夏に決まる次期欧州委員会の新交渉メンバーとの間で再開させると述べた。
アムヘルト氏はフォン・デア・ライエン氏に対し、スイスでは2月中旬まで条約の基本方針案に関する意見公募が続いており、内政上の疑問点を明らかにする必要があると強調した。
フォン・デア・ライエン氏は会談後「とても良かった。とても友好的だった」と語った。会談内容についてはコメントしなかった。
交渉の基本方針
EUとの関係は、スイス政府の抱える政治議題の中で最も議論を呼ぶテーマの1つだ。事務レベルで行われた予備交渉を経て、今回の首脳級会談は前向きなシグナルとみられている。
スイス側の交渉の基本方針はEU市場への無障壁参入を柱に据える。具体的には①人の移動の自由②貿易における技術的障壁の削減③陸上輸送④航空輸送⑤農業に関する既存の協定を更新するほか、⑥電力⑦食品の安全の2分野の協定締結を目指す。
保健分野での協力と「ホライズン・ヨーロッパ」「エラスムス・プラス」などEUの教育・研究プログラムにスイスが体系的に参加できることも盛り込んだ。EUへの新規加盟国の発展を促進する「結束基金」にも定期的に拠出する。
条約で取り決める内容には、いくつか物議を醸す争点がある。右派はスイスの自己決定権が揺らぐことを恐れ、労働組合は賃金保護や鉄道・電力といった公共サービスの崩壊を危惧している。政府は基本方針の発表に当たり「賃金保護、電力、陸上輸送の分野で、関係する組織との内政的協議を継続する」と明言した。
2~3カ月以内に交渉開始
連邦内閣がこの基本方針を決定した5日後、欧州委員会がEU側の基本方針案を発表した。スイスとEUの双方が表明した目標は、「2~3カ月以内に本交渉を開始できる」ようにすることだ。
アムヘルト氏は対EU協定の推進派の1人とみなされている。会見で「私は対EU関係を(輪番制の)大統領任期中の優先事項の1つに据えた。今年は重要な年だ」と述べた。その目指すところは、安定したEU関係の醸成だ。
独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子
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