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国民投票 プレスレビュー

新聞の論評はどこも同じ。イニシアチブが否決され、左派は秋の総選挙を控えて切羽詰った状況に追い込まれた swissinfo.ch

スイスのマスコミは、2月13日の国民投票で銃器規制イニシアチブが否決された結果を「地方の勝利」、また総選挙を秋に控え、左派に対する象徴的な「ノー」であるとコメントした。だが、イニシアチブで得たものもある。

国民投票の翌朝の新聞には「再び地方の勝利」「銃器に関する官僚支配への不安」「シンボルの力」あるいは「古きスイスの勝利」などの文字が躍った。

昇華されたテーマ

 チューリヒの日刊新聞「ターゲス・アンツァイガー ( Tages Anzeiger ) 」は

「銃器規制イニシアチブの否決は、ミナレット建設禁止イニシアチブと外国人犯罪者の国外退去処分強化を求めるイニシアチブの可決に続き、保守的な農村部が短期間で三つ目に手にした勝利」

 と地方の勝利を表現した。

「農村部では今回のイニシアチブでスイスの価値が破壊されるといたるところで警告され、『ノー』を訴えるプラカードが立てられていない農地はほとんど見当たらなかったほどだ」

 という。また、

「多くの人々にとってこれは国家アイデンティティーにかかわる問題であり、自由と自己決定の防護であり、国家の監督に対する闘いを意味していた」

 と指摘した。

 バーゼルの日刊新聞「バーズラー・ツァイトゥング ( Basler Zeitung ) 」は、今回の国民投票活動で、スイスの「古き良き時代、堅固なスイスの時代、少々風変わりだが根はよい山岳民族」といったイメージが故意に呼び起こされたと書く。

「だが、これは不自由の多かった時代を美化する見方。現在のスイスとはもはや比較できない」

 「このような対策は間違いなく軍が自ら取ることができたはず。それが今回の国民投票で、伝統、外国人犯罪者、スポーツ射撃、狩猟、ひいては軍の存続をめぐる国家的論議にまで仕立て上げられた」

 と批判するのはスイスフランス語圏の日刊紙「ル・タン ( Le temps ) 」だ。

成功の犠牲に

 もう一つのチューリヒの日刊紙「ノイエ・ツルヒャー・ツァイトゥング ( NZZ ) 」は「保安問題では有権者は用心深くなる」とコメントした。

「現在の連邦議会の任期内に行なわれた国民投票を振り返ると、国民の保安に関する要求は高いと結論づけられる。この4年間のまとめは『スイスは堅固であり続けるべき』というものだ」

 ベルン州の日刊紙「ブント ( Bund ) 」は「 ( 古き良き伝統などの ) 大仰なシンボルが持つ力は ( 銃器規制に関する ) 思慮深い判断力よりも強力になりうる」としながらも、銃器規制イニシアチブは無駄ではなかったとみる。

「軍は今日、誰に銃器を持たせられるかということを以前にも増してよく考慮している。自動小銃と同じく長い間不可侵だった弾薬類の自宅保管は廃止され、自発的に銃器を兵器庫に預けようとする者に対し、事務を煩雑にしてその行動を阻もうとすることも削減された」

 

 ティチーノ州の日刊新聞「ラ・レギオーネ ( La Regione ) 」は

「スイスは銃の所有が一般に広く普及している国の一つだが、乱用は少ない方だ。さらに、イニシアチブ成立の過程の中で連邦政府が譲歩し、法律もすでに強化されている」

 と擁護する。そしてドイツ語圏の大衆紙「ブリック ( Blick ) 」は、まさにこれらの理由によってイニシアチブが「これまでに得た成果の犠牲」になったと皮肉る。つまり、イニシアチブ成立を機に法律が改善されたおかげで、このイニシアチブは否決されるはめになったというのだ。

 スイスは10月に総選挙を控えている。各紙は今回の投票で中道派の勢力が伸び、左派が窮状に陥ると予測する。ジュネーブ州の日刊紙「トリビューン・ド・ジュネーブ ( Tribune de Genève ) 」は次のように左派を批判した。

「社会民主党 ( SP/PS ) は党始まって以来初の安保イニシアチブを発足させたが、それを明瞭に強調することができず、おずおずと孤独なキャンペーンしか実行できなかった。総選挙を控える今年、左派はまた一つ失敗を犯した」

( 独語からの翻訳・編集 小山千早 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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