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米中対立、中立国スイスのジレンマ

ジョー・バイデン米大統領は習近平国家主席とこれまで数回顔を合わせている。2015年に中国が米国を公式訪問した際も、バイデン氏はオバマ政権の副大統領として習氏に会った Copyright 2021 The Associated Press. All Rights Reserved.

スイスは第3の貿易相手国、中国に対する初の外交戦略を発表した。中国を「最も深刻な競争相手」と呼ぶバイデン米政権が独自の対中戦略を構想する中での発表となる。

このコンテンツは 2021/04/06 06:00

編集部注:スイスは3月下旬、初の対中外交戦略を発表しました。以下の内容は、発表前に英語版で掲載された記事です。

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スイス連邦議会は連邦政府に対し、一貫した対中戦略を取るよう長年要求してきた。しかし、連邦政府が重い腰を上げたのはここ2、3年のことだ。連邦各省庁と州との政策調整の改善がその理由の1つだった。

今回発表される対中戦略では、米中対立が取り上げられるとされる。連邦情報機関によれば、米中両国はこの対立を機に、戦略的影響を及ぼす領域を広げている。

中国も自国の繁栄につれ西欧寄りの政治システムに移行する、と米国やスイスなどの国々が信じた時代はもう過ぎ去った――と、元英国外交官で、汎欧州シンクタンク「欧州改革センター」で外交政策部門責任者のイアン・ボンド氏は言う。中国を戦略的なライバルと見なす米国では、中国の経済的台頭と軍事的野心が米国の利益への脅威になるという点で、党派を超えて意見が一致している。

「この米中対立は今後数十年を形作るだろう」とボンド氏は言う。

スイスなどの周辺国も、対立に巻き込まれずに両国といかに良好な関係を維持していくかが大きな課題となっている。

バイデン氏は、米国は自己主張を強める中国に対し、「米国の利益になる場合」は協力し、「同盟国・友好国との協力の下に」対抗する複合型アプローチを取ると発言した。一方、習氏は諸外国が同盟を組んで中国に圧力をかける動きをけん制する。しかし、世界の国々を自国の影響下に置こうとしているのは他ならぬ中国だ。

チューリヒ大学の講師で、大中華圏を研究するシモーナ・グラーノ氏は次の疑問を投げかける。「2つの超大国がこれほどの緊張関係にあるこの新世界で、小さな国々はどの方向に進むだろうか?どちらかの側を支持するか、中立を保つか、それとも、状況に応じて支持する側を変えていくのだろうか?」

経済的な期待と不安

大国間対立という荒波を進んでいく上で、スイスが最も重視するのが経済だ。

「まずは良好な経済関係の維持が焦点となるだろう。これはどの政府においても最も重要な任務の1つだ」(グラーノ氏)

スイスにとって、米国は欧州連合(EU)に次ぐ第2の貿易相手国だ。しかし、中国の巨大市場へのアクセスを危険にさらしたい国などない。

中国とスイスの物品貿易は近年、急速に拡大している。両国は2014年に自由貿易協定を締結。19年には、「一帯一路」構想に関連した貿易、投資、融資プロジェクトの協力強化を記した覚書に署名した。この構想は、第3国での陸路と海上航路のインフラ整備を目的とした中国の大規模計画だ。

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実際、スイスは中国からの直接投資をさらに誘致したい考えだ。19年の中国からの直接投資は148億フラン(約1兆7200億円)で、スイスの対中投資225億フランに比べると少ない。だが他の多くの国と同様に、外国勢力から知的財産を守ることへの関心がスイスでも高まっている。

16年にスイス農薬大手シンジェンタが中国の国有化学大手、中国化工集団(ケムチャイナ)に買収されたことを受けて、連邦議会は19年、外国直接投資の監視および監査当局設置のための法整備を政府に義務づける案を可決した。

上院外交委員長のダミアン・ミュラー上院議員(急進民主党)は、スイスはこの点に関して欧州連合(EU)と共通点があると指摘する。EUでは中国企業が多数のハイテク企業を買収し、基幹インフラに投資してきた。

「当然ながら、自由市場では企業買収は止められない。しかし、欧州全体で中国にルールを守らせる方法を見つけなければならない」(ミュラー氏)

EUは19年、中国を「体制的ライバル(systemic rival)」と呼び、経済的な競争相手として位置づけた。そして「EUの戦略的利益を守る」目的で、昨年から投資審査制度の適用を開始した。

共通の価値観

同盟国は結束して、不公平な経済慣行といった中国の行動に厳しく対応していかなければならない、というのがバイデン政権の主張だ。グラーノ氏は、そうした連携強化はスイスにとって意義があると考える。単独行動よりも効果的な上、小国は中国からの大規模な報復を回避できるかもしれないからだ。中国から最近報復を受けた国には、スウェーデンやオーストラリアがある。

「これは中国との危険なゲームだ。中国は他の国にメッセージを送ろうと、攻撃的な対応に出るかもしれないからだ」(グラーノ氏)

しかし、欧州のすべての国が連携に前向きというわけではない。資金不足の国の中には、一帯一路を含む中国からの投資をすでに受け入れている国もある。中国は、経済面で「中国依存」している国を利用して、国際会議の場で自国の利益を押し通してきた。例えば17年にギリシャが取った行動は周辺国に衝撃を与えた。EUが中国のこれまでの人権問題を批判する声明を国連でとりまとめようとした際、ギリシャがそれを阻止したのだ。

ボンド氏は「中国の対外支援は非常に戦略的」とし、「中国が既存の枠組みの中で行動するよう、誘導方法を変える必要がある」と語る。

ボンド氏が共著者を務めた20年の報告書(ポリシーブリーフ)によると、ドナルド・トランプ前米大統領が多国間の枠組みに敵意を向けてきたことを機に、中国は世界のリーダーとしての資質を主張するようになった。そして「EUの優先事項や価値観とは一致しない方法」で国連のアジェンダを策定した。

グラーノ氏によれば、中国の行動は「現在の多国間秩序を破壊するもの」であり、中国は現在のシステムの裏で代替システムを構築しながら、「世界中で外交、経済、文化、安全保障における(中国の)『存在感』」を強めようとしている。

米国と欧州の関係に目を向けると、両者の間には緊張関係が続いており、EUが中国と包括的投資協定(CAI)に最近合意したことに米国はいらだちを隠せなかった。とはいえ、「米欧と中国との間には、極めて明確な価値観のギャップがある」とボンド氏は言う。

同氏は、スイスをはじめとする国々は共通の民主主義的な価値観と利益に基づいて知的財産、サイバーセキュリティ、人権などの分野で米欧に協力でき、それによって中国をけん制できる、と言う。

生き残りをかけた戦略

各国の米中対立への対応は世論に左右されることもある。少数民族ウイグル人に対する組織的な人権侵害の報告、香港での民主化運動家の逮捕、新型コロナウイルスの発生源に関する中国のあいまいな態度など、最近の出来事を機に欧米における中国のイメージは悪化した。

しかしグラーノ氏は、スイスが権利侵害に反対するよう求める声に応えながら、経済的利益も追及することは難しいと考える。合議制を取る連立与党間で、対中アプローチの合意が出来ていないからだ。同氏はまた、新しい対中戦略は全体的に中道的な内容になると予想。イグナツィオ・カシス外相が所属する、中道右派の急進民主党が2月に発表した報告書に沿う形になると考える。

その報告書によれば、スイスはすべての選択肢を維持する方向でいる。また、対中政策に関してはEUと連携すべきだが、政策は原則として自国の判断で決めるべきだとした。「スイスが中立の利点を生かし、仲介国としての従来の役割を果たすためには、それが唯一の方法だからだ」(同報告書)

前出のミュラー議員はこのジレンマを次のようにまとめる。「我々は米国とも、中国とも良好な関係にある。一方の国と連携しているように見られたり、他方の国との協力をやめたように見られたりしないよう、注意しなければならない」

同氏はまた「持続的な対話と、明確な行動規範があってこそ、互いに協力できる」と付け加える。

スイスには、中国、または米国と手を組むよう圧力がかかっている。いずれその圧力に屈する時が来るかもしれないが、スイスの当面の目標はイデオロギー対立に巻き込まれないことだ。

「スイスは『どちら側にもつかない』と思われたいし、(それぞれとの関係から)最大限の利益を得たいと思っている」とグラーノ氏は言う。「結局のところ、スイスは生き残ろうとしているのだ」

(英語からの翻訳・鹿島田芙美)

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