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スイスは「保守回帰」「ポピュリズム復活」 総選挙海外報道

Person puts voting paper in ballot box
Keystone

他の欧州国家と同じように、スイスでも右翼ポピュリズムが広がっている――22日に実施されたスイス総選挙の結果について、複数の国外メディアがこう総括した。一方、国内メディアは環境政党が墓穴を掘った結果に過ぎないと分析する。

22日の総選挙では、右派の国民党(SVP/UDC)が得票率28.6%と2019年の前回選挙を3ポイント上回り、第1党としての地位を強固にした。最大の敗者は2つの環境政党で、合計11議席を失った。

「今回の選挙は、欧州全土の投票所でポピュリスト(大衆迎合主義者)が復活していることを裏付ける」。英紙フィナンシャル・タイムズはこう総括した。他の多くの報道機関と同じように、イタリアやオーストリア、ドイツ、フィンランドに続くスイスの右傾化を指摘した。

独紙フランクフルター・アルゲマイネは「コロナ禍や地政学的大変動の結果、国民の間で気候問題への意識は再び低下した。政治的にも経済的にも不安定な時代にあって、再び保守勢力にすがりたいと考えるスイス国民が増えた」と分析した。

ウクライナ戦争や緊迫化する中東情勢を受け、有権者は外部の脅威と認識されるものに対する防衛的な姿勢を強めた、と解説するメディアも複数あった。

物議を醸す選挙広告

仏紙ル・モンドは、国民党が選挙戦で「『大量移民』との闘いや人口1千万人予想という得意分野に重点を置いた」と指摘した。「血まみれのナイフやフードで顔を隠した犯罪者、拳、傷だらけの顔、怯える女性はニューノーマル(新常態)になるのか?外国人による犯罪に焦点を当てるため、こう問いかける広告がソーシャルメディアを駆け巡った」

独紙ツァイト紙は、選挙戦で「『外国人を攻撃』カードが切られた」とたとえた。

独紙スードドイチェ・ツァイトゥングは「スイスは孤立しつつある」と批判的に報じた。「ウクライナ戦争、中東戦争…多くの有権者は目をつぶって国民党に投票した。居心地の良い中立に身を包むために」

米CNBCは、スイスの有権者は他の欧州諸国と同様、相反する問題の間で板挟みになっていると解説した。

「スイス総選挙は、右翼ポピュリストを選ぶか、カネや資源を地球温暖化対策に投じるべきかの間で揺れる欧州有権者の実像を改めて浮き彫りにした。裕福なスイス有権者でさえ、例外ではなかった」

環境政党の敗因

スイス・ドイツ語圏の日刊紙NZZは「世界中に広がる巨大な影がスイスにも落ちた」と総括した。「世界は燃え、大きな不確実性がある。国民に何かを要求する政党は求められていない。たとえ嘘だとしても、安全を約束する者が勝利する」

「今回の選挙ではリベラリズムが台頭し、個人の責任はこれまでになく軽視された」

しかし、国内メディアの多くはより細かい変化にも着目し、今回の選挙で右派が地滑り的な勝利を収めたわけではないと総括した。左派・社会民主党(SP/PS)と中央党(Die Mitte/Le Centre)も議席を伸ばしたからだ。

メディアの批判の矛先は、終始劣勢だった緑の党(GPS/Les Verts)と自由緑の党(GPL/PVL)に向かった。環境政党は気候対策として国民に大きな負担を強いる一方で、有権者に受け入れられる具体的な計画を示すことができなかった。

スイス・ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクは「危機が多発する今、緑の党の掲げる終末論は警鐘効果が薄れ、絶えず変化を求める同党の呼びかけは威嚇効果をもたらした」と読み解いた。

スイス・フランス語圏日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブは「緑の党は、説教ばかりしているうちに道を見失ってしまった」と皮肉った。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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