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スイス新連邦大統領、「我々の民主主義には勇気がある」

シモネッタ・ソマルーガ新連邦大統領
近年の国民発議には内容に問題のあるものも多いが、「スイスの直接民主制は、国の安定に貢献している」とシモネッタ・ソマルーガ新連邦大統領 Keystone

2015年のスイス連邦大統領に、社会民主党のシモネッタ・ソマルーガ氏が就任した。スイスでは近年、内容に問題のある国民発議が国民投票で可決されることもあったが、同氏はスイスの直接民主制は評価すべきだと強調。「他者の意見に敬意を払える」政治文化の重要性を説いた。

連邦大統領と司法警察相を兼任するソマルーガ氏には今年、大きな課題が待ち受けている。その一つが、14年の国民投票で可決された移民規制案の実施だ。国籍別に移民数を制限するという同案は、スイスの最重要パートナーである欧州連合(EU)との関係に亀裂をもたらした。スイスとEU間では労働者の自由な移動を認める合意が交わされていたからだ。

スイスインフォとの書面インタビューでソマルーガ氏は、「移民数を規制するのと同時にEUとの良好な関係を維持していくのは難しいが、EUはスイスと対話する意志をみせている」と強調している。

swissinfo.ch: スイスでは、内容に問題があったり、実現がほぼ不可能で国際法に抵触したりするような国民発議案が増えています。犯罪を行った外国人を自動的に祖国に戻す国外追放案がその例です。国民発議権に制限をかけるべきだと思いますか?

ソマルーガ: 国民発議案が既存の法律や国際法に抵触する場合、そうした案を実施に移すことは確かに難しい。そのため現在、(国民発議権に関する)様々な改正案が出ている。私はこうした議論を歓迎する。議論を繰り返し行うことは直接民主制に欠かせないからだ。

だが、我々のシステムが機能しているのはルールがあるからではない。重要なのは政治文化だ。違う意見を持つ人に対し敬意を示せる政治文化でなければならない。それは、政府内、連邦議会内、国民の間などすべてのレベルで同じことだ。我々の民主制ではすべての人々が大事なのだ。

連邦大統領

スイスでは、連邦大統領は毎年交代する。シモネッタ・ソマルーガ氏(54)は、昨年の連邦議会で210票中181票の賛成で2015年の連邦大統領に選ばれた。連邦大統領任期中も、連邦司法警察相を兼任する。前連邦大統領は急進民主党のディディエ・ブルカルテール外相。

女性が連邦大統領の座につくのは、ソマルガ氏で5度目。これまでに連邦大統領を務めた女性は、ルート・ドライフス氏(1999年)、ミシェリン・カルミ・レ氏(2007年、2011年)、ドリス・ロイタルト氏(2010年)、エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ氏(2012年)。

swissinfo.ch: 欧州全体でポピュリズムの勢いが増しています。スイスでも、これまでの政治に対する不信感が高まってきています。その証拠に、政府と連邦議会が支持しなかった国民発議案が国民投票で可決されることが度々ありました。国民の信頼をどのように取り戻そうとお考えですか?

ソマルーガ: 信頼がなくなったわけではない。この点においてスイスの直接民主制はとても特別だ。スイスでは、(政治参加への意思がある)すべての人々が政治に関わる。それが我々の政治文化を形作る。そのため、国民、連邦議会、政府の間で意見が一致しないことはあるにしろ、この3者間に溝ができることはない。

我々の民主制で素晴らしいのは、国民の背負う責任が大きいことだ。スイスのシステムには勇気がある。私はそこが気に入っている。国民発議権が誕生したそもそもの理由は、既存の法律制定プロセスでは聞かれることのなかった人たちの声をくみあげようとしたことだ。

swissinfo.ch: 一方で、関係国にとっては、直接民主制のせいでスイスの動向が近年予測しづらくなりました。直接民主制は国際競争においてデメリットになったのでしょうか?

ソマルーガ: それはない。内閣がよくかわる国に比べ、我々の民主制は国の安定に貢献している。大型の改造計画は、開始までの道のりは長いが、最終的には幅広い人との合意に支えられる。その合意は何年も続く強固なものだ。

swissinfo.ch: 外国に住むスイス人は、スイスとEU間で結ばれた労働者の自由な移動に関する合意が破棄されるのではないかと心配しています。EUは、この合意は交渉できるものではないとし、国別に移民数を割り当てることに一貫して反対しています。しかし、14年2月9日の国民投票で可決された移民規制案はまさにそれを要求しています。どうすればスイスはこのような袋小路から抜け出せるのでしょうか?

ソマルーガ: もちろん、この移民規制案を実施に移すことは容易ではない。だが政府としてはこれを実現し、国が独自に移民数を制限できるようにしていきたい。だが同時に、EUとの良好な関係も維持したいと考える。

EUは確かに、労働者の自由な移動に関する合意原則について交渉はしないとしている。だが、議論にはオープンな姿勢もみせている。そのため、政府は国内政治と国外政治を分けて、それぞれ一つずつ目標を掲げることにした。政府は1月、(EUとの交渉目標を定めた)交渉指令や(移民規制案の)法制化について協議を行う予定だ。

swissinfo.ch: ところで、地中海では難民希望者の事故が急増しています。スイスと欧州はこの増加をどうしたら食いとめることができるでしょうか。

ソマルーガ: 重要なのは、欧州各国が協力することだ。スイスは欧州各国と共同で移民政策を進めている。一国ではできることも限られるからだ。現地支援を行い、彼らが地中海を渡るような危険な道を選ぶことがないようにするのが大切だ。

また今後も、難民希望者に違法入国の手助けをする仲介業者や人身売買を徹底的に取り締まる必要がある。(こうした犯罪者がしているのは)弱者を馬鹿にした行為だ。こうした闇の活動を追跡するには、今後は計画的にスイスの難民希望者から話を聞き出す必要があるだろう。シリアで内戦が勃発してからというもの、スイスは数千人のシリア人を受け入れてきた。我々は彼らに新たな希望を与えているのだ。

シモネッタ・ソマルーガ氏(Simonetta Sommaruga

1960年、ツーク州に生まれる。アールガウ州で子供時代を過ごす。父親はティチーノ州出身。

1983年、ルツェルンの音楽学校でコンサートピアニストの資格を得る。

音楽家としての活動は断念。その後、フリブールの大学で英文学・西文学を学ぶが退学。1993年、消費者保護基金ディレクターに就任。2000年、同基金会長に選ばれる。

1986年、社会民主党加入。党にリベラル路線を提示し、2001年、その路線を踏まえた同党のマニフェストに署名。これに対し、労働組合や左派政党から批判が巻き起こった。

1999年、国民議会(下院)議員に選出。2003年、全州議会(上院)のベルン州代表に選出。2010年、連邦議会より連邦閣僚に任命される。

(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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