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国連の援助機関が深刻な資金不足 支援ニーズの高まりで

アフリカの難民キャンプ
何十万人が飢餓の危機に瀕するソマリアの難民キャンプ。「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ北東部は過去数十年で最悪の干ばつに直面している Copyright 2022 The Associated Press. All Rights Reserved.

来年は人道支援ニーズが急増すると国連は予測する。記録的な額の資金提供を要請したが、ニーズと提供資金とのギャップ拡大に直面し、この未曽有の危機を巡る対応能力に影響が出ている。

国連は1日、2023年の人道支援ニーズを予測した年次概況外部リンクを発表した。膨大なニーズに対応するため、記録的な額の515億ドル(約7兆1千億円)が必要になると見込む。前年の予測額と比べて105億ドルの増加だ。

国連のマーティン・グリフィス人道問題担当国連事務次長兼緊急援助調整官はジュネーブでの記者会見で、「驚異的な数字であり、気が重くなる数字だ」と述べた。

2022年は激しい干ばつや洪水、ウクライナでの戦争、長引く新型コロナウイルス感染症のパンデミック、新たな感染症の流行が飢餓や強制移動を加速した。その結果、世界中で何百万もの人々が絶望的な状況に追い込まれていた。

国連人道問題調整事務所(OCHA)の試算によると、2023年に支援を必要とする人は68カ国で3億3900万人に上る。これは世界人口の約4%に相当し、この割合はこの4年間で2倍以上になった。国連によると、現在世界で1億人以上が移動を余儀なくされている。また、年末までに2億2千万人超が深刻な食料不足に直面し、4500万人が飢餓の危険にさらされるという。

国連の2023年統一人道アピールは、国連と関連機関による2億3千万人を対象とした支援計画の資金を賄う。国際赤十字・赤新月運動や国境なき医師団(MSF)など国際NGO(非政府組織)の計画は含んでいない。一方、赤十字国際委員会(ICRC)は11月29日、2023年の活動資金として28億フラン(約4070億円)の資金要請を開始外部リンクした。国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)外部リンクと各国の赤十字社・赤新月社は32億フランの資金が必要だと述べた。

グリフィス氏は「最も懸念される傾向」として、人道支援ニーズと提供される資金との格差拡大を指摘する。今年はその差が過去最大だったと警鐘を鳴らす。11月中旬の時点で、国連は240億ドルの資金提供を受けたが、世界で計画されている活動の53%は資金調達の目途が立っていない。このような状況下で、援助機関は誰を支援すべきかという難しい決断を迫られている。

資金不足への対応

ノルウェー難民評議会(NRC)のヤン・エーゲランド事務局長は「私たちは困っている人々への支援を強化・サポートするため、富裕国からより多くのドナーを必要としている。また、援助機関が効果的に活動できるよう、長期的かつ(使途を限定しない)柔軟な資金提供を求めている」と話す。そして国際社会はウクライナの人道危機で示した寛大さを他の地域の忘れられた危機に対しても示さなければならないとした。

国連が支援する計画の中で最も資金が集まっているのは、ウクライナへの緊急対応(要請額43億ドル)と近隣諸国の難民危機への対応計画(要請額13億ドル)だ。11月21日の時点で、これら2計画の資金調達率は73%に達している。一方で、エチオピア、スーダン、シリアに対する人道支援計画はいずれも50%未満にとどまる。

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2003年から06年まで国連の緊急援助調整官を務めたエーゲランド氏は、「ニーズの拡大と物価の急騰を受け、援助機関は影響力が強く革新的なプログラムを費用対効果の高い方法で実施するよう、今以上に求められている」と説明する。

人道支援の専門家によると、費用対効果の高い活動方法はある。「先行的行動」もその1つだ。予測可能な気象災害が発生する前に資金を提供し、地域社会が予防可能な損害に備えたり、損害を回避したりできるようにする。もう1つの手法は現金振り込みだ。オンラインでの振り込みは費用を掛けずに、現地の人々の災害への対応力を高められるため、国連機関は利用を拡大している。

しかし、食料・燃料価格の高騰と開発援助予算の削減に伴い、人道支援機関は方針転換を迫られている。グリフィス氏は「開発援助や構造的支援はライフラインの提供など(一定の目的では)、私たち(人道支援機関)よりも優れた活動ができる」と述べた。もし各国が政治的・経済的な理由でこうした活動への支援を断れば、負担は人道支援機関に転嫁される。援助機関が臨機応変な対応を迫られた別の例には、同氏も交渉に携わった黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意がある。ロシアによる黒海封鎖で滞っていたウクライナ産食料の輸出再開と国際市場での食料価格の引き下げを実現した。

専門家らは、現地の援助団体は緊急事態への対応に最も適任だが、十分な資金を持たず、必要な訓練も受けていないと指摘する。ドナーが現地や各国の人道支援団体に対する資金の直接提供をためらう主な理由は、政治的な配慮とリスクの回避だ。

ジュネーブ人道問題研究センター外部リンクのカール・ブランシェ所長は、「(現地の援助団体に対し)人道の原則を順守しつつ、迅速かつ適切に対応する手段を提供する必要がある。これは人道支援システムにとって大きな転換だ。より効率的で速やかな人道支援を行えるようになるだろう」と話す。

編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:江藤真理

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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