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「防衛政策の一環として核兵器に依存することには意味ない」、ICANのパーク新事務局長

Melissa Parke
「核兵器廃絶がかつてないほど重要で緊急性が高くなっている」と説明するICANのメリッサ・パーク事務局長 swissinfo.ch

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を受賞してから6年。しかし、ロシアによる核の脅威の高まりによって、核兵器のない世界への道はこれまで以上に険しくなっている。ICANのメリッサ・パーク新事務局長はswissinfo.chの独占インタビューで、核兵器のない未来を実現するための未解決の課題について語った。

パーク氏は今月、オーストラリアからジュネーブに移り、市民団体の連合体ICANの責任者に着任するやいなや、国連総会が開催されているニューヨークに旅立った。最初の任務として、各国首脳、外相、その他の代表に核兵器禁止条約への加盟を呼びかけるためだ。

核兵器禁止条約は、核兵器を全面的に禁止する目的で2017年に発効した。ICANは核兵器の使用に伴う壊滅的な人道的影響に警鐘を鳴らし続けた努力が評価され、同年にノーベル平和賞を受賞した。現在までに197カ国・地域のうち97カ国・地域が条約加盟に踏み切り、69カ国・地域が批准。しかしながら世界半分にも満たない。

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米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の核兵器保有国は、自国の安全を保障するため核兵器を放棄しない方針だ。核保有国が非保有国を防衛する「核の傘」に頼り核を持たない国々も、核兵器禁止条約に批准するつもりはほとんどない。

現在、1万2500発以上の核兵器が存在し、そのうち米国は5244発、ロシアは5886発を保有している。

パーク氏は、現代の地政学的状況の危険性と、核兵器の廃絶の必要性について語った。

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swissinfo.ch:現在の世界の安全保障情勢をどう見ていますか?

メリッサ・パーク:緊張と紛争が激化している今、核兵器の廃絶はかつてないほど重要で緊急性が高くなっていると思います。核兵器禁止条約は核兵器廃絶への道筋を示しています。現在、私たちは緊張の高まり、軍事化のエスカレート、核兵器の近代化と拡大に直面しています。私たちが本当に必要としているのは、外交努力の強化、交渉の強化、そして軍拡の抑制です。この条約はそのための道筋を示しています。

swissinfo.ch:ウクライナ戦争によって、核兵器のない世界を実現する道はさらに険しいものになっているのでしょうか?

パーク:全くその通りです。核兵器は平和を維持するためではなく、威圧や威嚇に使われています。ですから、核兵器が世界をより安全にするというのは誤りだと思います。核兵器が存在する限り、それが使用される可能性があります。核兵器が使用された場合、人道的にも環境的にも破滅的な結果をもたらすことは明らかです。

swissinfo.ch:新しい技術は核兵器にどのような影響を与え、核不拡散条約の議論や交渉にどのような影響を与えるのでしょうか?

パーク:今、より多くのリスクをもたらしています。過去数十年間、私たちは核兵器に関連する多くの事故を見てきました。いずれも本格的な核戦争につながる可能性がありました。そして、多くの事故や誤算、誤解、錯乱した指導者、テロリスト集団やサイバー攻撃による脅威も存在します。人工知能(AI)は、機械が核兵器使用の判断を下すかどうかという疑問を投げかけています。冷戦時代よりもはるかに危険な環境にあります。だからこそ、核拡散防止条約をめぐる議論や交渉は完全に行き詰まっています。

swissinfo.ch:現在の複雑な状況を考えると、核兵器禁止条約への支持を得るために、どのようなアプローチをとりますか?

パーク:もちろん、私たちはできる限り多くの国にオブザーバーとして参加し、できるだけ早く条約に署名するよう呼びかけています。特に日本やオーストラリアのように、「核の傘」の下にあり首相や政府が核軍縮に協力的な国や、まだ署名していないすべての国に働きかけています。ブラジルやインドネシアのような国も批准の手続きを進めており、私たちは政府と連絡を取り合っています。他にも署名や批准を目前にしている国はたくさんあります。

swissinfo.ch:各国が条約を批准する上で障害となるものは何ですか?

パーク:ブラジル政府は議会(立法機関)を通した批准手続きが必要で、それには時間がかかります。インドネシアのプロセスは始まったばかりです。スイスでは世論の過半数の支持を得ていますが、いつ批准するかは不明です。広島と長崎で唯一の被爆国となった日本には、このような出来事が二度と起こらないよう、核兵器の完全禁止に向けて努力する動機があります。防衛政策の一環として核兵器に依存することには意味がありません。ニュージーランド、フィリピン、タイなどは米国と強い軍事的関係を持ち、すでに条約に署名しています。私たちは、オーストラリアと日本がこれらの例を参考にし、核兵器なしでも安全保障を維持することは可能であることに気づいてくれることを期待しています。

北大西洋条約機構(NATO)と国連安全保障理事会の常任理事国は、昨年、すべての理事国が、核戦争には決して勝てないこと、そしてそれを確実にする唯一の方法は禁止条約であることに合意しました。

swissinfo.ch:核兵器禁止に生涯を捧げようと思ったきっかけは何ですか?また、あなたの生い立ちや経験は、この大義への熱意をどのように育んだのかを話していただけますか?

パーク:私はずっと不正義と闘ってきました。私の考えでは、核兵器ほど人類に対する不正義はありません。私は西オーストラリアの農場で育ちましたが、そこでは果物を栽培しており、その中には唯一の被爆国である日本に送られた梨もたくさんありました。私の家族は、核軍縮や環境問題など社会正義の問題に常に深い関心を抱いていました。1990年代には、私は西オーストラリア州の核廃棄物投棄への反対運動に参加しました。

その後、国連での仕事を通じて、コソボ、イエメン、ガザなどで戦争の影響や地雷やクラスター爆弾などの兵器の被害を目の当たりにしました。2002年8月、ガザで行われた広島のための平和記念式典に出席したときのことは永遠に忘れられません。そこでは、何百人ものパレスチナの子どもたちが、自分たちも繰り返し爆撃を受けているのに、ろうそくをともした手作りの紙のボートを浮かべていたのです。

オーストラリア議会では、原爆投下時に長崎近郊で捕虜となった故トム・ユーレン元副首相(労働党)に心を動かされました。彼は生涯を核軍縮に捧げました。ユーレン氏の政策秘書だったオーストラリア現首相も彼の信念を共有しています。オーストラリアは日本と同様、核保有国である米国やその大きな「核の傘」の下にある国々との強固な同盟関係がもたらす独自の課題に直面しています。

国会議員の職を離れた後も、私はこの重要な問題に関心を持ち続け、大量破壊兵器廃絶のための市民社会運動に心血を注いでいます。

編集:Virginie Mangin

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