公共交通の無料化はスイスで実現するか

ルクセンブルクの公共交通無料化は、スイスのモデルケースとなるのか Bloomberg Finance Lp

公共交通機関の無料化は、二酸化炭素排出量を減らし、交通渋滞も緩和できるー。無料化の支持派はそうメリットを訴える。スイス国内で実現できるのだろうか。

このコンテンツは 2020/03/14 07:00
swissinfo.ch

バスや路面電車(トラム)に乗る前に切符を買ったり、抜き打ちでやってくる検札員に切符を見せたりする手間がなくなったら、どれほど楽だろう。ルクセンブルクでは1日、それが現実の話になった。交通渋滞の緩和とCO2排出量の削減が目的だという。

ルクセンブルクの国土面積はスイスの16分の1だから、単純比較はできない。だが、スイスでも、公共交通の無料化が議論になっている。

本当に理想なのか

左派・社会民主党のセドリック・ヴェルムート氏は、公共交通無料化の推進派だ。社会民主党共同代表の候補者でもある同氏は最近、メディアに「公共交通機関は無料とし、財源は税金でまかなうべきだ」と語った。

この意見について、交通計画に詳しい連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のケイ・アクスハウゼン教授は懐疑的だ。

同教授は「それが大きな成功を収め、大勢がバスを使い始めたと仮定しよう。バスが混みすぎて使いものにならないと利用者が判断すれば、おそらく2日も経たないうちに使わなくなる」と話す。

同教授は、公共交通の値下げ・無料化が必ずしもCO2排出量削減につながるかは疑問だと話す。その代わり、乗り換え手段の簡略化や改善、交差点での優先走行、バスレーンの追加、路線網の変更などによって公共交通の魅力アップを図れるという。

無料化は意味がない?

公共交通の無料化は左派のアイデアだが、全ての左派がおしなべてそれを支持しているわけではない。価格体系に目を向けるべきだという意見もある。公共交通は徒歩や自転車よりも費用が掛かるのは当然だという考えだ。また、若い人に国内全域の利用券(1000フラン、約11万円)を提供するという案もある。この案は一部国民が支持している。

運輸・環境協会(VCS)の交通政策プロジェクトマネジャー、ラウラ・シュミット氏は「車から公共交通へのシフトにつながるのであれば、無料化は環境にプラスの影響をもたらすだろう」と話す。

しかし、同協会はこの考えにどちらかというと否定的だと指摘する。

「無料になれば使いたいだけ使う。そうなれば公共交通機関もスペースとエネルギーがより必要になり、都市のスプロール化(無秩序の開発)につながる」

公共交通の運営会社で作る団体で、政治的に独立している公共交通連合(VöV)はバスの無料券にも否定的な意見だ。同協会は、公共交通システムをスイスの経済的利点の1つとみなしているからだ。「(しかし)私たちの立場は明らかだ。費用がかからないものに価値はない」。同団体の広報担当ロジャー・バウマン氏はそう断言する。

モデル

公共交通機関無料化の包括的実験をまとめた一覧はないが、引き合いに出されるのはベルギー・ハッセルトの事例だ。同自治体では1997年から2013年にかけ、町の公共交通を無料化した。その間にバスの路線は3本から50本以上に増加した。だが最終的には町が運営コストを賄えなくなり、無料化を取りやめた。

エストニアの首都タリンでは、住民向けに2013年から交通機関を無料開放している。無料化の支持派は、同都市がモデルケースになるとみる。メディアの報道によると利用者数は14%増加した。交通渋滞も減り、大気の質も向上したという。

ドイツ語圏の日刊紙NZZは、英マンチェスター、ボルトン、ストックポートでも無料バスがあると報じている。さらにモスクワなどの都市でも無料化が議論されている。フランスの自治体ダンケルクではパイロット・プロジェクトが進行中だ。

しかし大半の実験はコスト上の理由で失敗している。問うべきは、利用者の利益を取るか、コストを取るか、だ。

ベルン市議会は、同様の住民発議に対し、無料の公共交通機関はプラスの効果をもたらすが、財政的に実行不可能だ、という意見で一致した。

アクスハウゼン教授は「公共交通機関は、世界中ほぼすべてで助成の対象」と指摘する。運賃を比較的低価格に抑えることで、公共交通機関の利用を奨励していることになる、という。

社会民主党のヴェルムート氏が構想するように、公共交通が100%税金で賄われると「運行会社は交通システムのコントロール権を失い、政治的に中立でいられなくなる」とアクスハウゼン教授は危惧する。

運輸・環境協会のシュミット氏も同様の意見だ。「無料化したら状況をコントロールできなくなる。例えば今は(ラッシュアワー時以外の利用を促す)特別割引券があるが、完全無料化になったら、ラッシュアワーの利用者が増加するリスクがある」

「環境の観点から言えば、重要なのは公共交通無料化によるプラスの効果が、消費の増加を上回るかどうかだ」

提案は却下

スイス国内では公共交通無料化の試みはいずれも失敗している。 バーゼル(1972年)、ジュネーブ(2008年)、グラールス(2012年)のほか、2012年にはザンクト・ガレンで25歳未満に無料バス利用パスを配る提案が出されたが、いずれも住民投票で否決された。

公共交通連合のバウマン氏は「このアイデアは、明らかに国民の支持を得られていない」と話す。

スイスのように公共交通機関が発達しており、財政補助も厚い国では、無料のバス利用パスの必要性を感じない人の方が多いようだ。

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