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セルン 修理の進み具合

swissinfo.ch

この9月には世界最大の素粒子加速器「大型ハドロン衝突型加速器」が稼働後初めてのデータを集め、スタート1周年が祝われるはずだった。

このコンテンツは 2009/09/21 15:26

しかし稼働開始間もなく、この巨大施設は故障に見舞われ、現在実験は中止されている。ジュネーブ郊外のスイスとフランスの国境にまたがる地下で進んでいるその修理は、高度な技術を要し簡単には終わりそうにない。

時間がかかる理由

「大型ハドロン衝突型加速器 ( LHC ) 」は、「セルン ( 欧州合同素粒子原子核研究機構/CERN ) 」が、宇宙の誕生や物質の構造に関する科学的な命題を解くことを目的として、スイスとフランスの国境にまたがる地下に作った巨大な施設だ。昨年9月10日に第1回の加速が行われ、その後1週間は動いていたが、故障してしまい、期待に胸を高まらせていた研究者たちをがっかりさせた。

「もちろん大きく失望しました。みんなが新しいデータに期待していましたから」
とセルンの実験物理学者エッダ・クシュヴェンドナーは語る。まだ不確定ながら、2カ月後には修理が終わる見込みで、その際には、まずは、最高速度の半分の3.5TeV ( 3.5兆電子ボルト ) で稼働することになりそうだ。
「LHCを白い巨像にはさせない」
とセルンのジェームス・ジリス広報担当者は言う。白い巨像とは、使えない高額施設という意味だ。

再開は11月と言うジリス氏だが、昨年の期待は大きすぎたことを認める。クシュヴェンドナー氏をはじめとするセルンの科学者たちは、LHCを「プロトタイプではあるが完璧な施設」と認識している。「 LHCは ( 科学者が ) 目指す目標的存在。LHCほど加速度を出す装置は世界中どこにもない」からだ。

とはいえ、大学のキャンパスに似たセルン構内では、LHCが再び全力で稼働するまでには、時間がかかるという見方がもっぱらだ。
「( 修理完了は ) 時間の問題だが、11月に再スタートとなるかは分らない」
と技術担当のヴェルナー・リーグラー氏は慎重だ。LHCは多くのパーツからできているため、それなりの時間が必要だという。「重イオン衝突現象の研究施設 ( Alice ) 」には、センサーが何億も動いている。しかも、センサーはコンクリートに埋め込まれているため、作業には時間がかかるのだ。

ヘリウム漏れが原因

リグラー氏によると現在、1000人から2000人が作業に取り組んでいるという。
「すべての技術やセンサーはLHC建設のために開発されたものだ。よって、大量生産できるようなものではない」

LHCは最高7TeV ( 7兆電子ボルト ) まで出せる巨大設備で、フェルミ国立加速器研究所 ( アメリカ ) にある「テヴァトロン ( Tevatron ) 」が小人のように見えてしまう。テヴァトロンの加速スピードはたったの 1TeV ( 1兆電子ボルト ) だ。

LHC内にエネルギーを流すために取り付けられている1200台のマグネット ( 超電導磁石 ) は、銅で覆われたニオブ・チタンの電流コイルでつながっている。電流コイルは液体ヘリウムで約マイナス271度まで冷却されている。冷却することで抵抗が無くなり、電流が通ることを可能にしている。
「現在ある限りの知識を集約したこの施設は、人間の理解の限界を押し広げるだけではなく、技術の限界への挑戦でもある」
とジリス氏は語る。27キロメートルの長さのリングを冷却するためだけにも高度な技術が必要なのだ。

今回の故障の原因は、1年前の初稼働後間もなく、LHC内で液体ヘリウムが漏れ出したことにある。さらに、気体化したヘリウムの膨張圧力によりマグネット間の接続がずれてしまった。このため、53台の超電導磁石を取り換えなければならなくなった。マグネット1台が10メートルの長さで巨大だが、53台をすべて、リングから取り出す作業もあった。

作家ダン・ブラウンの功績

「LHCのおかげで、核物理学への関心が幅広く集まるようになった。また、ダン・ブラウン著のベストセラー 『天使と悪魔 ( Angels & Demons ) 』のおかげで、一般人もセルンを知るようになった。多くのマスコミもセルンを取り上げている」
とジリス氏は語る。セルンの広報課は昨年1年間で約800人のジャーナリストの訪問を受けたという。平年の2倍の人数だ。多くの人が、LHCが稼働することでブラックホールが生まれ、地球が吸い込まれるのではないかと心配した。ハワイでは訴訟まで起こったほどだ。

LHCが修理中だからといって、セルンの物理者たちが休暇を取っているわけではない。セルンの第1号機「プロトン・シンクロトロン ( Proton Synchrotron ) 」は50年間、動き続けている。現在、宇宙線の研究が盛んに行われる一方で、LHCの再稼働にすぐに対応できるように準備が進んでいる。
「現在は、ともかく修理が大きな課題」
とリグラー氏は語った。

ジャスティン・ヘーネ、swissinfo.ch
( 翻訳、佐藤夕美 )

大型ハドロン衝突型加速器 ( LHC )

何億個にも及ぶ陽子ビームを地下100メートルから150メートルに埋められた全長27キロメートルの真空リング内で、マグネット ( 超電導磁石 ) により光の速度とほぼ同じ速度で1周させる。マグネットに使われている鉄はパリのエッフェル塔より多い。
衝突により、現在理論的にしか存在しないヒックス粒子が生まれると考えられている。衝突は、宇宙の誕生であるビッグバンを再現したものだ。
センサーは1秒間に最高6億回の衝突の情報を受信する。これにより、新しい物質ヒックス粒子のデータを得ることができるのではないかと見られている。

セルン ( 欧州合同素粒子原子核研究機構/CERN ) は、1954年、スイスを含む12カ国の協力により創立された。現在の参加国は20カ国に増えている。例えば、インターネットはセルンで開発された。

1200台のマグネット ( 超電導磁石 ) をつなぐ銅で覆われたニオブ・チタン繊維の電流コイルの直径は0.006ミリメートル。LHCには6300本のコイルが使われ、その全長は地球-太陽間の10倍の距離に及ぶ。

LHCは世界最大の冷蔵庫でもある。その気温は宇宙の気温以下だ。
LHCが1年間に収集するデータ量はDVDにして10万枚となる。

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