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急成長の電気自動車、スイスのインフラは大丈夫?

スイス各地には約5千700カ所の充電スポットが点在する。電気自動車の充電インフラは、何かとスイスの「アキレス腱」に例えられる © Keystone / Christian Beutler

昨年、世界中で電気自動車(EV)の新車販売台数が急増した。もちろんスイスも例外ではない。だがスイスでEVが今後も好調に普及し、二酸化炭素(CO2)排出量削減の効果が表れるようになるには、まだ幾つかの変化が必要だ。ノルウェーなどEV先進国の経験からもそれは明らかだ。

このコンテンツは 2021/04/10 08:30
Simon Bradley(文)、Julie Hunt(映像)、Pauline Turuban(グラフィック)

2020年は電気自動車(EV)が主役の年だった。米国最大の自動車メーカー、ゼネラルモーターズは、2025年末までに米国におけるGMのラインナップの4割をEVにすると発表。中国はEVの販売台数総数でエレクトロモビリティ界をリードした。また、ドイツ、フランス、英国ではEV販売台数が3桁の伸びを示した。排気ガスの規制強化を受け、基準を満たす新型車を選ぶ購買者が増えたためだ。

小国の中では、引き続きノルウェーがEV先進国だ。ノルウェーでは昨年、世界で初めてEVの販売台数がその他の燃料の自動車の販売台数を上回った(新車の54%がバッテリー式EV)。

国内総生産(GDP)がノルウェーと同程度のスイスも、独自の販売記録を打ち立てた。連邦政府は「エレクトロ・モビリティー・ロードマップ2022他のサイトへ」で、乗用車の新車登録数におけるEVの割合を2022年までに15%に増やすことを目指していたが、その目標は既に先月達成された。

連邦エネルギー省エネルギー局(BFE/OFEN)のマリアンヌ・ツェント広報担当は、「この1年間の進展は非常にポジティブだった」と言う。

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自動車連盟ツーリングクラブ・スイス(TCS)の技術部門責任者、マーティン・ボリガー氏は、「新技術の受け入れは通常、まず非常にゆっくりとしたペースで始まり、急速な伸びを見せた後に再び遅くなる『S字カーブ』をたどる。私たちは今、急速に伸びる段階のスタート地点にいるようだ」と語る。

そしてスイスでEVが早く受け入れられた理由として、スイスでは走行距離が比較的短いことや、エコロジー意識の高さに加え、ガソリン車やディーゼル車より総じて高価なEVを購入できる経済的余裕がある点にも触れた。

「また、自国の自動車産業を持たないスイスでは、企業方針との対立がない。そのためEV購買に対する特別な風当たりもなく、反対意見も稀だった」とボリガー氏は説明する。

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スイスの戦略は?

スイスは2050年までにカーボンニュートラルの達成を目指す。特にCO2排出量の3分の1を占める交通機関の改善は、他のどの部門よりも重要となる。

EVの普及を長期的に促進し、自動車のCO2排出量を削減するには、スイスはもっとスピードアップする必要があると政治家や業界の専門家らは言う。

アデル・トレンス上院議員(緑の党)は先月、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)に対し、「私たちは今、気候危機に直面している。技術的・経済的に可能であるのなら、できるだけ早く移行すべきだ」と語った。

緑の党は、ノルウェーや英国の例に見習い、化石燃料自動車の禁止期限を厳格に定めるよう求めてきたが、今のところ失敗に終わっている。

産油国ノルウェーは過去20年間に渡り、減税やさまざまな優遇・減免措置を実施することで、EVの購入意欲を高めようとしてきた。一方スイスは、最近になって各州が限定的な減税や奨励を始めたが、国としての明確な戦略はなく、各州の足並みは揃っていない。

環境・交通・エネルギー・通信相シモネッタ・ソマルーガ氏は先日、州や都市、自動車・電力業界、そして不動産業界の代表者を集め、EVとインフラに関する「より野心的な目標」について話し合ったが、具体的な決定には至らなかった。

これに対しボリガー氏は、「ノルウェーは補助金に加え、バスレーン、駐車場の充電設備などのメリットも提供している。電動化への移行を促進するには、EVの普及が効果的だと思う。また近隣諸国の経験から、購入者への補助金支給がEVの購買意欲を高めるのに非常に効果的なことが分かっている」と話した。

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スイスもノルウェー・モデルを導入?

しかし、スイス交通クラブ(VCS/ATE)の交通プロジェクト責任者、マーティン・ヴィンダー氏は、ノルウェーの補助金制度は推定20億フラン(約2千340億円)と高額すぎる上、スイスでは必要ないという意見だ。「今もEVはどんどん売れている。つまり、こういった戦略がなくてもEVを促進できるということだ」

そして6月13日の国民投票で是非が問われるCO2排出規制法の改正案には、EV促進に繋がる変更が数多く盛り込まれているとヴィンダー氏は続ける。

「スイス国民が改正法を可決すれば、規制が強化され、輸入業者はEVや燃費の良い内燃機関を持つ自動車へ移行せざるを得ない」と述べた。

自動車輸入業者組合「オート・スイス(Auto Suisse)」のフランソワ・ラナズ会長も、ノルウェーに見習うべきだという考え方を疑問視している。

「私たちは現実的になる必要がある。ノルウェーは他のどの国よりも何十年も進んでいる。充電スタンドが完全に不足しているスイスのような国で、2025年までに化石燃料を使わないモビリティを実現するのは、まるで夢物語だ」とRTSに語った。

「今後の支障が心配」

何かとスイスのアキレス腱に例えられるのがEVの充電インフラだ。スイス各地には約5千700カ所他のサイトへの充電スポットが点在する。2021年末までには、高速道路のサービスエリア50カ所と、ガソリンスタンドの大半に急速充電スタンドが設置される予定だ。そうなれば自動車1台あたりの充電スタンドの密度は欧州平均を上回ると連邦当局は説明する。

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)で気候政策を研究するアンソニー・パット教授他のサイトへは、「現在の状況は悪くないが、今後数年間に支障が出てくるのではないかと心配している」と話す。スイスでEV購入に興味を持つか否かは、『車を家で充電できるかどうか』にかかっている」。

そしてスイスの充電ネットワークは「かなり高密度」だが、「戦略が間違っている」と続ける。「スイスの市町村では、EV普及に貢献しようと新しく充電スタンドを1、2カ所設置したが、これは人々の要望に応えておらず、役に立たなかった」

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自宅用の充電設備

スイスが本当に遅れているのは、車の持ち主が帰宅中に充電するために必要な、マンションのガレージや路上の駐車区間などの充電設備だとパット教授は指摘する。

連邦エネルギー省エネルギー局は、チューリヒやバーゼルなどの都市部にある駐車場に充電スタンドを設置する複数のパイロットプロジェクトを支援したが、一般的に見て「利用できる数が少なすぎる」と認めている。

スイスでは人口の57%が賃貸住宅に住んでいるのに対し、ノルウェーでは84%がアパートや家の所有者だ。そのためノルウェー人は自宅でEVの充電ができる一方で、スイス人にはその手段がない場合が多い。

ただ、隣国での取り決めがそのようなスイスの問題解決につながるかもしれない。ドイツでは昨年、不動産の借り手が自分のEV用に充電設備を設置する権利を認める法案が可決された。また不動産の所有者は、充電設備に必要な建物内の配線を改善するよう義務づけられた。スイスでも同様の動きが生じる可能性はあるが、非常に難しいと関係者は言う。現在、これに関するロビー活動は行われていない。

「建物に取り付ける充電設備は、いずれ市場が問題を解決するかもしれないが、路上の駐車区間に関しては、政府や自治体が関与しない限り何も変わらないだろう」とパット教授は言う。

「もちろん、5~10年後にはテクノロジーがこの問題を解決してくれるかもしれない。また急速充電が可能になり、バッテリーが大型化してEVも基本的にガソリン車と同じように扱えるようになるかもしれない。だが今はまだその段階に至っていない」(パット教授)

(英語からの翻訳・シュミット一恵)

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