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気候工学・地球工学 温暖化対策の切り札? 気候を操作するジオエンジニアリング

地球温暖化問題への打開策が見つからない現在、気候を人為的に変化させる技術「ジオエンジニアリング」に注目が集まっている

(AFP)

大気中の二酸化炭素量(CO2)は現在も上昇を続ける一方だが、世界規模の温暖化防止条約が成立する見通しはまだない。では、技術の力で気候を人工的に変えるのはどうだろうか?

 宇宙に巨大な鏡を設置して、太陽光を反射して地球を冷ます。船を使って大海原を「耕し」、海藻を育てて大気中のCO2を吸収させる。こうしたアイデアは単なる空想に過ぎないだろうか?

 「そんなことはない」と、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のニコラス・グルーバー教授(環境物理学)は答える。「コストは莫大だが、宇宙空間に鏡を設置するというアイデアは実現可能だ。また、海洋での耕作技術はすでに試験済み。だがあまり効率が良くないことが分かった」

禁じられた手段

 このように意図的かつ大々的に気候に影響を与える技術は、ジオエンジニアリング(地球工学、気候工学)と呼ばれている。雨やひょうを人工的に降らせる技術と違い、ジオエンジニアリングは地球規模で長期的な影響を与える。

 「国際的な気候会議では、ジオエンジニアリングについて議論されたことはない。政治的にタブーのテーマだったが、じきにそうではなくなるだろう」と、気候変動問題専門のコンサルタント会社パースペクティブス(Perspectives)のマティアス・ホーネッガーさんは言う。

 「各国元首は、地球の温度を2度下げるにはもう遅すぎることを自覚すべきだ。国内レベルで対策を取っても不十分。そのうちジオエンジニアリングが活用されるようになるだろう」

 その下地はもう出来上がっている。世界気象機関(WMO)の温暖化ガスに関する最新報告書によると、大気中のCO2濃度は上昇を続け、最高値を記録した。しかし、国際社会は今のところそれに対する手段を持っていない。

CO2 逆転の発想 二酸化炭素をエネルギー源に

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気候変動と地球温暖化の主因は、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)だと専門家は見ている。しかし、もしCO2を利用して燃料を生産し、環境への負担を軽減することができたらどうだろう?

 現在、スイスの二つのプロジェクトがCO2の利用に取り組んでいる。一つは巨大な掃除機のような機械でCO2を吸い込む民間企業のプロジェクト。もう一つは、天然鉱物のゼオライトを用いてメタンガスの生産を目指す公的機関のプロジェクトだ。

 チューリヒのクライムワークス(Climeworks)社は、合成燃料の生産などを目的に、大気中のCO2を回収する技術の開発に5年前から取り組んできた。

 開発中の回収装置には、内部に特殊加工のセルロースフィルターが装着されており、空気がそこを通る際にCO2が分離される。CO2の吸収量が最大限に達すると、廃エネルギーや再生可能エネルギーを用いてフィルターが加熱され、極めて純度の高いCO2が抽出される。

 「航空機など特定の運輸部門が排出するCO2は、地球上の総排出量のごく一部だが、私たちはその回収を目指している」とクライムワークスの共同設立者クリストフ・ゲバルトさんは語る。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、航空機は気候変動の人為的な原因の約3.5%を占め、CO2の排出量では全運輸部門の13%を占める。

 これまでクライムワークスは、200万立法メートルの大気から年間約1トンのCO2を分離する装置のテストを重ね、その能力を証明してきた。

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合成燃料

 この成果にドイツの自動車メーカーアウディが着目。合成燃料自動車の開発戦略にこの技術が使えるか、可能性を模索している。

 「アウディに必要なのは、CO2の安定した供給源だ」とゲバルドさんは言う。「それには有機物からできるCO2か、大気中のCO2が利用できる」

 しかし、有機性物質の燃焼や分解によって生じるCO2の量は、自動車メーカー1社の需要さえ賄えないほど少ないと指摘する。

 そのため、クライムワークスは十分な量のCO2をアウディに供給できるかどうかを検討するため、試験工場の設立を考えている。ちなみにアウディはすでに昨年、合成燃料e-gasの精製をドイツの工場で開始している。

 クライムワークスの技術は幅広く注目されており、ヴァージン・グループ主催のコンテスト「ヴァージン・アース・チャレンジ」の最終選考に残った団体・個人11組の中に選ばれた。このコンテストでは、「大気圏から温室効果ガスを除去するための、経済的かつ環境的に持続可能な技術」を開発した個人や企業に対し2500万ドル(約25億6千万円)の賞金が授与される。

挑戦

 理論的には、天然ガス供給網に送り込むことのできるメタンガスの生成は比較的容易だ。CO2に水素を加え、外部のエネルギー(理想的には再生可能エネルギー)で力をかけて反応を起こせばいいのだ。その際、副産物として水が生成される。この過程はサバティエ反応と呼ばれ、20世紀初頭に発見された。

 しかし、まだ技術的な問題があるため、この方法をいかに経済的かつ時間をかけずに行うかが課題になる。プロセスを早める触媒を使えば、いくつかの問題の解決には役立つが、有害な一酸化炭素が生じたり、メタンガスの生成量が低下したりする恐れがある。

 チューリヒ近郊の連邦マテリアル科学技術センター(EMPA)では、低温で反応を起こし、微小孔性の鉱物ゼオライトを用いる、技術を研究している。

 「(メタンガスの)生産過程で生じた水分は、ニッケル加工を施したゼオライトに吸収される。一酸化炭素(CO)の発生はほとんど無く、最後にメタンガスが生成される」とプロジェクトリーダーのアンドレアス・ボルクシュルテさんは説明する。

 しかしまだ完成にはほど遠い。「まだ実験段階で、ゼオライトが吸収できる水の量は限られている。そのためゼオライトを完全に乾かして、再利用できるようにしなければならない」

万能な解決策ではない

 現段階では研究室での化学反応実験レベルで、工業化にはさらなる技術開発が必要だ。ゼオライトの少量生産は容易だが、求められているのは安価で工業規模の大量生産だ。

 機械の大型化、大容量のガスの取り扱い、エネルギーや資金の調達など、エンジニアにとっての課題も多数ある。また、温暖化ガスを排出しないためにも、原料となるCO2は、化石燃料ではなく、バイオマスから生じたものを使用する方が望ましい。

 「天然ガスは非常に安価なため、競争は難しい。合成ガスの価格は天然ガスの5倍以上にもなるだろう」とボルグシュルテさんは語る。

 クライムワークスにとっても生産コストは重要な課題の一つだ。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の研究によると、大気からCO2を抽出するためには、1トン当たり約600フラン(約6万9千円)のコストがかかる。

 クライムワークスは、数年内にこれを約100フランに引き下げ、競争力の向上を目指している。従来のシステムではCO2の抽出工程で300度以上の加熱が必要だが、同社のシステムはそれより約100度低い温度で抽出できるため、コストダウンが可能になりそうだ。

 しかしこうした技術が完成し、一般的に普及したとしても、地球温暖化が解決すると考える人は一人もいない。

 「これは万能な解決策ではなく、中・長期的に重要になる様々な技術の選択肢の一つにすぎない」とゲバルドさんは締めくくった。

CO2の回収

CO2回収の主な技術には、大気から大量のCO2を回収するダイレクト・エアー・キャプチャー(DAC)と、濃度の高いCO2を排出する排気管に取り付ける炭素回収・貯留システム(CCS)がある。

DACがCCSと競争するためには、コストの削減が必須。いくつかの研究調査によるとDACのコストは、最高でCCSの10倍にもなる。現在もこの技術はまだ主に実験段階にあり、本格的な工業化にはまだ遠い。しかしCCSもまだ一般的には普及していない。

クライムワークスのほかにも、カーボン・エンジニアリング(Carbon Engineering)、グローバル・テルモスタット(Global Thermostat)、コアウェイ(Coaway)、テラリーフ(Terraleaf)など、DACの開発に取り組んでいる企業は多数存在する。それらの多くは大学発のベンチャー企業。企業に限らず、コロンビア大学、ジョージア工科大学、南カリフォルニア大学などでも研究開発が続けられている。

インフォボックス終わり

 「世界的にみて、温暖化対策はあまり進んでいない」と、オスロ国際気候環境研究 センター(CICERO)は認める。「気候変動問題に関し、強制力を持つ国際条約が成立する見通しは立っていない。京都議定書が批准された15年前に比べて世界は後退した」

 9月23日にニューヨークで開かれた国連気候サミットでは、スイスのドリス・ロイタルト環境・エネルギー相は「世界的に気候変動問題への取り組みが乏しい」と強調している。

太陽光をブロック

 ジオエンジニアリングで気候を操作する手段は主に二つ。CO2除去(CDR)と太陽放射管理(SRM)だ。CO2除去では、生態系を操作し、地球上のバイオマス(植物や大地)や海洋が吸収するCO2の量を増やす。例えば、硫酸鉄を海洋にまくと海藻の成長が促され、光合成で吸収されるCO2の量が増える。また、大気中の一酸化炭素をフィルターにかける「掃除機」の投入も革新的な解決策として期待される。

 一方、太陽放射管理は、地球表面・雲・大気の太陽光反射能力を高めることがねらいだ。これには宇宙空間での設備設置も有効とされる。「アスファルトの色を明るくすれば、街を部分的に冷やすことができる。そうすれば熱波で何百人も亡くなる事態は防げる」とホーネッガーさん。「問題は、これを大規模で行った場合にうまくいくかどうかだ」

 飛行機や気球などを使って、成層圏にエアロゾル粒子を投入して大気の太陽光反射能力を高める技術はかなり進んでいる。ETHZのレト・クヌッティ教授(気候学)によれば、この技術を使えば火山の噴火時と同様の効果が得られるという。

例えば硫黄粒子などのエアロゾル粒子を大気中に放出すると、それが膜のように機能して太陽光を部分的に跳ね返す

(Hughhunt)

 教授はその例として、フィリピンのピナツボ山を挙げる。この山は1991年に噴火し、その後2年間は地球の気温が0.5度下がったといわれている。

 エアロゾル粒子を投入するプロジェクトは現在、研究所での小規模な実験に限られている。この技術を使った場合の副次的な影響や、政治的・倫理的な問題については大いに議論の余地が残されていると、クヌッティ教授は指摘する。

不安要素は多い

 気候を意図的に操作すれば、特に水の循環や降雨量に多大な影響が出る。ETHZのウルリケ・ローマン教授(気候学)はこう説明する。「大気中のエアロゾル粒子によって地面に降り注ぐ太陽光の量が減るため、地球の気候バランスに影響が出る。結果として、ピナツボ山の噴火が証明したように、世界規模で降雨量が減るだろう」

 ジオエンジニアリングは我々と自然との関係を180度変え、各国間の不信感を強めるだろうと語るのは、この分野で著書のあるジェイムズ・フレミングさん。環境団体グリーンピースとのインタビューでは次のように語っている。「『天気が悪いのは英国のせいだ』と、北欧の国が突然クレームをつけたり、また逆に英国が北欧を批判したりすることになるかもしれない。将来、紛争の可能性は大だ」

 例えば、進行中のジオエンジニアリングのプロジェクトが、政治的、経済的、または学術的な理由で2、30年後に突然中止になったらどうなるだろうか。「たった1年で地球の温度が1~2度すぐに上昇する危険性がある」とクヌッティ教授。そうした場合、現在の気温上昇のスピードをはるかに上回り、破滅的な結果へとつながるかもしれないという。

 ジオエンジニアリングには他にも問題がある。温暖化ガスなど有害物質を減らす努力に水を差してしまうかもしれない点だ。また、国際交渉が頓挫したり、環境団体の関心事に注目が集まらなくなったりするかもしれない。そのため「ジオエンジニアリングは根本的な問題は解決せずに、単に症状に対応しているだけだ」と複数の環境団体が強調している。

深く議論

 研究者の大部分はジオエンジニアリングに対し懐疑的だったり、少なくともかなり慎重な姿勢を取ったりしている。独サステナビリティ研究所(IASS)のマーク・ローレンス所長はベルリンで行われた気候会議で「ジオエンジニアリングの技術はどれもすぐに問題なく実行できるとは言えない」と報告している。

 ジオエンジニアリングの可能性、限界、影響について深く議論する必要があると、ホーネッガーさんは主張する。「こうした議論では一般の意見も考慮されなくてはならない」

気候を人為的に変える試み

1877年 ベーリング海峡を通し黒潮の流れを変える方法を、米国の研究者が提唱。目標は北極海の気温を15度上昇させることだった。

1929年 ドイツ人物理学者はロケットなどの打ち上げ場に巨大な鏡の設置を提案。目標は地表の太陽光を集めて北極圏に人が住めるようにすることだった。

1946年 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の代表は、北極圏で核爆弾を爆発させたらその地域の海水温度が上昇して、厳しい気候が和らぐと考えていた。

1967~72年 ベトナム戦争当時、米軍は雲の中にヨウ化銀を噴射し、モンスーンの時期を長引かせようとしていた。

1989年 米国の気候学者は、地球軌道に日よけを設置すれば太陽光を2%反射できると考えていた。

2006年 オランダの科学者は、成層圏に硫黄粒子をまいて太陽光の一部を吸収させ、地球の温度を下げる方法を提唱。

2010年 大気中の水分を凝縮させるレーザーを用いて人工的に雨を降らせる実験が、ジュネーブ大学で成功。

インフォボックス終わり


(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美), swissinfo.ch


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