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低用量ピル 若い女性に起きた悲劇

ドイツの医薬品大手バイエルが販売しているピル「ヤスミン(Yasmin)」。含有成分ドロスピレノンの副作用が問題になっている Keystone

スイスのある若い女性が、低用量ピル「ヤスミン(Yasmin)」を服用後、副作用で重度の障害を負った。女性の家族は製薬会社バイエルに賠償を求めて訴えていたが、裁判では負けたばかりか、多額の訴訟費用を被告に支払うよう命じられた。この判決を契機に、スイスではピルを巡る議論が再燃している。

スイス北部シャフハウゼンで普通の学校生活を送っていたセリーヌさんは今から5年前の17歳当時、「ヤスミン」を服用後、肺塞栓(そくせん)症にかかった。それからというもの、24時間介護が必要な重度の障害者となった。

セリーヌさんの家族は、このピルの製造元である医薬品大手バイエル(本社ドイツ)を相手取り、賠償金530万フラン(約5億8千万円)と慰謝料40万フランを求めた訴訟を起こしていた。

しかしチューリヒ地方裁判所は今月上旬、原告側が製品の欠陥を証明できなかったとして請求を退けた。また、原告に対し、訴訟費用1万2千フランをバイエルに支払うよう命じた。

セリーヌさんの母親はシャフハウゼンの地元紙に対し、「請求していた金額は娘の介護にかかる一生分の費用を専門家と共に算出したもの」とし、「私たちが個人的に欲しいお金ではない」と強調。地方裁の判決を不服として、上告した。

低量用避妊薬(ピル)「ヤスミン(Yasmin)」や「ヤーズ(Yaz)」を巡り、独医薬品大手バイエルを相手にした訴訟が、セリーヌさんの家族以外にもスイスで2件起きている。

原告の女性2人はすでに第一審の判事の元を訪れているが、正式な裁判はまだ始まっていない。

バイエルは同社製のピルを巡り、米国で数千人に慰謝料を支払っている。しかし、スイスでは訴えを起こす側に不利な法体系であるため、企業に慰謝料を請求するのは困難だと、ドイツ語圏の週刊紙ハンデルスツァイトゥングは分析している。

(出典:スイス通信)

国外でも死亡例

ドイツ語圏の有力紙ターゲス・アンツァイガーによると、スイスでは1991年から2013年までに、最低14人の女性(17~49歳)がピルの服用後に肺塞栓を引き起こして死亡した。

セリーヌさんのケース同様、死亡した女性が服用したのは、どれも合成ホルモンのドロスピレノンを含有するピルだった。同紙によれば、同成分配合のピル「ヤスミン」「ヤスミネレ(Yasminelle)」「ヤーズ(Yaz)」はバイエルの主力商品だ。この3製品の売り上げは2012年、10億ユーロ(約1300億円)以上に達している。

同社のピルは世界的にも多く販売されており、日本でも輸入品が流通している。カナダではヤスミンとヤーズが最も多く処方されるピルの一つに数えられている。しかし、カナダ国営放送(CBC)がカナダ保健省から入手した資料によると、2007年から2013年2月にかけて、ヤスミンないしはヤーズが原因だとされる死亡件数は23件、副作用の報告件数は600件あった。

米国でも、同社のピルを巡る訴えが相次いでいる。しかし、セリーヌさんの訴訟とは違い、バイエルは米国ではすでに被害女性数千人に慰謝料を支払っている。その金額は合計15億ドル(約1500億円)以上に及んでいる。

今回のセリーヌさん家族の訴訟を受け、国レベルでもピルの規制を求める声が上がっている。

社会民主党の下院議員ベア・ハイム氏は次期連邦議会で、合成ホルモン「ドロスピレノン」の含有量が高いピルの販売禁止を求める動議を提出する予定だ。

「なぜ白熱するのか分からない」

バイエルは、セリーヌさんの訴訟が「係争中」だとして、メディアからの取材を断っている。しかし、13日に放送されたスイス国営放送の報道番組ルンドシャウで、バイエル・スイスのバーバラ・ハイゼ社長がインタビューに応じた。

ハイゼ氏は、セリーヌさんのケースは「一個人の悲運」であるとし、「どの医薬品にも副作用はある。製品が危険であれば販売はされない」と強調。「なぜ議論がここまで白熱するのか分からない」と冷静に語った。また、今回の訴訟はまだ係争中であることを理由に、セリーヌさんの家族から訴訟費用を回収することについては言葉を濁した。

「あなたの娘さんにヤスミンを勧めますか」との質問には次のように答えている。「私の娘の場合、医師がどのピルにするかを選んだ。それがヤスミンであっても、私は反対しなかっただろう」

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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