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性の多様性 ― LGBTIQを語る 「コウノトリじゃなくて宅急便がアーロンを届けてくれたの」 レズビアンカップルに息子が生まれるまで

息子に両側からキスを浴びせるレズビアンカップル

子どもを授かるためにスイスの法律を避けて通らなくてはならなかったオルネラさん(左)とガブリエラさん。「これは正に市民的不服従と呼べる行為ね」

(Thomas Kern/swissinfo.ch)

法的に正当な形で息子を持ち、社会でも家族として認められること。これが幼いアーロンの母親、ガブリエラさんとオルネラさんの夢だ。2人揃って親として認めてもらうため、これまであらゆる面で戦いを強いられてきた。それでも近い将来、スイスでも同性カップルの権利が保障されるようになると確信している。

 「いつの日か母親になると信じていた。そうすることが夢だったし、例えスイスでは法的に認められていなくても私にはその権利がある」。ガブリエラさんはそう言ってオルネラさんの手を取ると、話しを続けた。「母親が2人いるアーロンは、愛情をいっぱい注がれて育っているわ。家族の構成がどうあれ、家族にとって一番大切なのは愛情でしょう?」

LGBTIQとは 女性同性愛者(Lesbian)、男性同性愛者(Gay)、両性愛者(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)、インターセクシャル(Intersexual)、クィア(Queer:広く性的マイノリティを表す)の英語の頭文字を並べた言葉。またこの他にも性的指向や性別の多様性を定義する他の表現も生まれてきている。

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 ファミリー。この言葉は同姓カップルであるガブリエラさんとオルネラさんの生活の軸となるものだ。ローザンヌ近郊に住む2人のマンションの玄関のドアには、この言葉がアルファベットで1文字ずつ掛けられている。まるで呪文のような雰囲気さえ漂う。ガブリエラさんは「私たちも他の家族と同じよ。日々の日課はとてもシンプル。家で過ごし、仕事に行き、学校に通い、おむつを替えて、託児所に行って…。他の親たちと全く変わらないわ」と話す。オルネラさんが息子のアーロンを抱き上げると、ガブリエラさんは「少しだけ他の人たちより外交的で、感情の起伏が激しいかもしれないけど」と付け加えた。

 ブラジル出身のガブリエラさんは12歳のときにジュネーブに移住した。商業科で職業訓練をした後、金融業界で仕事についた。やがて人権に大きな関心を持つようになり、今年の9月から大学で法律を学ぶことにしたという。「これから5年間大学に通わなくてはならないけど、その価値はある。弱者の権利を守ってあげたいの」

 オルネラさんは心理学者だ。ティチーノ州の小さな村で育ち、そこは「同性愛者に対してオープンな街とはとても言えない場所」だったと言う。大学に通うため、そして自分自身でいられる場所を見つけるために19歳でローザンヌに引っ越した。

 30歳になる2人は、他の多くのカップルと同じようにソーシャルメディアを通して知り合った。「友達以上の関係になれる人を探していたの。実は同じ会社に勤めていると分かって、会ってみることに。お互い恋に落ちて、その2年後にはアーロンを授かったわ」(オルネラさん)

子どもを「発注」

 スイスでは、同性カップルには生殖補助医療を受ける権利がない。2人は子どもを授かるため、デンマークの世界最大規模の精子バンク「クリオス」を訪れた。精子のドナーは匿名だが、ドナーの生い立ちに関する情報はほぼ全て閲覧することができる。子どもの頃の写真、性格特性を表したグラフ、声の録音、趣味、学歴、身長、体重、そして靴のサイズまで分かる。選考基準が多いのはありがたいが、かえって不安になるのでは?との問いに、オルネラさんは「恋愛をするとき、誰でも自分なりの選択基準を持っているでしょう?私たちが子どもの父親を選ぶのも同じこと。それにアーロンが将来、自分の『生物学上の父親』の姿を思い描きたくなったとき、これらのデータが役に立つかもしれない」と擁護した。

 友人に協力してもらったり、母親2人、父親2人の4人家族を構成したりする同性カップルとは違い、こういった家族構成はガブリエラさんとオルネラさんにとって論外だという。家族に3人目、或いは4人目の大人が加わるのは窮屈に感じたためだ。

 こうして2人は、クリオスで入手できる同一ドナーの精子サンプル6本を全て買い取った。スイスは精子の持ち込みを禁止しているので、サンプルセットはフランスの友人宅へ送った。「家での取扱いに必要なキットも全てその中に入っていた」と説明するガブリエラさんは、「1回目のトライで直ぐに妊娠して、私たちは本当にラッキーだった。アーロンはコウノトリじゃなくて、まるで宅配便に届けてもらったようなものね」と冗談を言った。

2年半経った今も揃わない必要書類

 しかしスイスでは、登録上アーロンの母親は1人、つまりガブリエラさんしかいない。それに対し、オルネラさんは子供に関する権利は何一つ持たない。また、出生局ではアーロンの父親欄に名前を記入する必要があった。実はガブリエラさんは18歳のとき、母親への反抗心からブラジルでよく知りもしない男性と結婚してしまった過去があった。あまりに衝動的だった自分の行動をすぐに悔やんだが、以来、この件は放置したままになっていた。ところが妊娠したガブリエラさんは、人口2億人の中からこの男性を探し出さなくてはならなくなり、長い時間を費やすはめになった。アーロンが早産で生まれた数週間後の2015年4月、やっと離婚が成立して父親認知の手続きが取れたが、スイス当局が書類をすぐに有効と認めなかったため、アーロンはまだ婚姻関係が有効だった期間中に生まれた子供として登録されてしまった。

 信じられないような話だが、2歳半になったアーロンは公的老齢・遺族年金保険(AHV)と医療保険の証明書は持っていても、未だに身分証明書がない。ガブリエラさんはスイス国籍を持たないため、子どもはブラジル国籍を取得するはずだったが、それには共同親権を持つ父親のサインがいる。だがその父親は海外に住み、子どもと関わることを望んでいないため、状況は更に複雑になった。「この2年間は、まるで悪夢のような日々だった。アーロンには身分証明書がないから、国境に近づくのがいつも怖かった」とガブリエラさんは涙ぐみながら話す。長い間、幾度も役所と交渉した末、1年前にやっと法律上の父親名を削除することが裁判所に認められた。

 オルネラさんは長い間、法の前に自分の無力さを痛感していた。いくら訴えても役所は聞く耳を持たなかったが、幸い医者や病院のスタッフは自分たちを「家族」として扱ってくれた。アーロンが緊急手術のために集中治療室に送られたときも、オルネラさんは息子に付き添うことが許された。そしてアーロンが退院して家に戻ったとき、不思議なことが起こった。まだ赤ん坊だったアーロンが粉ミルクを受け付けなくなったため、授乳できないガブリエラさんの代りに、急きょオルネラさんがその役目を引き受けることになったのだ。妊娠、出産を経ていないオルネラさんがお乳を出せるように、制吐薬のモティリウムを使った。「病院で初めてお乳が出たときは、大歓声が上がった。まさか本当に上手くいくなんて誰も思っていなかったから」

「正式な結婚以外の関係は、意味がない」

 スイスの養子縁組に関する改正法が18年1月1日付で有効になり、オルネラさんは正式にアーロンを養子に迎えることができるようになる。この発展は喜ぶべきことだが、スイス政府はまだまだやるべきことが山積みだと2人は言う。その一つに、誰もが自由に結婚できる権利がある。「書類に記載されているパートナーシップは、ある意味で『残念賞』みたいなもので、私たちの関係を適切に表しているわけではない。正式に結婚できなければ、その他の関係は意味がない」と言い切ると、ガブリエラさんは薬指にはめた「結婚指輪」を見せてくれた。「レインボーファミリー(同性カップルの家族)は既に現実問題。スイス政府はいつまでも目を背けるわけにはいかないわ」

 未婚の母親が次第に受け入れられたように、今のスイス社会は様々な家族の形を受け入れる準備ができでいると2人は確信している。オルネラさんの両親がその良い例だ。「初めはアーロンを孫と認めてくれなかった。一度に色んなことを消化しなくてはならなかった両親の気持ちも分かるけど」とティチーノ出身のオルネラさんは言う。保守的な村で生まれ育ったオルネラさんは、カミングアウトを最後の瞬間まで引き延ばしていた。「他人の視線が怖くて、ずっと言い出せなかった。でも子どもができたら、もう隠し通せない。ある日、母親の所へ行って、『私はレズビアンで、妊娠中のパートナーがいる』と告白したの。まさかこんなことを言われるとは夢にも思っていなかったでしょうね」

 子どもが沢山いる大家族を夢見るガブリエラさんとオルネラさん。既に2人目も計画中だ。今度はオルネラさんが出産する番だという。「私の(大学の)試験が終わる来年の夏以降に生まれるようにしたい」とガブリエラさんは言う。アーロンと同じドナーの精子サンプル残り5本は、今も精子バンクの冷凍庫に眠っている。夢を実現するために、この2人の女性はもう一度スイスの法律を避けて通らなくてはならない。「これは正に、市民的不服従と呼べる行為。でも母親になる権利は誰にも渡さないわ」

法律ではどう定められているか

スイスでは生殖補助医療のあらゆる手段が同性カップルには認められていない。同性カップルへの精子提供は閉鎖的なため、LGBTIQと呼ばれる性的少数者は、スペインやデンマークといった欧州諸国の不妊治療クリニックや、海外に拠点を持つ精子バンクを訪れるケースが増えている。精子ドナーが匿名の場合、ドナーのアイデンティティーに関する情報は公開されない。スイスの法律を回避し外国で人工授精を行う行為は、スイスでは犯罪にあたらない。

同性カップルは、連帯で養子を迎えることが許されていない。2018年1月1日以降、同棲暦が3年以上あれば、パートナーシップが公に登録されていなくてもパートナーの子どもを養子として迎えられるようになる。この改正は、スイスの人権法に欠けていた重要な点をカバーしている。改正後、同性カップルに育てられている子どもは、生みの親の死後も、もう片方の親と生活を続けることが保障されることになる。

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(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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