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穏やかな老後を「老馬ホーム」で

(swissinfo.ch)

馬たちが静かに余生を送る「老馬ホーム」がスイスのジュラ州にある。緑の草がなだらかなジュラの大地を覆う地にそれはある。

このホームを構想したのは作家で乗馬を趣味にしていたベルンのハンス・シュバルツ氏。1958年に「馬の基金 ( La fondation pour le cheval ) 」を創設した。馬を主体にポニー、ロバ160頭が20 人の飼育係に見守られ、野生に戻ったような生活を送る。

冬の雪が降る日でも放牧

 「元の飼い主が3、4カ月後に再訪問し、馬の名前を呼んでもこちらを振り向かず、仲間と楽しそうにしていた。良かった。これで安心した。ここに打ち解け、野生に近い状態で暮らしていると、語ってくれるときが一番うれしい」
 と3カ所に分散するホームの本部、「ロズレ( Roselet ) 」で馬の世話係長を務めるフランシス・シュリッドゲー氏は話す。

 馬の飼い主にはふたつのタイプがある。馬を競走馬としか見なさず、走れなくなると殺して新しく買い換えるタイプと、馬を慈しみペットとしても長く飼うタイプ。ここに来る馬のほとんどが後者の飼い主から預けられる。長く飼いたいが、自分も馬も年を取り維持できないという理由が多い。またサーカスや軍で任務を終えたり、破産した馬の飼育者から依頼されたりといった例もある。

 「冬の雪が降る日でも朝9時から夕方5時までは放牧。春、秋の穏やかな気候のときは、2日間ノンストップで放牧し、健康チェックやブラシがけをしたらまた放牧を続ける」というのがこのホームの方針だ。高齢馬の大敵は膝などの関節症で、これには動くのが一番の治療法だ。朝、足を引きずっていても運動をすればば夕方には治っているという。

 馬は2頭から3頭の小グループを作り、広々とした草原でほとんど野生に帰ったような生活を送る。しかし、初めてホームに来て仲間入りするのは難しい。まずグループから遠く離れ、少しずつその距離を狭め3日間から10日間で小グループに認められる。が、その後リーダー的性格の馬は大変だ。小グループから構成される60頭の大グループの中で目立ちたがり、まとめ役のボスから蹴られて大けがをしたこともあったとか。

 しかし、美しい出会いもある。親友ができたり、カップルが登場したりする。「カップルの場合は厩舎内の2頭入れる馬房に入れる」という。

馬との語らい

 「一番よく馬たちが見えるのはここから」と案内されたのは、ホームのレストランのテラス。なだらかな草原が広がり、モミの大木があちこちに日陰を作る中で馬たちが草を食んでいる。遠くには寝そべった牛も見える夢のように穏やかな景色だ。

 ここにはたくさんの人が観光としても訪れる。「馬を見ると自分も静かになる」と多くの人が話すという。中には、ほとんど毎週来て夕方厩舎に戻った馬と話をする人もいる。
「精神的障害のある男の子がいて、この子は冬には毎日のように来る。馬はまるで話が分かるように首を前に出し聞き入っているように見える」
 とシュリッドゲー氏は言う。

 馬が好きな人は里親になることもできる。ホームで気に入った馬を選び、いくらか寄付金を払い里親契約をすると、年に数回その馬についての報告書が届く上、ここに来る楽しみも増える。

死に直面すること

 この仕事で一番つらいのは、やはり死に直面するときだ。
「いつも空腹のフリッツは、ほかの馬のえさを頂戴しようと厩舎内を絶えずうろついていた。こら、フリッツまたそこにいるかと、怒鳴るのが習慣になっていたが、あいつが死んでからは、空っぽになった気がする」
 とシュリッドゲー氏は遠くに目をやる。

 しかし、ここにはどの時点で安楽死を決定するか、はっきりとした基準がある。自分の歯で草や干し草を食べられなくなること、ほかの仲間の動きに同じリズムでついていけなくなること、の2点だ。
「しかし、この決定はとてもつらい。春になるまで待とう。きっと元気が出てくると誰かが言うと、殺さないで春を待つ。困難な決定なので5人全員の意見が一致するまで待つという原則を守っている」

 安楽死が決定された場合、元の飼い主には、その後の遺体処理が問われる。肉を食用に提供するという選択肢もあるそうだが、火葬がほとんどだ。一度、殺された馬が引きずり出されたのを見て泣き崩れた飼い主がいた。そのときから「動物とはいえ、死後、物のように扱っていいのか」という疑問が湧き、今、元の飼い主と葬儀を行うべきかと考えている。

 しかし葬儀を行うとなると、飼い主を慰めるなどの精神的ケアは我々の仕事ではないし、とシュリッドゲー氏の迷いは尽きない。

里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、ル・ロズレにて、swissinfo.ch、

「老馬ホーム」

高齢の馬や虐待を受けた馬に穏やかな生活を送ってもらおうとハンス・シュバルツ氏が1958年「馬の基金 ( La fondation pour le cheval ) 」を創設した。

現在、同基金の資金により、ジュラ州に、ロズレ( Roselet ) 、メゾン・ルージュ ( Maison rouge ) 、ジャンブルナン ( Jeanbrenin ) の厩舎があり、20人の飼育係と管理関係者5人の、計25人のスタッフが、馬を主体にポニー、ロバを加えた計160頭の世話をしている。

年に1回出版される馬の本に対するお礼として払われる、20フラン( 約1700円 ) から時には巨額の寄付金までが主な資金源。元の飼い主が払う月200フラン ( 約1 万7400円 ) のホーム費用もあるが、世話代は1頭につき月1000フラン ( 約8万7000円 ) かかるので、これだけでは十分ではない。

合計80ヘクタールの面積に放牧し、出来る限り野生に近い形で世話をしている。

馬は18歳以上から受け入れられる ( 馬の最高年齢は38、9歳と言われ、18歳は人間の65歳頃に当たるという )

幾つかの農家が、個人的にビジネスとしてこうした高齢馬の世話を行っている以外、スイスでは唯一のホーム。ヨーロッパでも珍しいホームだという。

スタート当時の1960年代は、一般からの理解が得られず、経営は困難だったが、しっかりした管理と信念が高い評価を得て、現在は安定した経営が行われている。

ジュラ州の夏に涼しい気候が馬の健康管理に向いているのも成功の1つのカギに数えられる。

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