昨年のリオデジャネイロ五輪の招致をめぐり、国際オリンピック委員会(IOC)委員の票の買収に関与したとして、ブラジルオリンピック委員会のカルロス・ヌズマン会長(75)が5日、同国の警察当局に逮捕された。同会長がスイスに総額70万ドル(約7900万円)の金塊を隠し持っていた疑惑が浮上しており、スイス当局も捜査に乗り出す見込みだ。
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スイスの連邦検察庁は、ブラジル側から9月28日付けでスイス連邦司法警察省に捜査協力の要請が来ていることを認めた。
連邦検察庁は6日、スイスインフォに対し声明で「今日、この件に関しブラジル側から刑事共助(MLA)の要請を受けた。連邦検察庁は現在、刑事共助の要請内容を精査し、執行が可能か判断する」と述べた。要請内容の詳細や、容疑者らの銀行口座、資産凍結の依頼の有無は明らかにされていない。
金の延べ棒
ブラジルの捜査当局によると、ヌズマン会長はスイス国内に1本1キロの金塊16本(時価総額約70万ドル)を隠し持っているとされる。
米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、ブラジルのファビアナ・シュナイダー連邦検察官が記者会見で「五輪メダリストが金メダルの夢を追い求めている一方で、五輪委員会の幹部は自分たちの金(メダル)をスイスに隠し持っていた」と皮肉ったと報じた。
ヌズマン会長は、9月の警察の家宅捜索後、申告していない金塊を所有しているとの疑惑がかかっている。この事件をめぐっては、ヌズマン会長のほか、委員会のレオナルド・グリナー元執行役員も逮捕された。
さらに地元メディアは、知事在任中に汚職を働いたとして、6月に禁固14年の実刑判決を受けたリオデジャネイロ州のセルジオ・カブラル元知事も、スイス国内に資産を隠し持っていると報じている。
スイスの連邦検察庁は声明で「現行規定上、スイス連邦検察庁は、司法手続きにおいて事件の関与の有無に関わらず特定の人物や企業と連絡を取り合うことはしない」とした。
世界的な捜査
ブラジルの捜査当局は、米国、フランスと協力し、ヌズマン会長がリオ開催を確約させるため、IOCに数百万ドルの賄賂を支払ったとされる事件の解明に当たる。関係者はいずれも今回の疑惑を否定している。
スイス・ローザンヌに本部があるIOCは、捜査に協力しているが、有罪が確定するまでは推定無罪の原則が貫かれるべきだと強調した。
フランスの捜査当局は、2020年の東京五輪の招致活動についても捜査している。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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グラウビュンデン州、五輪招致否決 理由は民主主義の欠如?
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州政府閣僚全員がそろったパネルディスカッションには、招致に反対する人は参加せず、招致推進キャンペーンには税金がつぎ込まれ、立候補ファイルは投票日間近まで非公開―。2026年冬季オリンピックの開催地に立候補するか否かを巡り、スイス東部のグラウビュンデン州では12日に住民投票が行われたが、結果は否決。招致推進派が繰り広げてきたキャンペーンは健全な民主主義の例とは言えなかったようだ。
12日にスイス各地で行われた投票の中でも、雪深い山間地グラウビュンデン州での住民投票は特に注目を集めた。同州では、26年冬季オリンピック開催地に立候補することへの是非、具体的には、招致プロジェクトの費用2500万フラン(約28億円)の是非が住民に問われた。
この住民投票はいくつかの理由から注目に値した。まず、今回の投票は、グラウビュンデン州の住民が同州での22年冬季オリンピック開催招致を圧倒的過半数で否決した前回の投票から、4年しか経っていなかった。
州政府と州の経済団体は今回改めて、世界第3位の規模を誇るスポーツ大会をグラウビュンデンの山々に招致しよう目論んだ。狙いは13年の前回と同じく、観光業と地元経済の活性化およびインフラの更新だった。
だが、今回は少し違う点があった。招致推進派のキャンペーンは、控えめに言うなら、民主主義の観点からみると多少「独特」な感じがあったのだ。州政府閣僚5人全員が参加したパネルディスカッションには招致に反対する人は誰も参加せず、その代わりにスポーツ選手2人が出席していた。このようなパネルディスカッションは、賛成派、反対派の討論を通して意見形成を行う通常の討論会とは異なる。
経済団体は数々の谷に位置する自治体に向けて、推進キャンペーンに財政面で関わるよう呼びかけもしていた。すべての自治体ではないが、いくつかの自治体はそれに応じた。それはつまり、推進キャンペーンに税金が投入されたということであり、健全な民主主義では「タブー行為」に当たる。公的資金の使用に異議を唱える人もいたが、五輪招致を目論む州政府はその訴えを棄却した。
計画は非公開
健全な民主主義に反した出来事は他にもある。投票日の1カ月前になってようやく、推進派は立候補ファイルを公開したのだ。そのため、招致計画の利点や欠点について、公で熟議が重ねられることはなかった。4年前の投票でもそれは同様であり、結果として反対票が圧倒的過半数を占めた。
また、推進派はチューリヒ市も招致に参加すると主張。いくつかの競技は同市で開催される可能性があるとしてきた。だがチューリヒ市民はこの計画について全く知らされておらず、同市は2026年冬季オリンピックの開催地には立候補しないとの立場を表明している。
こうした点から、グラウビュンデン州が開催地候補となるにはあまりにも問題が多かった。スイスでは五輪を招致する際、候補地の地元住民の過半数が招致に賛成していなければならないからだ。この点はブラジルなどの民主主義が不安定な国や、ロシアなどの権威主義国家とは違う。
専門家からはバランスを求める声
チューリヒ大学で公法学の教授を務め、民主主義研究機関「アーラウ民主主義センター(ZDA)」の所長であるアンドレアス・グラーザー氏は推進派のキャンペーンを批判する。州レベルでの住民投票では州政府の姿勢が特に重要となるからだ。州政府は自らの立場を明らかにし、賛成と反対意見のバランスが取れるよう特別に注意を払わなければならないと、同氏はドイツ語圏のスイス公共ラジオの取材に語っている。
五輪招致を巡るパネルディスカッションには招致反対の人が参加せず、州政府閣僚全員が参加した点について、グラーザー氏は「危険」と判断する。こうした州政府の姿勢に違法性が認められる可能性もあるからだ。例えば五輪招致の推進キャンペーンに税金が投入された点を巡り、訴訟が起きる可能性がある。今回の投票では反対6割以上で五輪招致が否決されたが、もし僅差で可決された場合はその可能性は大きいという。
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リオデジャネイロ五輪がいよいよ5日に開幕する。だが、現地は長引く経済不況や政局不安の真っただ中にあり、国民的な盛り上がりに欠けている。そんなブラジル国民の冷めたムードとは対照的に、リオ在住のスイス人やトレーニングなどで現地入りしているスイス人選手の間では、この地での五輪開催に肯定的な意見が目立つ。
国際オリンピック委員会(IOC)を創設し「近代オリンピックの父」と呼ばれたピエール・ド・クーベルタン氏は、近代五輪に平和と平等の願いを込めた。しかし、開幕式を間近に控えたリオはそんな理想とは程遠い、どんよりとしたムードが漂う。
原因は過去100年で最悪と言われる経済危機で、約2年半前からブラジル経済は急速に悪化。さらに伝染病の問題もある。ジカウイルス感染症(ジカ熱)、デング熱、チクングニア熱といった「三大伝染病」の被害がリオデジャネイロ州に拡大。頼みの綱の保健医療システムもほぼ破たんしている。
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2020年冬季ユースオリンピック開催都市がローザンヌに決定した。その喜びも冷めやらぬうちに、スイスのスポーツ関係者はさらに大規模な2026年冬季オリンピックの招致を目指して動き出した。
ローザンヌは7月31日、マレーシアの首都クアラルンプールで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、20年冬季ユースオリンピックの開催都市に選ばれた。ローザンヌは国際オリンピック委員会の本部所在地で、また多くの国際スポーツ連盟も本部を構えていることから、オリンピックの首都として知られる。
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