経済対策、北海道バレー、性犯罪… スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が11月19日~25日に伝えた日本関連のニュースから、①市場を動揺させる経済対策②花の島からテクノロジーセンターへ③性犯罪に緩い日本社会 声を上げる女性たち、の3件を要約して紹介します。
美しい風土や文化、食べ物、礼儀正しい人々…スイスメディアの日本評はたいてい高いのですが、国家財政と人口動態、男女格差については厳しい目で見られています。
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市場を動揺させる経済対策
高市早苗首相は21日、主に物価高への対応として21.3兆円にのぼる総合経済対策を発表しました。ドイツ語圏の大手紙NZZは、膨大な政府債務を抱えながら巨額を支出する政権に対し、市場が警鐘を鳴らしていると報じました。
記事は、日本国民は国債発行による景気刺激策を歓迎しているものの、「金融市場の動向は全く異なっている」と書いています。日本財政の悪化を警戒して10年債利回りは1.835%と世界金融危機時の水準に達し、円相場も歴史的な円安水準に下落。エコノミストの間でも経済対策への支持は低くなっています。
高市氏が路線継承する安倍晋三元首相は、成長と緩やかなインフレで日本を高債務から脱却させようとしました。しかし「この政策の結果については賛否両論で、デフレは払しょくされたものの、再びそのような実験を行う余地は狭まった」。今は日銀が国債の50%をすでに保有しており、さらに日銀が資産を購入して金利を押し下げる余地はありません。円安もインフレ要因となり、「選挙の面でも危険がある」と警告しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
花の島からテクノロジーセンターへ
花の島がまもなく技術的に花開く――オンラインメディアWatsonドイツ語版は、日本の半導体大手ラピダスが北海道千歳市に建設中の工業団地について、日本の半導体戦略における重要性を読み解きました。
記事は、工場新設の背景として「地政学的安全保障」を挙げます。「中国と台湾間の地政学的緊張を踏まえ、国内の半導体生産は国家安全保障上の優先事項として強く認識されている」。現在台湾が圧倒的シェアを誇るマイクロチップの分野で、ラピダスは「AIチップ」とも呼ばれる2ナノマイクロチップを世界で初めて量産する企業になることを目標としています。
その拠点として「ハイキングやスキーを楽しむ人々にとっての自然の楽園」である北海道が選ばれた理由については、「東京や大阪といった大都市とは異なり、地震のリスクが低い」と説明。そして日本が北海道を「シリコンバレー」ならぬ「北海道バレー」に変えることがえきれば、「日本は世界の半導体市場6000億ドルをめぐる供給競争に新たなプレーヤーとして加わることができるかもしれない」と結びました。(出典:watson外部リンク/ドイツ語)
性犯罪に緩い日本社会 声を上げる女性たち
「世界第4位の経済大国である日本は超近代的であり、新幹線は技術的に最高傑作であると考えられている。しかし、ある面では、日本は世界のどの国よりも遅れている」――ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは社会的男女格差が大きいだけでなく、盗撮や痴漢、性暴力が蔓延する日本社会について、4人の日本人女性にインタビューしました。
1人目はジャーナリストの伊藤詩織さん。自身の性被害を暴露する映画「ブラックボックスダイアリー」について、「私は今でも、この映画を通して、日本の人々に合意の上でのセックスについてもっと話してほしいと願っている」と語りました。学校では妊娠の仕組みを教えはしても、性行為に必要な同意や安全な性行為、避妊などについて話してはいけないことになっていると指摘しています。
フランス在住の前田英里さんは、女性の体型への厳しい目線について語りました。「特に女性にとっては、痩せていることが最も重要」。ダイエットや二重まぶた、学校では規範的な服装を求められ、思春期には「自分の外見に執着するようになった」と言います。しかしアメリカ留学を経て「なぜ私の容姿が私の知性や個性よりも重要なのか」という疑問にぶつかり、やがてグラフィック・デザインの道で自己表現を達成しました。
国内で避妊法や性教育の充実を訴える「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さんは、2024年にジュネーブで開催された国連女性差別撤廃委員会に出席したときの経験を語りました。そこでアフターピルの購入条件が厳しすぎる点が議論になったものの、「政府の反応は、まるで宿題をやってこなかった子どものようで、それをごまかそうとするものだった」と言います。他国の委員にとっては衝撃的だったようで、「高度な国で女性がこんな状況にあるとは信じ難い」 といった声があがったことは、日本では敵意を向けられることの多い福田さんにとって「大きな満足だった」そうです。
女性向けアダルトグッズ店「ラブピースクラブ」の北原みのり代表は、自身が警察に逮捕された経験を明かしました。ヴァギナの刻印を作るワークショップを企画したところ、わいせつ物取締法違反とみなされ、刑務所に3泊したそうです。2019年に深刻な性犯罪で無罪判決が相次いだことを機に、性犯罪の厳罰化を求める「フラワーデモ」を立ち上げると、「長い間、沈黙を強いられてきた女性たちがついに語り始めた。彼女たちはもはや痛みを抑えようとはしなかった」。公に語る力を得た女性たちは「新しい人生を始めるだけの力も得られると信じている」と強調しました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)
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スイスでは11月30日、資産5000万フラン(約95億円)を超える相続に50%の連邦税を新たに課す案が国民投票にかけられます。現在スイスには州・自治体が課す相続税しかなく、平均税率は1.6%。国際的に見ても非常に緩い税制となっています。
一方、3億円を超える相続には50%課税される日本は、非常に厳しい相続税制と言えます。スイス出身のピエール・イヴ・ドンゼ大阪大学教授(経営史)に日本・スイスの相続税制を比較してもらったところ、「日本の相続税は全く機能していない」という厳しい評価が聞かれました。
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次回の「スイスメディアが報じた日本のニュース」は12月3日(水)に掲載予定です。
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校閲:大野瑠衣子
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