20世紀前半、スイス国内で最も裕福な人物として知られた実業家・美術収集家のエミール・ビュールレが、第二次世界大戦中にナチス関連の武器取引などを通じ巨額の財を成したとする調査報告書を、チューリヒ大の歴史家が発表した。
このコンテンツが公開されたのは、
ビュールレ(1890~1956年)はドイツ出身で、その後拠点をスイスに移した。スイスでは最も著名な美術収集家の一人として知られ、生涯で3900万フラン(約44億4600万円)をかけ約600点の作品を収集した。
コレクションの一部は、来年チューリッヒ美術館で行われる作品展で展示される予定。
チューリヒ大の歴史家マシュー・ライムグルーバー氏が17日、調査報告書を発表した。
ビュールレは1924年、チューリヒ・エリコンの機械工場を買収・再建。その後数年で国内最大の軍需企業に成長させた。チューリヒ大によると、同企業は戦間期、ドイツの秘密裏の再軍備計画の一角を担い、20ミリ対空砲の開発・輸出に注力していた。
戦時中、ビュールレは連合国側に大砲を6千万フランで販売。フランスが敗北するとナチス政権に鞍替えし5億4千万フラン相当の武器を売った。ナチス政権の敗色が濃くなると、さらに別の顧客に乗り換えたという。
ライムグルーバー氏は「ナチスドイツとの武器取引が(ビュールレを)スイスで最も裕福な男にし、その資金が彼のアートコレクションの礎を築いた。それは疑いの余地がない」と指摘。ビュールレ自身はナチス党員ではないが、極めて日和見主義的にナチス政権と取引をし、巨額の富を築いた。ビュールレの資産は1938年の800万フランから終戦時の1945年には1億6200万フランに膨らんだ。
ビュールレの商取引が精査されたのはこれが初めてではない。ビュールレは生前、ナチス略奪の芸術品を購入したとして糾弾され、実際に一部の作品をユダヤ人所有者に返還している。
今回の調査はチューリヒ市、チューリヒ州の委託で行われたが、辛らつな政権批判で知られるドイツ語圏の週刊紙WOZは、その独立性に疑問を呈した。チューリヒ市長ら関係者は、一連の調査と報告書は完全なものだとして報道を否定した。
おすすめの記事
スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦運輸省民間航空局(BAZL/OFAC)が3日発表した2023年の航空安全報告書によると、民間・小型航空機の事故件数は9995件と、前年から24%増加した。
もっと読む スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も
おすすめの記事
「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦裁判所(最高裁)は先月26日、チューリヒ地方裁判所の判事の1人に対し、気候活動家に関する裁判への関与を禁じる判決を下した。この判事が過去の裁判で活動家への団結心を見せたとして、考え方に偏りがあると結論付けた。
もっと読む 「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
おすすめの記事
スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦統計局は25日、2023年の名目賃金は1.7%上昇したと発表した。インフレ(年平均2.1%)に相殺され、実質賃金は0.4%低下した。
もっと読む スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
おすすめの記事
製薬大手ノバルティス、次期会長候補に米製薬BMS出身者選出
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの大手製薬ノバルティスは22日、2025年で任期満了となるヨルク・ラインハルト取締役会長の後任に、ジョバンニ・カフォリオ氏を選出すると発表した。
もっと読む 製薬大手ノバルティス、次期会長候補に米製薬BMS出身者選出
おすすめの記事
スイスで見つかったラムセス2世像破片、エジプトに到着
このコンテンツが公開されたのは、
エジプト考古省は21日、約30年前に盗まれ国外に流出したラムセス2世像の頭部破片が同国に到着したと発表した。
もっと読む スイスで見つかったラムセス2世像破片、エジプトに到着
おすすめの記事
スイス議会、G7のロシア資産追及チームへの参加を否決
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国民議会(下院)は17日、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の資産を追及する主要7カ国(G7)の国際作業部会には参加しないことを決めた。
もっと読む スイス議会、G7のロシア資産追及チームへの参加を否決
おすすめの記事
米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触
このコンテンツが公開されたのは、
米政府高官は14日、イランによるイスラエル攻撃の前後に、米国は利益代表国であるスイスを通じてイランと接触していたと述べた。
もっと読む 米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触
おすすめの記事
チューリヒ春祭りの雪男、強風で燃えず 歴史上初
このコンテンツが公開されたのは、
チューリヒの春祭り「セクセロイテン」が15日開かれた。巨大な「雪男」を燃やして夏の天気を占う恒例行事は強風により中止となった。
もっと読む チューリヒ春祭りの雪男、強風で燃えず 歴史上初
おすすめの記事
スイス政府、銀行規制の改革案を発表 UBSの資本要件強化へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス政府は10日、「大きすぎて潰せない(TBTF)」銀行に関する規制改革案を発表した。UBSと他の「システム上重要な銀行」3行は、破綻時のスイス経済への影響を抑えるためにより厳しい資本要件を課される必要があると述べた。
もっと読む スイス政府、銀行規制の改革案を発表 UBSの資本要件強化へ
おすすめの記事
新種のイカの化石、名前は発音が難しいスイスドイツ語に
このコンテンツが公開されたのは、
スイス南部ティチーノ州の約2億4200万年前の地層から新種のイカの化石が見つかり、「Chuchichäschtli(クッヒカーシュトリ、スイスドイツ語で『食器棚』)」と名付けられた。
もっと読む 新種のイカの化石、名前は発音が難しいスイスドイツ語に
続きを読む
おすすめの記事
時代と共に歩んだスイス生まれのファッションブランド、バリー
このコンテンツが公開されたのは、
200年前、スイス北部の家族経営の靴屋バリーに訪れた変化は、スイス社会が経験した時代の変化そのもの。同社のバリヤーナ財団に残る写真は、バリーとスイスの歩んだ道のりを物語る。
もっと読む 時代と共に歩んだスイス生まれのファッションブランド、バリー
おすすめの記事
スイス・バーゼル美術館、オンライン展示で外出自粛を支援
このコンテンツが公開されたのは、
ネットフリックスなどオンデマンド動画配信サービスは、コロナ危機の前から多くの人の生活を変えていた。新規参入社はあしざまに言われることが多かったが、今は選択肢が増えるほど良いと歓迎されるようになった。遠くの映画館まで足を運…
もっと読む スイス・バーゼル美術館、オンライン展示で外出自粛を支援
おすすめの記事
スイス有数の美術館、ナチスの略奪美術品を所蔵か
このコンテンツが公開されたのは、
出版された本のタイトルからは、「地獄の臭い」がする。歴史学者でジャーナリストのトーマス・ブオムベルガーさんと、美術史学者ギド・マニャグアーニョさん共著の「Schwarzbuch Buehrle(ビュールレ黒書)」が出版…
もっと読む スイス有数の美術館、ナチスの略奪美術品を所蔵か
おすすめの記事
セザンヌやモネなど、スイスの武器商人のコレクション展示
このコンテンツが公開されたのは、
印象派と後期印象派の絵画に魅せられ、これらを集中的に収集したスイスの武器商人、エミール・ビュールレ(1890〜1956)。彼のコレクションの中からセザンヌやモネなどが選ばれ現在、ローザンヌのエルミタージュ美術館で展覧会が開催されている。だが、ビュールレが集めた絵画には第2次世界大戦の影が絶えず付きまとう。
ゴッホ、セザンヌ、モネ、ピカソなどの代表作がずらりと並ぶエルミタージュ美術館の展覧会。それらは、ヨーロッパ絵画において最も重要なものの一つとされている「ビュールレ・コレクション」から選ばれた54点の絵画作品だ。
もっと読む セザンヌやモネなど、スイスの武器商人のコレクション展示
おすすめの記事
名画の保険料 美術館の重い負担に
このコンテンツが公開されたのは、
ゴッホの展覧会に入場料20フラン(約2400円)を払うのは高すぎるかもしれない。しかし、そのゴッホの作品に美術館が何千万フランという保険料を用意しなければならないことを考えたら…?高額な保険料に悩む美術館が多いスイスでは、美術品に対する国の補償制度の導入を求める声が高まっている。
スイスの美術館が展覧会を開くために美術品を借り受ける場合、美術館は各々で損害保険を手配する。展覧会用に名高い傑作を借り受け、それと同時に高額の損害保険料を支払うことは、美術館にとって簡単なことではない。
一方、美術品への損害を国が補償する「国家(政府)補償制度」が創設されている国々では、優れた文化芸術を鑑賞できる機会が多いという。美術館側が保険業者に対して高額の保険料を支払うことがないためだ。
もっと読む 名画の保険料 美術館の重い負担に
おすすめの記事
ピラトゥス社、成功の鍵
このコンテンツが公開されたのは、
ニトヴァルデン州シュタンス(Stans)に本社を置くピラトゥスは、昨年、飛躍的に業績を伸ばした。売上高は前年比14%増の7億8100万フラン(約646億4500万円)と、記録的な数字だ。 そして、その将来は更に華々し…
もっと読む ピラトゥス社、成功の鍵
おすすめの記事
美術品は「要塞」に陳列するものではない
このコンテンツが公開されたのは、
ミナ氏は、2008年2月に起きた「ヨーロッパ史上最大の美術品盗難事件」を契機に生じたスイス美術界の変化と、美術館の職員が直面している厳しい選択について語った。 4月12日、セルビアとスイスの警察は、2008年に強奪され…
もっと読む 美術品は「要塞」に陳列するものではない
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。