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なぜ改革は進まないのか   スイス連邦経済次官に聞く

「改革なくして経済再生はない」と訴えるスイス連邦経済省ゲルバー事務次官 Keystone

輸出主導で景気回復に明るさが出てきたものの、スイス連邦経済省の幹部は浮かない顔だ。

国内経済の構造改革や規制緩和が思うように進まず頭を痛める。同省のジャン・ダニエル・ゲルバー事務次官は、「改革を経済活性化の好機に」と訴える。

——なぜ改革が必要ですか。

 少子高齢化で働き手が減り、国内経済は長期にわたって停滞したまま。医療保険や年金など、国民に対する社会保障制度の負担は増え続ける一方だからだ。

 国民が所得のかなりの部分を社会保障に充てているという現実を見れば、経済の構造改革や規制緩和はやらざるを得ない。

——改革を阻んでいるものは何ですか。

 既得権益で守られている企業や個人だ。

 抜本的改革を訴えるそばから、こうした既得権益者が抵抗勢力となって強く反発する。談合や利権に頼る官民の体質は変わらずで、既得権益の壁を突き崩すのは非常に難しい。

 痛みの伴わない改革はない。短期間で見れば、大きな構造変化の過程で一部の人たちは損失を被るだろう。だが、改革を断行すれば、損失を被る人たちよりはるかに多くの人たちが恩恵を得るということを見落とすべきではない。

 今、改革しなければ、中長期的にもっと多くの人が苦労することになる。財政状況は厳しいのに、景気が悪化するような局面にでもなれば、救済できるだけの予算をつけられる余裕はほとんどない。

——欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)で外国人労働者を受け入れたことにより、雇用の場が狭まると懸念する声がありますが。

 短期間で見れば、その通りだろう。だが、中長期的に見れば話は違う。スイスの企業が国際的に競争力を持つために、外国人労働者は必要だ。

 新規EU加盟国の労働者の質は高い。こうした労働者がスイスに来られないのであれば、ドイツやイタリア、フランス、オーストリアへと流れるだけだ。そうした中でスイスの企業が国際競争しなければならないという環境は、国の経済にマイナスだ。

 また、新規EU加盟国に労働市場の門戸を閉ざせば、スイス製品もこれらの市場を失うことになる。こうした動きを避けるために、スイスの企業は国外へと本拠地を移し、スイスでのモノ作りを止めてしまうだろう。中長期的に見れば、スイスの失業率はさらに悪化するだけだ。 

 改革を経済活性化の好機ととらえてほしい。


 swissinfo  ロバート・ブルックス   安達聡子(あだちさとこ)意訳

スイスの成長率:


連邦経済省によると、2004年の実質成長率は1.8%を達成する見込み。

だが、2%とする2005年の成長率予測は欧州域内の景気減速を背景に下方修正される可能性が高い。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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