米関税の15%への引き下げ、歓迎すべきだが「高い代償」 スイスメディア
米国がスイス製品に課した39%の高関税が15%に引き下げられたことについて、スイスメディアは一斉に安堵のため息をついた。だが巨額の対米投資を約束せざるを得なかったことは「高い代償」であり、油断はできないとの指摘が多い。
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「ありがとう、トランプ大統領」。フランス語圏の地域紙24heuresとトリビューン・ド・ジュネーブは、14日の合意発表後にスイス政府がX(旧ツイッター)に投稿したメッセージを真似てこう伝えた。「ヨーロッパの隣国と同様に、スイスもついに、大幅な経済譲歩を犠牲にして『たった』15%の税率で済むことを喜ぶことができる」
だがこの「ありがとう」という言葉は、世界中が既に知っている事実を裏付けるだけだ、と両紙は続ける。「スイスは理解するのが遅かった。ルールを決めるのはドナルド・トランプだということを」。さらにスイス連邦内閣(政府)に「長きにわたる外交的失態」があり、「アメリカ大統領の予測不可能で強硬な政策を理解するのに時間がかかった」と指摘した。
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割に合わない勝利
フランス語圏の日刊紙ル・タンも同様に、「喜ぶ理由を見出さなければならない。なぜなら2025年末は『どこから来ても悪いニュース』だからだ」と書いた。今回の合意によりスイス企業が近隣のEU諸国と対等に競争できるようになったことを歓迎した。
またスイスがビジネスリーダーたちの「迅速かつ効果的な動員」に救われたことも強調した。だが合意は完璧とは程遠く、米国がスイスに39%の関税を課した「8月の屈辱」を消し去るものではないと付け加えた。
雪辱できたとしても、それは「ピュロスの勝利」(割に合わない勝利)だ、とフリブール州の地域紙ラ・リベルテは指摘する。「スイス政府は最初から、ホワイトハウスの住人に屈辱を与えられてきた。自らの力に自信を持つトランプ氏は、連邦内閣を揺さぶった。連邦内閣は苦痛と嘲笑に耐えながら、交渉のテーブルに戻るしかなかった」
その結果、スイスは「よそもの裁判官」トランプに屈服せざるを得なくなった、と同紙は続けた。トランプ氏はスイスに2028年までに2000億ドル(約31兆円)を米国に投資することを約束させた。また同紙は「大西洋をわたる雇用の移転」や、スイスでは生産が禁止されているホルモン処理牛肉や塩素処理鶏肉など「物議を醸す農産物の輸入」も強いられることに警鐘を鳴らした。
ジュラ・ヌーシャテル地方のメディアArcInfoは独自の計算で、関税は15%ではなく27%だと指摘した。ギー・パルムラン経済相が官民連携で合意にこぎつけたチームワークを「チーム・スイス」と呼んだ同紙は、14日の合意によってスイスの対米輸出業者にとって「新たな障害」が生じたと指摘した。フラン高だ。
足元の対ドル相場は1ドル=0.80フラン。1ドル=0.90フランだった3月時点に比べ「スイス製品は米国で12%も高価になった」とした。
多くのドイツ語圏スイス紙は、米国の関税引き下げを歓迎した。複合メディア企業Tamedia系各紙は、合意によりスイスは「最悪の事態を回避」できたと報じている。だがこれはまだ第一歩に過ぎず、合意はまだスイスの行政当局の承認を必要としていることを注記した。「何か問題が起きる可能性、あるいは状況が再び悪化する可能性も否定できない」
米国最高裁判所
Tamediaはまた、トランプ氏の関税戦略の合法性に関する審理が米国最高裁判所で係争中であることに言及した。最高裁が関税反対派に有利な判決を下した場合、「トランプ大統領が別の法律に基づいて新たな関税を課す可能性を含め、全てをやり直さなければならない」と伝えた。
ドイツ語圏の高級紙NZZは、関税は15%に引き下げられたとはいえ、4月の「解放の日」以前の平均3%を大きく上回っていることを指摘した。また、トランプ氏の今後の動向についてはなお不確実性が残ると書いた。「ワシントンの政治は、トランプ氏が政権を握るか否かに関わらず、スイスにとって依然として大きなリスクであり続ける」
別の複合メディアグループCHmediaは、今夏までは積極的に交渉や広報に関わっていたスイスのカリン・ケラー・ズッター財務相兼大統領が、14日にベルンで行われた記者会見に姿を現さなかったことに着目した。「トランプ氏との悲惨な電話会談の後、米国はケラー・ズッター氏に会いたくなくなったのだろうか?」と同紙は疑問を呈した。
一方、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は、今回の「後退の責任」はスイス連邦内閣ではなくドナルド・トランプ氏にあると指摘した。SRFによると、ギー・パルムラン氏と米国通商代表部(USTR)のジェイミーソン・グリア代表は良好な協力関係にあったようだ。SRFは「近年スイスのドイツ語圏では過小評価され、時には嘲笑の対象にもなっていたパルムラン氏が、突如として連邦内閣のキーマンとなり、輸出産業を救い、その結果、数千もの雇用を創出した人物となった」と持ち上げた。
だが大衆紙ブリックは、スイス閣僚が失敗した交渉で成功を呼び寄せたのは、民間の実業家たちだと書いた。ロレックスやリシュモンなどスイスを代表する大企業6社の幹部が、大統領執務室で大統領と会談したことだ。同紙は「閣僚との付き合いが苦手なトランプ氏は、スイスのビジネスクラブを受け入れ、彼らの話に耳を傾け、贈り物を喜んで受け取り、善意を示した」と伝えた。
英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子
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