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カカオ豆高騰の甘い誘惑 ガーナの密輸にスイスも危機感

袋に入ったカカオ豆
EPA/CRISTOBAL HERRERA-ULASHKEVICH

スイス製チョコレートが値上がりする裏側で、ガーナ産カカオ豆が密輸の標的にされている。ガーナ政府は取り締まりを強化するため、ある秘策を打ち出した。

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9月中旬、ガーナの首都アクラから出発したミニバスが、北東のサガコペ町でソガコペ地区警察と国家ココア密輸対策部隊に捕まった。運転手がココア豆を密輸しており、トーゴ国境に近いアフラオ町に向かっているという情報に基づき、車両は停止させられた。  

バスの屋根裏の隠れた部分から、カカオ豆の入った袋16個が発見された。  

この運転手は9月2日にも、同じ車両で同量のココアを積んで同じルートを走行していたところを検挙されている。9月だけで計350袋以上のココアが押収されており、うち238袋はトラック2台に積み込まれ、海路でトーゴへ向かおうとしていた。  

山積みの麻袋
ガーナ・アダ地区では9月、トラック2台が密輸の疑いで捕まった COCOBOD

ガーナメディア外部リンクが引用したガーナのカカオ評議会(COCOBOD、政府の流通管理機関)のデータによると、2021年以降にガーナから密輸されたカカオ豆は47万3253トンにのぼる。約12億8000万ドル(約1970億円)の収益を失ったことになる。

スイス・サステナブル・カカオ・プラットフォーム(SWISSCO)でガーナを担当するジョセフ・バンダナ氏は、「ガーナと近隣諸国の価格差、支払いの遅延、不安定な通貨が密輸の原因となっている」と、スイスインフォに語った。

例えば、2024年10月時点のカカオ1トンあたりの価格は、コートジボワールでは3060ドル、ガーナでは3039ドルだった。わずかな差に見えるが、資金繰り問題を抱えるCOCOBODにとっては命取りだ。農家への支払いが遅れ、密売への誘因をもたらしている。

密輸問題はスイスにとっても無縁ではない。スイスのチョコレート業界にとって、ガーナは主要なカカオ豆の供給源であるためだ。SWISSCOの加盟企業は、2030年までに持続可能性カカオ豆の調達率を100%に高める目標を掲げる(2024年時点で84%)。そのためには、調達されたカカオを個々の農園まで遡って追跡する必要があるが、密輸によってその作業はさらに困難になった。  

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バンダナ氏は、「スイスは、ガーナのトレーサビリティ、国境監視、輸出管理システムを強化するための技術支援、能力開発、デジタルツールを提供できる」と話す。「こうした協力は、カカオ豆が生産されてから消費者に届くまでの流通過程全体の透明性と説明責任を強化し、ガーナのカカオ産業の持続可能性、回復力、そして法令遵守の向上に貢献する」  

情報提供者への報奨金

ガーナは世界第2位のカカオ生産国であり、密輸カカオの取り締まりを強化する方針だ。COCOBODは10月8日、情報提供者への報奨金制度を打ち出した。

プレスリリースによると、「情報提供者と密輸捜査員は、押収されたカカオ豆の評価額の3分の1を報酬として受け取る」と定められている。  

密輸の違法性を強調するポスター
密輸情報の提供者への報奨金制度をアピールするポスター COCOBOD

例えば冒頭のミニバスの事件であれば、情報提供者は1万9333セディ(約27万3000円)の報酬が与えられる。これはカカオ農家の平均年収(2万4814セディ)をわずかに下回る額だ。

ガーナ産カカオの密輸は新たな問題ではない。だが国際市場価格の高騰により、密輸のうまみは増している。

隣国トーゴでは、推奨買い取り価格はカカオの国際価格に基づいており、変動性を反映して月に2回調整される。そのため、国際価格が2024年に約1万ドル/トン、2025年に約1万1000ドルと記録的な高値を更新しても、農家は直ちに値上がりの恩恵を享受できた。

一方ガーナでは、COCOBODが価格を設定するのは年1回、カカオの収穫開始時に限られる。価格に安定性をもたらすものの、国際相場が急騰すると農家の取り分が大幅に減少する可能性がある。密輸業者がガーナ産カカオ豆を標的にする大きな誘因になる。

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SWISSCOのバンダナ氏は「トーゴもカカオを他の地域へ密輸するための経由地となる可能性があり、必ずしも最終目的地とは限らない。カカオ栽培が盛んなボルタ地方が国境にあるため、密輸は非​​常に容易だ」と説明する。

異例の値上げ

COCOBODは8月、今年度のカカオ豆買取価格を1トンあたり5万1660セディ(約4740ドル)にすると発表した。同時点の世界市場の平均価格は7592ドル。30万人の農家をかかえるガーナ・カカオ生産者・販売協会は猛抗議し、COCOBOD代表による農家への訪問を禁止すると警告した。適切な報酬が支払われなければ、隣国コートジボワールやトーゴにカカオを密輸するとの脅迫まで飛び出した。

国外からも農家への追い風が吹いた。コートジボワールのアラサン・ワタラ大統領は10月1日、同25日に予定されていた大統領選挙を目前に控え、1キロあたり2800CFAフラン(約5000ドル/トン)という記録的な農場価格を発表した。これによりガーナ農家の不満はさらに高まり、ガーナのカシエル・アト・フォルソン財務大臣はその翌日、買い取り価格の引き上げという異例の措置を迫られた。買取価格は1トンあたり5万8000セディと、8月設定価格から12.2%の値上げとなった。   

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ガーナもトーゴも密輸による大幅な収入減を認識している。価格調整を強化するため、2023年に「コートジボワール・ガーナ・ココア・イニシアチブ(CIGCI)」と称する一種のココアカルテルを設立した。卸価格が上昇しているにもかかわらず、SWISSCOとCOCOBODによる2024年のココア世帯収入調査(対象は2022~23年度の収穫)によると、ガーナの調査対象600世帯のカカオ豆農家のうち、91%が「人間らしい生活を送るために必要な収入(リビングインカム)」である5万2970セディを下回っていた。 

バンダナ氏は「リビングインカムは価格だけの問題ではない。生産性を高め、肥料などの投入財のコストを削減し、農家が家計に十分な資金を確保できるようにすることが目標だ」と話す。  

COCOBODは今年、カカオ農家への無償肥料の提供を再開した。無償肥料が国外に密輸・転売されていたため、2020年にいったん停止されていた。農家への支援策としては、他に無料の殺虫剤、開花促進剤、散布機の提供などがある。  

編集:Virginie Mangin/sb、英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子 

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