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スイス映画の多様性と自由さが注目の的に

Reuters/Eric Gaillard

第65回カンヌ映画祭が今日5月16日から開催される。映画ファンは、多部門の中でも特に「監督週間部門」にどんな作品がノミネートされたのか興味津々だ。今年は同部門に2本のスイス映画が選ばれた。ところが、この2本の作風は全く違う。そこに専門家は「スイス映画の自由さ」を見るという。

このコンテンツは 2012/05/16 11:00
ガニア・アダモ, swissinfo.ch

若い才能ある監督を発見し、またよく知られた監督の作品に敬意を表することで知られる監督週間部門。スイスからノミネートされた映画の製作者は、ニコラ・ヴァディモフ(48)監督とバジル・ダ・クンハ(26)監督だ。

ダ・クンハ監督は、実は2010年にも短編映画「ヌヴェム・魚と月(Nuvem –Le Poisson Lune)」が監督週間部門に選ばれて、今年2回目のノミネートを果たしたことになる。一方ヴァディモフ監督は、パレスチニアのガザ地区を舞台にした作品を発表するなど、政治色の濃い映画を作っている。今年も政治思想が全面に出た長編映画「自由のオペレーション(Opération Libertad)」がカンヌで上映される。

最も個性が強い映画の一つ

ダ・クンハ監督の作品が過去1回と今年。ヴァディモフ監督の作品が今年と、スイス映画は監督週間部門で3回の上映を勝ち取ったことになる。「だが、それは驚くべきことではない。スイス映画はヨーロッパの中で、最も個性が強い映画の一つだからだ」と監督週間部門の選考委員エデゥアール・ヴァイントロップ氏はスイス映画の健全さを高く評価する。

映画評論家であり、スイスのフリブール国際映画祭(FIFF)の副ディレクターを務め、現在ジュネーブのシネマテークを指揮するヴァイントロップ氏はスイス映画を熟知している。「アラン・ターナーはアラン・ターナーだ。クロード・ゴレッタはクロード・ゴレッタ。2人をある一つの傾向の中に嵌(は)め込むことはできない。2人の作品は、あらゆる傾向からはみ出た自由なトーンに支配されているからだ」

そして、ヴァイントロップ氏はこう言う。「ヴァディモフ監督は、ターナーを思い起こさせる。その少し傲慢なところがよく似ている。だからといって彼の才能を監督週間部門が無視することはあり得ない。監督週間部門の選考委員たちは、スイスのフランス語圏の映画に特に惹かれているからだ」

ヴァディモフ監督は、そのほとんどの作品に政治色を盛り込む。今回の「自由のオペレーション」もスイスのアナーキストたちとのインタビューと入念な取材が実を結んだ作品だ。

舞台はチューリヒ。1978年、極左翼の活動家たちは、スイスの大手銀行を狙った。目的は、南米の独裁者の中でも特に暴力的だと言われた人物の隠し資産の中から、数百万ドルを奪い去ることだった。

ヴァディモフ監督は、この銀行強盗事件の全貌を丁寧に再現している。

徹底した風刺

「語りたいのは、当時の金融システムではない。アナーキストたちの直接的な行動と政治参加だ。1970年代のスイスには、『ドイツ赤軍(RAF)』やイタリア『赤い旅団(Le Brigate Rosse )』と接触していたアナーキストたちがいた。作品では、こうした活動家を表現した。活動の動機は何か、その衝動性は何かと問いかけた。銀行は単なるバックグラウンドに過ぎない。そして革命家になるとは本当に価値のあることなのかとも彼らに聞いてみた。答えはもちろんイエスだ。そうした場合結局、僕が提示しようとしたのは、こうした問いを通して議論を巻き起こすことだ」とヴァディモフ監督は説明する。

一方、この作品に惹かれたヴァイントロップ氏は、次のように述べる。「ヴァディモフ監督は徹底した風刺を行っている。この銀行強盗の話で、もしスイスが危機管理において優れていたのだとしたら、それは沈黙を通したことだ。銀行にとって、アナーキストたちにやられた事実を表沙汰にして得することはない。だから沈黙した。その結果、アナーキストたちは、彼らよりずっと洗練された(銀行側の)システムに茫然とし、それに打ちのめされることになってしまったのだ」

スイス映画とは

さて、ヴァディモフ監督とは180度違うダ・クンハ監督。そのスタイルは幻想性に富む。昨年発表された「ヌヴェム・魚と月」と同様、今年カンヌで上映される短編映画「生きている人も泣く」もたくさんの夢に満ちている。

物語は、ポルトガルのリスボン港で沖仲仕をしている「ゼ」の話だ。ゼは、いつかこの労働から解放され、スウェーデンに行きたいと考えている。そのためにわずかながら貯金もしている。

ダ・クンハ監督は繊細な手法を使って、現実と非現実を紡ぎ上げていく。「ダ・クンハ監督は、夢の中に逃避しているように見える。しかし同時に具体性の中にとどまることも知っている。それはこの監督だけが持つ個性であり、不思議な力なのだ」とヴァイントロップ氏。そして現在最も才能のある若手の一人だと評価する。

さらにジュネーブで育ったポルトガル人のこの監督をヴァイントロップ氏は「たとえジュネーブで教育を受けていても、彼のインスピレーションの源はポルトガルにある。広大な広がりをもつものだ」と言う。

そしてこう結論する。「カンヌ映画祭の監督週間部門でダ・クンハ監督が(あまりにも違う)ヴァディモフ監督の横に並ぶことは、スイス映画の多様性を象徴するようなものだ。スタイルはさまざまでありながら、作品一つ一つの中に一貫性がある。それがスイス映画なのだ」

ニコラ・ヴァディモフ(Nicolas Wadimoff)監督

1964年ジュネーブに生まれる。

1992~1996年、フランス語圏のスイステレビ(TSR)のニュース特集のディレクターとして働く。

リビア、アルジェリア、パレスチナ、イスラエル、ルワンダなどでドキュメンタリーを制作。

1997~2002年、プロダクション「カラバン(Caravane)」を仲間と共同運営。

2002年、プロダクション「アッカ・フィルムズ(Akka films)」を立ち上げる。長編映画、ドキュメンタリーを制作。

代表作に、国際的な賞を多く獲得した「闇労働者」やガザを舞台にした「ガザでまだ生きる」などがある。

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バジル・ダ・クンハ(Basil da Cunha)監督

1985年生まれ。

現在、ジュネーブ芸術・デザイン高等学校(HEAD)の映画学科で学んでいる。

「テラ・プロダクション協会(Association Thera Production)」のメンバーになり前に、自分についての短編映画を幾つか制作。

代表作に、2本の短編映画「タリオンの法則(La loi du Talion)」と「ヌヴェム・魚と月(Nuvem –Le Poisson Lune)」がある。

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