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スイスの市民農園で繰り広げられる愛と苦悩の難民問題

グルテン屋外劇場で公演中の舞台「Paradies(楽園)」 z-arts.ch


このコンテンツは 2014/07/18 11:00
swissinfo.ch

今、ベルン州のグルテン山の上には「楽園」が広がっている。実はこれ、この夏グルテン山の野外劇場で上演される作品のタイトル。原作は数々の映画賞を受賞したドキュメンタリー映画「Unser Garten Eden(我らがエデンの園)」。1993年にシリアを逃れ、95年からスイスに亡命しているクルド人映画監督、マノ・カリルさんの作品だ。今回、リヴィア・アンネ・リヒャルドさんがこの映画を元に野外劇場の芝居を創作し、脚本・監督を務めた。

爽やかな風がグルテン山の「楽園」を吹き抜ける。その風に吹かれてスイス、イタリア、トルコ、クルディスタン、セルビア、ボスニアなど様々な国旗がなびいている。このカラフルな布は各人の「領土」の目印だ。旗は市民農園(野菜などを栽培する小面積に区分された農地)の持ち主の故郷を表し、この小さな緑の世界で平和と秩序を守って共に生きていくことを象徴している。

物語の舞台となる市民農園は、舞台面積が広く取れるように4段で構成されている。とても手間のかかった舞台装置だ。2002年の創立以来、グルテン山の野外劇場他のサイトへは創立者であるリヒャルドさんがずっと手掛けてきた。

ストーリーはこうだ。主人公のジャマールとエヴェリンはこの「楽園」の住民。スーダン出身のジャマールはスイスで難民申請したが受理されず、国外追放を逃れるためにこの市民農園の小屋に隠れ住んでいる。

大学生のエヴェリンは「寛容」をモットーにする左派の地方政治家の娘。このちぐはぐな2人が市民農園で初めてのキスを交わす。しかし自分が置かれた苦境を思うと、ジャマールの恋のトキメキはかき消されてしまうのであった。

監督でありグルテン野外劇場の設立者でもあるリヴィア・アンネ・リヒャルドさん Andrea Pelgrim

「はい、ストップ。ちょっとそれではヘンゼルとグレーテルみたい」と監督・脚本を務めるリヒャルドさんが中断し、主役のタリク・アブダラさん(本当にスーダン出身)に手短に的確な指示を与える。これを何度か繰り返した後、やっとアブダラさん扮するジャマールの演技が監督のイメージと一致する。「休憩!」と言うなりリヒャルドさんは早速タバコに火を着けた。

世界の縮図

「市民農園では、人は誰も皆平等。金持ちも貧乏もなく、農地の広さや小屋の形も全て同じ」とリヒャルドさんは話す。「市民農園は世界の縮図のようなもので、この世界で起こっている紛争のメタファーだ。大小は異なっても、争いの本質はどこも同じだ」

今回の作品の中では、共同のバーベキュー場で小競り合いの火花が散る。「セルビア人は豚の丸焼きができないので『馬鹿グリル』とののしる。どうやって豚肉に触れないように羊肉を焼くか頭を悩ませるトルコ人の横で、スイス人はソーセージを焼くスペースがなくならないかとハラハラしている」とリヒャルドさんは説明する。

カリル監督他のサイトへのドキュメンタリー映画に心を打たれたリヒャルドさんは、この題材で芝居を作ろうと思い立った。翌日、早速電話を入れたところ、カリル監督は快く承諾してくれたという。

映画と芝居の主な違いを、リヒャルドさんはこう説明する。「ドキュメンタリー映画は、それぞれの人物にスポットを当てられるが、野外劇場では観客が常に全体像を見ているので勝手が違う」

そのため完全に原作から離れる必要があった。「野外劇場では民衆を表すシーンが欠かせない上、話の筋道がしっかりしている必要がある」。そこで、新たにジャマールとエヴェリンという人物を創作し、2人の複雑な恋愛物語が「楽園」である市民農園の平和な生活を大きく乱し、政治家であるエヴェリンの母親の信条を引っ掻き回す、という設定にした。

真実性

クルド人監督のマノ・カリルさん pardo.ch

カリル監督のドキュメンタリー映画と自身の芝居に共通して言えることは、「究極の真実性を永遠に追求していること」だとリヒャルドさんは話す。「良いドキュメンタリー映画の中で、登場人物が撮影されていることを忘れている自然なシーンはとても感動的だ。これは映画監督が登場人物との間に築き上げた信頼関係の賜物だ」

カリル監督の原作を見て、グルテンの野外劇場でその真実性を更に追求したくなったという。「観客が芝居を見ていることを忘れ、役者も観客に見られていることを忘れられたら大成功。役者が何かを表現して観客に伝えるのではなく、メッセージは新しく生まれた超次元から観客に伝わる」

1993年にシリアを逃れ、95年からスイスで活動をしながら亡命生活しているマノ・カリルさんにとって、自分のドキュメンタリー映画が芝居になるのは大きな成果だと言う。

「私の芸術、つまり私の作る映画は、人が人のために作るものだ。私の映画をベースにリヒャルドさんは独自のストーリーを創作したが、こうして市民農園に生きる人々の物語が続いていくのは嬉しい限り。植物が枯れないように水を与えて命を繋ぐようなものだ」

そう話すカリルさんは、「自分の作品を自分でコントロールしなくては気が済まない」芸術家たちには苦労しているという。

しかし彼の映画とリヒャルドさんの芝居の決定的な違いは「真実性」だと言う。「私も市民農園の一区画を持っているが、映画の中の登場人物とは実際に行動を共にし、彼らの世界をこの目で確かめた。映画の中の姿は決して演技ではなく、市民農園での実際の日常生活を表している。息子を亡くしたとカメラの前で涙を流す人がいれば、私も一緒になって泣いた」

シリア出身のクルド人であるカリルさんが市民農園を「平等かつ規則にしばられた世界の縮図」としてスイス人に見せることは、特に驚くことではないと言う。「スイス人にとって平和な日常生活は当たり前のこと。だが私は、自分たちの文化が禁止され、クルド語を話すと刑務所に入れられてしまうシリアからやってきた。そんな私にとってこのように(様々な文化を持つ)人々が共存することはとても特別なことなのだ」

Paradies楽園

この野外劇場の作品は6月27日~8月21日まで(31回公演)ベルン州のグルテン山で上演される。

この作品は、ベルン映画賞を受賞したマノ・カリルさんのドキュメンタリー映画「Unser Garten Eden – Geschichten aus dem Schrebergarten(我らがエデンの園 市民農園の物語)」を元に、ベルンの劇作家で舞台監督を務めたリヴィア・アンネ・リヒャルドさんが新たに創作したもの。

「楽園」の住民としてスイス、スーダン、イタリア、フランス、イギリス、ドイツ、オーストリア、トルコ、セルビア、クルディスタン、日本の10カ国の人々が登場する。

総勢30人もの役者が登場するこの舞台の予算は約100万フラン(約1億1400万円)。

グルテン野外劇場

2002年にベルン出身の舞台監督で劇作家のリヴィア・アンネ・リヒャルドさんがベルン州グルテン山で野外劇場を創立。リヒャルドさんは10年に出来た同州マッテ劇場の生みの親かつ芸術指導担当でもある。

「楽園」はグルテン劇場の12回目の上演作品。これまでに合計10万人以上の観客が訪れた。

最も成功を収めた作品は06年の「Dällebach Kari(デレバッハ・カリ他のサイトへ)」。この作品はベルンに実在した伝説の美容師カール・テレンバッハ(デレバッハ・カリは彼の通称)を題材にしたもの。

10年には同名のミュージカルがトゥーン湖野外劇場で大ヒットした。11年にはリヒャルドさんの芝居を元にアカデミー賞受賞監督クサヴァー・コラーさんが「Eine wen iig, dr Dällebach Kari(私みたいな人、デレバッハ・カリ)」という映画を撮影した。

マノ・カリル(Mano Khalil

1993年にシリアを逃れ、95年からスイスで映画監督、プロデューサー、カメラマンとして活動中。

特にドキュメンタリー映画で脚光を浴びるようになる。

13年にはドキュメンタリー映画「Der Imker(養蜂家)」で数々の賞を受賞。その中にはソロトゥルン映画賞(Prix de Soleure)も含まれる。この作品は14年にスイス映画賞(最優秀ドキュメンタリー映画部門)にノミネートされた。

「Unser Garten Eden(私たちのエデンの園)」は、10年度ベルン映画賞を受賞し、11年度スイス映画賞にもノミネートされた。

新作のロードムービー「Die Schwalbe(ツバメ)」では、スイスとイラク領クルディスタンを結ぶストーリーが展開する。

スイス国営放送と共同制作のこの映画は15年上旬に封切りされる。

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