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超富裕層への相続税案を否決したスイス、「租税回避地」の看板に影響は?

スイス・アルプスのプライベート・ジェット機の前の人々
スイスの超富裕層は、もはや当分の間、荷物をまとめる理由はなくなった? Keystone / Gian Ehrenzeller

相続税の緩いスイスは、富裕層にとって魅力的な租税回避地――こうした評判は、50%の相続税を導入する案が国民投票にかけられたことで揺らいでいくのか?それとも圧倒的な反対多数で否決されたことはプラスに働くのか?

ラテン語に「Semper aliquid haeret(何かがいつもこびりついている)」という言い回しがある。「一度ついた汚点は完全には消えない」という意味だ。

これは、スイスで11月30日に国民投票に付された「相続税イニシアチブ」にも当てはまるかもしれない。社会民主党青年部(JUSO)が提起したイニシアチブ(国民発議)で、5000万フランを超える相続財産に50%の税金を課す内容だった。

30日の投票では有権者の78%が反対票を投じ、否決された。だがイニシアチブの内容は国外でも大きく報じられ、世界中の脱税者の避難先とみなされているスイスでさえ富裕層に対する憤りが広がっている、という印象を与えた。

投票結果はスイスの租税回避地としての看板をどれだけ傷つけるのか?今後相続税をめぐる議論が再燃する可能性はもうないのか?スイスには連邦レベルの相続税はないが、州や自治体が課す相続税は経済協力開発機構(OECD)諸国並みに低く、一部の州では子への相続は非課税とされている(概要はこちら)。

スイスインフォはこうした質問をスイスの代表的な税務専門家に投げかけ、明確な回答を得た。

「出国した顧客も」

イニシアチブがもたらした最大の損害は、既に帳消しになった。この点について、スイスインフォが取材した専門家の意見は一致する。

相続税をめぐる議論や、提案が一時的に実施されるかもしれないという状況は、国外に住む富裕層を不安にさせ、スイス移住を思いとどまらせている。

だがチューリヒ大学のフロリアン・ショイアー教授(経済学)が言うように、多くの超富裕層が予防的にスイスを離れた可能性は低い。

ローザンヌ大学のマリウス・ブリュルハルト教授(経済学)も同様の見解だ。移住件数に関するデータはないものの、連邦内閣(政府)はイニシアチブが可決されれば施行までにスイスを離国する時間はまだあると明言した。それは政府の抱く最大の懸念を吐露したものだった。

コンサルティング会社PwCスイスの税務専門家、ユルグ・ニーダーバッハー氏の見解はやや異なり、「国を離れた顧客もいる」と話す。イニシアチブの議論をきっかけに代替案を吟味するようになり、資産税のあるスイスは税制面で必ずしも他国より優遇されているわけではないことに気づいたという。

とはいえ、公に出国した者はほぼいなかった。ジュネーブのプライベートバンク、ピクテの共同オーナーであるルノー・デ・プランタ氏がイタリアに移住外部リンクしたことくらいだろう。

スイスに対する猜疑心が今後もくすぶると思うか、という質問に対しては否定的な見方が多い。投票では圧倒的多数で否決されたためだ。

ルツェルン大学のアンドレア・オペル教授(税法)は、スイスに対する信頼はあまり傷ついていないという見方だ。「スイスでは、政府がゲームのルールを一夜にして変えることはできない。決めるのは国民だ」。つまり、今回反対票が大多数を占めたことは、スイスが信頼性と法的確実性を重視していることを示す強いシグナルとなった。

相続税投票 2025年11月30日
「金持ちに課税せよ」という掛け声は、スイス国外でも聞かれている Keystone / Peter Klaunzer

「相続税をめぐる議論が再び起こるだろう」

オペル氏は、圧倒的な否決という投票結果により、連邦相続税に関する議論がしばらくはできなくなるとみる。「だが長期的にみれば、いずれ議論が再開するだろう」。だがスイスには資産税があり、相続税の前払いに近い機能を果たしていることを忘れてはならない、とくぎを刺す。

チューリヒ大のショイアー氏は、今回の否決により、当面はよりマイルドな課税案すら議論しにくくなるだろうとみる。「気候変動対策に限らず、例えば年金増額案なども新たな財源を必要としている。適度な相続税を課すことは、こうした課題に間違いなく貢献できたはずだ」

ローザンヌ大のブリュルハルト氏もほぼ同意見だが、反対票の多さを過大解釈すべきではない、とも指摘する。「税率があまりにも高く設定されたため、財政的なオウンゴールになる、最終的には税収が減少するとの懸念を呼んだ。だが税制がこのような逆説的な影響をもたらすことは非常に稀だ」

実際、投票に先立つ世論調査では、裕福な納税者を追い出すことになるという懸念が、イニシアチブに反対する主な理由であることが浮き彫りになった。

ショイアー氏と同様にブリュルハート氏も、年金の財源確保という文脈で相続税問題が再浮上する可能性があるとみる。「適度な相続税を課すことは、所属税控除の拡大や付加価値税(VAT)の引き上げよりも経済的な悪影響は少ないだろう」

PwCのニーダーバッハー氏は、資産税の引き下げは国民の支持を取り付けやすいと指摘する。結局のところ、相続は不労所得を優遇している。その点では、課税強化の必要性に理解を示す人は多いとみる。

ニーダーバッハ―氏の見解は、起業家のペーター・シュプーラー氏が投票前の論戦で発言したことにも共通する。同氏は資産税の減税とセットなら、相続税の適度な引き上げも受け入れると語った。

スイスでは、相続税の課税権は連邦政府ではなく州政府にある。3州を除くすべての州では、子への相続は非課税となっている。

社会民主党青年部(JUSO)が発議した相続税イニシアチブ(正式名称は「社会的な気候政策を目指して~課税を通じた公平な資金調達〈未来のためのイニシアチブ〉外部リンク)は、非課税限度額5000万フラン(約97億円)を超える相続財産に連邦税を課すことを求めた。税収は気候変動対策に充てると定めている。

実現すれば、約2500世帯が課税対象になると試算された。うち300世帯は1億フランを超える資産を保有し、イニシアチブの影響を最も強く受けるとされた。

イニシアチブの支持者たちは、超富裕層のライフスタイルは環境に不等な負担をかけており、その代償を払うべきだと主張した。

反対派は、高額納税者が国外に追い出されると警告した。さらに、スイスでは富が企業に縛られていることが多く、納税資金を捻出するために相続人が株式を売却して事業の支配権を手放さざるを得なくなると反論した。この2つの主張は有権者の共感を呼び、イニシアチブは大敗を喫した。

編集:Balz Rigendinger、独語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子

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