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スイス人が見る日本のポスター

『伊右衛門』永井一史  ( 2004年 ) 限定された要素を使って、最高のメッセージを伝えていると評価される日本のポスター. Nagai Kazufumi

「ジャパニーズ・ポスター・トゥデイ展」がチューリヒ・造形美術館で12月3日まで開催中だ。1915〜40年生まれのベテランと1955〜73年生まれの若手グラフィックデザイナーの過去15年間の作品を、大日本印刷が所有する作品の中から選んで展示している。

展覧会はミュンヘンからチューリヒを経て、フランクフルト、プラハなどを巡回する予定だ。チューリヒ・造形美術館は以前にも日本のポスターの展覧会「Kirei」を行い、好評を博した。

 展覧会場に入るとすぐ見えるのが、日本の雑誌でもよく見かけるペットボトルの緑茶の宣伝ポスター。古いたたずまいの茶店に掛かる暖簾 ( のれん ) が、印象的だ。商業用、社会的メッセージなど、レベルの高い多種多様な日本のポスターがチューリヒで鑑賞できる。

伝統とのかかわり

 チューリヒの展覧会は、日本から送られてきた150枚のポスターから、会場の大きさに合わせて100枚に絞り込んだ。選択したのは、学芸員のシンティア・ガブラニッチさん。日本のポスターは、技術、表現方法ともに最高だと評価する。

 ガブラニッチさんは、1961年生まれの永井一史の緑茶の 『伊右衛門』( 2004年 ) とその隣に展示されている1940年生まれの浅葉克己の西武セゾングループの下駄 ( 1988年 ) のポスターとを比べ「世代を超えて、しかも、今も昔も同じように日本の伝統的要素を扱っている」と伝統とのかかわり方が、スイス人とは違うことを指摘する。「スイスのデザイナーはほとんど、伝統など意識していないだろう」と言う。

 また、伝えたいことは最大限に伝わるが、表現方法は非常に集約されてシンプルということも、ヨーロッパ人にとって魅力的なのだという。それが、日本のポスターが神秘的であるとヨーロッパ人が思うことにもつながるようだ。例えばガブラニッチさんのお気に入りの一枚、勝井三雄の『Pleats Please-Issey Miyake』 ( 1997年 ) は、ファッションデザイナーの作品を単に紹介するポスターではなく、光のプラズマで布のようなものを表現しているのが「ベリー・ベリー・ベーシック 」であり、オリジナリティにあふれるのだという。

日本人は凝り性

 「このような光沢を表現できるのは日本の印刷技術が高いことの証明です」と勝井三雄のポスターを指す。一方で、田中一光の 『Man and writing-Japan 3』 ( 1995年 ) の浮世絵からイメージしたポスターを取り上げ、「和紙のような?暖かさのある紙の質を表現することもできる」とガブラニッチさん。

 「きっと、日本の印刷会社は、それぞれが得意とする技術を持っているのでしょう。それは、日本のグラフィックデザイナーが凝り性で、高い表現技術を求めるからでしょうね」とガブラニッチさんは言う。美しさ、完璧さを求めるといった点では、新鋭の野田凪 ( のだなぎ ) ( 1973年生まれ ) の『Laforet Spring』 ( 2005年 ) が「残虐さがあくまでも美的に捉えられているのがすばらしい」との評価だ。カラフルな花で形成された怪獣の腕に抱かれた金髪の女性が、口から赤い花びらの血を流しているという図案の百貨店の宣伝ポスターだ。

 この展覧会には特に多くの学生が訪れている。週末には狭い会場に数百人が詰めかけ、好調なスタートを切った。展覧会にあわせて、美術館のショップには茶筒や和風の名刺入れなど日本のグッズも特別販売している。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

Museum für Gestaltung Zürich
開館時間 
火〜木曜日 10〜20時 
金〜日曜日 10〜17時 
月曜日休館
毎火曜日18時30分からガイド付き案内あり

ジャパニーズ・ポスターズ・トゥデイ
過去15年間のポスター100枚を展示
8月30日〜12月3日まで
1915〜1940年生まれと1955〜1973年生まれの2世代のグラフィックデザイナーの作品を展示。
出展者は青葉益輝、勝井三男、福田繁雄、永井一正、野田凪など25人。
カタログ 28フラン ( 約2600円 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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